表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

クリスマスの贈り物

作者: 天川ひつじ

クリスマスは嫌いだ。

いつも、サンタクロースが良い子だけにプレゼントを贈るのを、見なくちゃならなかった。


***


「へぇ、そうなんだ」

と、隣の知らないオバサンが間の抜けた返事をした。


「そうなんですよ」

イライラとして酒をグィと飲んだ。

クリスマスイブというのに日本酒。そして焼き鳥屋。今年もか。今年も独りか。


「それ、一度も貰ってないの?」

「そう。なんだかんだ、あれが出来てない、これがダメだ、って、悪い子判定。夢より現実を見せられて、こんな大人になっちまいましたよ!」

「あ、実家、神社か寺とか?」

「違いま、すー!!」

「ふぅん」

オバサンもカウンター席で熱燗を独り飲んでいる。同じ境遇だろう。


「何を貰いたかったの?」

「え、そんなの、子どもだから、欲しいおもちゃとか色々ありましたよ。でもさぁ、もうそんなのじゃなくて」

言葉を切った。

「そーいうのより、なんか、自分は悪い子なんだ、って、見せ付けられるのが苦痛だった」

「そーか。そーだねぇ」

「チッ。サンタなんて誰が言い出したんだか・・・」


「自分で、自分にプレゼントしたら? 今からでも」

「はぁ!?」

気分を害した。隣の酔っ払いオバサンを、軽くにらんだ。

「そんなの意味ねーし! 逆にサムイだけだし!」


酔っ払いオバサンは軽く肩をすくめた。

「ダメか」

「当たり前」


「あのね、若者よ。いいこと、良くお聞き」

「はぁ?」

「苦労したなら、その分良いことが、後にたくさんやってくるのカモよ」

「ちょっとー!! せめて、断定してくれます!? 超、夢が無いし!」


****


淋しい若者が店を出て行った。

熱燗を飲みながら、彼はいつ気付くだろうと考える。


たまたま、今日の昼に会っていた友人が、旅先の写真を見せてくれて、気に入ったのを数枚くれた。

たまたま、その友人とぶらぶらした夕方、気に入ったカードを、自分用にと買っていた。


クリスマスイブ。

彼氏の働く店に飲みに来た。

店に、珍しい過去を持つ若者が来た。飲んで愚痴って帰っていった。




 名前も知らないキミへ。

 キミは知らないだろうケド、サンタクロースは確かにいないのかもしれないのだケド。

 だからこそ、誰もがサンタクロースを名乗れたりする。




彼はいつ気がつくだろうか。

少し嬉しがってくれたら良いけれど。


それとも、余計な思い出をクリスマスに追加してしまうだろうか。


その場合は仕方ない。

私はニセモノのサンタだもの。


本当のサンタクロースが、いつかキミを見つけ出しますように。


*****


十月。

ようやくそれが何か確認した。


コートのポケットに何か入っていることは何度と無く気がついたが、気がつきながら確認しないまま、忘れる―をエンエンと繰り返して、暖かく春になり夏になり秋になり…。


今。


肌寒さに冬を思い出し、防寒着― コートを思い出し、そういや放置してたような、冬に着れる状態なのか、ひょっとしてクリーニングとか必要か…と、探しだしてみて、そうしてやっと思い出した。


ポケット、何かが入りっぱなしだ。


小さめの茶封筒。表裏、何も書いていない。


何だっけ?


一箇所のみで留めてある封を、カピっと開けた。


数枚の写真。ヤシの木。夕焼け。


なんだこれ、見たこと無い。きれいだけどあまり興味は無い。

しかも折れまくり。それは自分のせいだけど。



一枚のカード。

シュークリームの上に赤いイチゴ。シューに顔が描いてあって「Merry X'mas!」


は?


カードを裏返すと女の書いたような文字でメッセージが書かれていた。黒色ボールペン。


『はじめまして。

 サンタクロースです。

 クリスマスプレゼントです。

 どうぞこれから新しい良い思い出を。


 20XX.12 24.』





「…………」

去年のクリスマス、何をしていたっけ、と思い返す。意外と思い出せる、さすが俺。


この日は、一日ゲームして晩は焼き鳥を食いに行った。

知らないオバサンとクリスマスの話をした。


可能性として、これは、オバサンという事実しか-顔なんてさっぱり不明の、オバサンからのプレゼント。


いつ、コートに入れたんだろう。トイレに立った時にでも入れたんだろうかな。


オバサン、悪い。

こっぱずかしい。むしろ若干気味が悪い。


っていうか。

さすが酔っ払いのやることっていうか。


でも。そんなモノなのに。

捨てられないっていう事実。どうして、なんでなんだ。


こっそり本に閉じて隠してしまう。俺、どんだけガキなんだ。

誰かに存在を知られたくない。でも捨ててしまうって、それができない。隠す。隠すしか、ない。



俺のクリスマス、遅すぎ。



棚に戻した本の背表紙を見てる自分が恥ずかしい。

目をそらせつつ。

思う。


酔っ払ってても、おばさんには分かったんだろうか。それがオトナってやつだろうか。


手に入れたのは 新しい『オモイデ』。

結局のところ一番憧れ続けた贈り物。


なんか、ガンバローとか。まるで子どもみたいに、思った。

※『サンタクロース』のためにR15指定。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ