番外 戦群れの長
獣人は、誤解されている。
その容貌から、獣並みの知恵しかない、人型になった獣というのが世間の見方だ。
だが、それと対峙する者は、人並みの知恵と獣の体躯を持った恐るべき敵だと答えるだろう。
欠けた大角を持つ、一匹の獣人がいる。
体つきこそ、牛鬼には遠く及ばぬものの、並みの大角より一回り大きい。
彼こそ、この戦群れの長だ。
その名を、獣の嘶きから翻訳するとすれば、『偉大なる戦士にして、緑の月に血を満たす者』位になるだろう。
轟音、と獣長が吼える。
長く重いその咆哮は、周囲の獣群れを呼び寄せる合図だ。
しばらくたって、各地から同じような咆哮が湧き上がる。
獣長に従うべく、この地に獣群れが集まってきているのだ。
それに満足することなく、むしろ苛立つ様に獣長は手にした石斧を近くの巨木に打ち据える。
その一撃で石斧は半ばまで幹に埋まり、巨木が枝葉を震わす。
二撃目を待たず、巨木は折れて大地に倒れこみ、獣長の自尊心を満足させる。
しかし、獣長は満たされない。
彼は飢えていた。
戦いに飢えていた。
命を削りあう死闘を求めていた。
もはや、周囲の獣人は彼に挑むことなく、近寄るだけで頭を垂れる。
牛鬼でさえも、機嫌を伺う始末だ。
同族に敵が居ない今、彼は次の獲物を人間の町に決めた。
人間は力や速さでは劣るくせに、小賢しい技術でそれを補う、興味深い獲物だ。
一人で獣群れを壊滅させるような、規格外が生まれやすいのも人間種の興味深い特徴のひとつだ。
よし、今日の晩飯は焼き人にしよう。
獣長の咆哮が、戦いの幕開けを告げる。




