罰、そして得た物
「お前さんが新入り、ね」
無精髭の男は溜息をつきながら頭を掻く。
年は30絡み、だらしの無い風体をしている。
しかしリュートは魔剣を通じて、その男が油断なく間合いを避けているのに気づいた。
今、少年が居る場所は兵舎の一角。
数人の厳つい男たちの好奇の眼差しを受けている。
「資料は読んだ。魔剣に憑かれてるんだってな」
少年はその問いに頷く。
「イムス村の獣人も退治したそうだが……。しかし、街中で刃物を振り回すのはよくねぇな」
リュートは町でチンピラを斬った後、衛兵に捕らえられた。
司法官の取調べを受けた後、受けた判決は従軍奉仕。
剣を抜いたのは相手が先であるから、正当防衛が成り立つ余地もあった。
しかし今、ユノの街は近隣を獣人に荒らされ、人的、金銭的被害が甚大であり、獣人に対抗する戦力を欲していた。
故に、少年は従軍奉仕という罰を受けたのだ。
少年の配属先は、アヴァン傭兵団。
人数こそ少ないが、戦果は悪くない。
与えられた役割は、街の外の獣人を探して倒すこと。
それは当然、山脈や森林地帯に踏み込むことになる。
傭兵団の契約は、獣人首ひとつにつき銀貨30枚の交換。
一人なら一週間は楽に暮らせる額だが、奉仕義務の少年に取り分はない。
「ま、早い話が厄介払いか」
傭兵団長、アヴァンは大きく溜息をつく。
新人を入れた事で、ユノの町が契約金を渋るのを懸念したのだ。
街の危機だといっても、為政者はまず金を数える。
「まあ、事務はビルンに任せるとして。リュート、腕前を見せてもらうぜ」
アヴァンは刃を潰した剣を少年に渡すと、自分も訓練用の剣を手に取りかかって来るように促す。
リュートは手にした剣の重さに戸惑った。
先走りはまるで体の一部のように違和感無く振るえる。
しかし手にした剣は重く、振ることさえ困難に思えた。
少年は剣を振りかざし、傭兵団長に切りかかる。
「なんだ、そりゃ?」
アヴァンは目を疑った。
少年の技量が一目で素人とわかったからだ。
二撃、三撃と剣を避けるうちに、呆れや怒りを通り越して笑い出す。
「おい、リュート。そんなんでよく腕を切断できたな。それじゃ野菜も切れないぜ」
その言葉とともに、柄頭で少年の剣を叩き落とす。
骨というのは硬い。
十分な速度と重さに加え、刃筋が通っていなければ切断は難しい。
素人が剣を振り回しても、骨まで達せず筋肉でとまるか、よくて骨で滑るかだ。
痺れる手を押さえ、引きつった笑みでリュートは言葉をつむぐ。
「これを使えれば、負けない」
それは無論、魔剣先走りの事だ。
傭兵団長は負け惜しみとは思わない。
少年の持つ刀はからは、異様な気配を感じていたからだ。
「よし、抜きな」
「途中で止められませんよ」
「やれるもんなら試してみな」
少年の動作は思考を超えて、居合い抜きとなって完了していた。
ほっ、と傭兵団長が感嘆の声を上げる。
団長はその一撃を紙一重で避けていた。
避けられたことを認識する間もなく、少年の無意識の斬撃は続く。
上下左右から無数に繰り出されるその斬撃はしかし、どれも弾かれ、流され、避けられる。
決着までの時間は、さしてかからなかった。
少年の体が、糸の切れた操り人形のように倒れこんだのだ。
なんで、とリュートは霞む思考で考える。
魔剣先走りは、思考と行動を直結させる。
その行動の起こりは、最速。
それには絶対の自信と信頼があった。
「まあ、確かに初動は早い。だがそれだけだ」
アヴァンは少年に、バケツの水をぶっ掛けて、言葉を続ける。
「意即体は、確かに達人の技。だが、それを使いこなすには、鍛えられた体と、研ぎ澄まされた精神……、知識や経験が不可欠だ」
少年に見せるように剣を構え、流れるような動作で斬撃を繋げていく。
「体がついていかなければ、1分と持たずに剣は振れなくなる」
次に見せたのは、相手の攻撃を受け流し、反撃する動作。
「お前さんは剣を振っていたが、実のところ俺に誘導されていた。剣を降らされていたんだよ」
その動作を、少年は食い入るように見つめ、考え、理解する。
「わざと隙を作って、そこを狙わせたんですね」
その返事には、唇の端をゆがめた笑み。
「それが分かれば上等だ。死ななければ、それなりの腕にはなるぜ」
少年は返事に困り、結局いつもの曖昧な笑みを浮かべた。
「アヴァン傭兵団はリュートを歓迎する!」
団長の宣言にリュートは思った。
帰る場所ができたと。




