ファーストキス
静かなグラウンド。
月明かりだけが、照明の役割を果たしている。
グラウンドの隅にある、タイヤが積み重ねられた所に、
梅野が俯いて座っていた。
僕が梅野に近寄ると、足音で気付いたのか梅野は頭をあげる。
眼は泣いた後なのか、真っ赤になっていた。
梅野が泣いた所は今まで見た事がなかった。
『マネージャー、風邪ひくぞ。』
『私、マネージャー辞めたから・・・』
僕は梅野の横に座り、
『ふ~ん、俺は認めないよ。』
梅野は黙って見ている。
『マネージャーは梅野以外は考えられないしな。』
『なんで・・・』
梅野は泣き出した。
こんなに泣いた梅野を初めて見た。
『さて帰るぞ!家まで送るから』
僕はズボンの砂を掃い、梅野の手をとり立たせる。
『何でここだとわかったの?』
『1番最初に出会った場所だろ。ほんと探したんだぜ。
あちこち探して最後にこの場所に辿り着いた。』
『あちこちって?私を探したの?』
『当たり前だろ?おかげで明日は、今日の分まで練習だ。』
『部活休んだの?なんで?』
『梅野がいないサッカー部は淋しいだろ?』
梅野はまた泣き出した。今までには考えられないくらいに…
『心配かけてごめん。』
梅野は僕の胸に額を押し付けて言った。
『気にすんな。梅野が見つかったから、それだけでいい。』
『ありがとう・・・』
梅野は顔をあげ、僕の顔に近づいて言う。
僕と梅野は静かなグラウンドの隅でキスをした。
梅野にとっても、もちろん僕にとっても初めてのキス。
もちろんキスの味は、涙の味がした。
何分キスしただろう、僕にとっては長くキスした感じだった。
僕は梅野を家まで送り、家路に着いた。
長い一日が終わった。




