刃の誓い
ミズナはリュートが傭兵団に従軍する事を知り、泣く事も喚く事もせず、できることを考えた。
「というわけで、新しい従軍婦見習いのミズナちゃんだ。新入りに殺されたくなかったら手は出すなよ」
庸兵団長アヴァンの紹介に団員が下品な笑いを返す。
少女は赤面したが、少年はいつもの笑みを浮かべていた。
「なんで来たか、とかって聞かないんだね」
紹介が終わって、ミズナはリュートと二人で兵舎の周りを歩いていた。
少年の拘留から略式裁判を経て、庸兵団に連行されたのは三日前。
その事を知り、兵舎に押しかけて門前払いを食うこと二日。
先日、見かねたアヴァン庸兵団所属の従軍婦イリアナに拾われ、彼女の口利きでやっと少年と再開できたのだ。
「ミズナは僕と違って、ちゃんと考えてるから」
裏のない笑みで、少年は答える。
「きっと、それがミズナにとって一番いいことだと思う」
ただ、一緒に居たかっただけ。
それが、ミズナの理由。
それを知ってか、……いや恐らくは知らずに少年は答える。
しかし、それでも少年の答えは、少女の心を弾ませる。
きっと、別れは間もなく、残酷な形で現れるだろう。
それでも、それだから、それまでは一時の幸せに浸っていたい。
それは少年と少女の、ささやかな望みだった。
しかし、それはアヴァン庸兵団に出動の命令がかかり、儚くも砕け散る。
ユノの町周辺に、獣人が集結しているという情報がもたらされたからだ。
獣人は、少数で活動することが多い。
多くても十数人の群れだ。
しかし、稀に強力な固体が出現し、幾つもの群れを纏め上げ、巨大な戦群れを作ることがある。
そうなったが最後、戦群れは周囲の文明を破壊しつくす。
戦群れに飲まれ、滅びた国々は古来より大小いくつもあり、今も伝承にその名を残している。
「情報によれば、まだ戦群れと呼べるほどの大群ではないらしい」
アヴァンが周囲の地図を広げ、仲間と作戦を練っている。
「どれくらいだ?」
「少なく見積もって、群れが4つ」
「角無しはいいが、大角の数は把握しておきたいな」
「牛鬼は3匹確認されている」
「それ、ヤバイだろ……」
「他の部隊と連携するしかない」
「増援は時間がかかるが、時間がたてば敵も増えるぞ」
議論は白熱し、だれもが大声で喚く様な有様だ。
現在当てにできる戦力は、アヴァン庸兵団の他に、銀の牙庸兵団と栄光の軍旗団の三部隊。
ユノの町は防衛に当たるためといって、正規兵を出していない。
結局のところ、庸兵というのは使い捨てが聞く代物である。
それが世間の評価だ。
しかしそれを責める資格は彼らにない。
承知と覚悟の上で、金のために動くのが庸兵の流儀。
さりとて、彼らとて無駄死には絶対にしたくない。
故に、精密に、繊細にそして大胆に、豪快に作戦を立てる。
名誉の戦死、という言葉ほど庸兵が嫌うものは無い。
戦いに名誉は無く、死に意味など無い。
仲間を、己を守るために、必勝の策を練る。
だから作戦会議が白熱するのは必然。
少年と少女は、その輪に加わることもできず、壁際で作戦会議を眺める。
「やっぱり、一緒にいてよかったな……」
最後まで、一緒に居たかったから。
その言葉は、少年にさえぎられる。
「ミズナは僕が守るよ」
浮かべるのは、いつもの笑み。
「この刃に誓って」
そう言って少年は魔剣・先走りを少女に掲げる。
それは古来より騎士がその名誉を、誇りを、命を捧げるという証。
ミズナは驚き、呆れ、そして笑った。
「ばーか。そんなことしてる時じゃないでしょ。そんな仕草、どこで覚えたのよ」
「自称元貴族のロルフットが、女にこれを言えばイチコロだって教えてくれたんだ」
「リュート、意味わかってやってる?」
少年は、あいまいな笑みをそれに返す。
「それじゃ、絶対に守ってね、私の騎士様」
ミズナは少年に抱きつくと、その頬にそっと唇を寄せた。




