街にて
少年は、少女と共に歩みを進める。
交わす言葉は少なく、しかし希望に満ちている。
山道を抜け、整備された道に出ると目指すユノの街は間近だ。
ユノの街は交易路沿いにある中継地で、街の名にふさわしい防壁に守られている。
商業が活発で景気がよく、人も多い。
街を守る守衛は規律正しく、治安がいい。
現実の街は、記憶の中とは正反対だった。
薄汚れた防壁は所々に亀裂が走り、補修される様子もない。
道に並ぶ商店には品物が少なく、活気もない。
守衛たちは昼間だというのに、酒におぼれている。
どこか張り詰めた、剣呑な雰囲気が街を支配していた。
「なんか、雰囲気変わったね……」
ミズナが少年に耳打ちする。
確かにおかしな事ばかりだ。
町の入り口を守る門番は張り詰めた雰囲気を纏っていたが、ろくな審査も無かった。
おかげで助かったものの、中はこの有様だ。
「リュート待ってて、ちょっと聞いてくるから」
少女は少年を待たせ、通りがかった年配の女性と話し始める。
女性の会話は長い。
脈絡も無い話が続き、いつの間にか話題が変わる。
待っているだけの少年にとっては退屈極まりない。
抜けぬ疲労もあって、つい舟を漕いでしまうのも仕方の無いことだった。
「いやっ、やめてっ!」
そんなミズナの悲鳴で少年はまどろみの縁から引き起こされる。
見れば少女が3人の柄の悪い男たちに囲まれていた。
「なあ、そんな事言わずに俺たちと遊ぼうぜ」
「いい思いさせてやるからよ」
まったく、くだらない。
ミズナはため息と苦笑を堪えるのに精一杯の自制心を働かさないといけなかった。
まるで、三下の小悪党みたい。
もしかしてワザとやってて、特殊なプレイってやつなのかしら?
そんな態度を感じたのか、男の一人がミズナの腕に手をかける。
「やめてもらえませんか」
割って入ったのは、薄い笑みを浮かべた少年。
男たちは無意識に後ずさった。
得体の知れない恐怖を少年に感じたからだ。
薄い笑みは本心を隠す。
理解されない故の恐怖を纏う。
「おい、もう行こうぜ」
チンピラの一人が仲間に促すが、それが裏目に出た。
恐らくは仲間の手前、強気の態度を見せたかったのだろう。
男は腰に帯びた剣を抜くと、少年に見せ付ける。
「なんだ、正義の味方気取りか? 餓鬼が痛い目を見たくなけれりゃすぐに消えろ」
ミズナは呆れるのを通り越して感動しつつあった。
ここまでお約束な台詞を吐けるなんて、ある意味大物だ。
自分の台詞に酔ったのか、男は続ける。
「なあ、それともその腰の立派な刀で遣り合おうってか?」
男達がそれに嘲笑を合わせる。
魔剣・先走りはお世辞にも綺麗とはいい難い繕いをしている。
あせた色の鞘には錆が浮かび、柄巻きは解れている。
鍔に至っては欠けている始末だ。
少年、リュートの中で何かが蠢く。
身じろぐリュートをみて、勘違いした男が過ちを犯した。
刃を向けたのだ。
「少し遊んでやろう、か……、え?」
最後の疑問符は、自分の手が腕と別れたのを理解できなかった故。
男が見たのは、刀に付いた血を振り払うリュートの姿。
「俺の、俺の手がっ!」
錆付いた笑みを浮かべる少年は、問う。
「やめませんか」
一歩踏み出す。
その手には、血に染まった刃。
笑っていないその瞳は、深く鋭い。
腕を切られた男の声が、やけに滑稽に響き渡る。
衛兵が来たのは、それから間もなくだった。




