クリスマスの贈り物
クリスマスは嫌いだ。
いつも、サンタクロースが良い子だけにプレゼントを贈るのを、見なくちゃならなかった。
***
「へぇ、そうなんだ」
と、隣の知らないオバサンが間の抜けた返事をした。
「そうなんですよ」
イライラとして酒をグィと飲んだ。
クリスマスイブというのに日本酒。そして焼き鳥屋。今年もか。今年も独りか。
「それ、一度も貰ってないの?」
「そう。なんだかんだ、あれが出来てない、これがダメだ、って、悪い子判定。夢より現実を見せられて、こんな大人になっちまいましたよ!」
「あ、実家、神社か寺とか?」
「違いま、すー!!」
「ふぅん」
オバサンもカウンター席で熱燗を独り飲んでいる。同じ境遇だろう。
「何を貰いたかったの?」
「え、そんなの、子どもだから、欲しいおもちゃとか色々ありましたよ。でもさぁ、もうそんなのじゃなくて」
言葉を切った。
「そーいうのより、なんか、自分は悪い子なんだ、って、見せ付けられるのが苦痛だった」
「そーか。そーだねぇ」
「チッ。サンタなんて誰が言い出したんだか・・・」
「自分で、自分にプレゼントしたら? 今からでも」
「はぁ!?」
気分を害した。隣の酔っ払いオバサンを、軽くにらんだ。
「そんなの意味ねーし! 逆にサムイだけだし!」
酔っ払いオバサンは軽く肩をすくめた。
「ダメか」
「当たり前」
「あのね、若者よ。いいこと、良くお聞き」
「はぁ?」
「苦労したなら、その分良いことが、後にたくさんやってくるのカモよ」
「ちょっとー!! せめて、断定してくれます!? 超、夢が無いし!」
****
淋しい若者が店を出て行った。
熱燗を飲みながら、彼はいつ気付くだろうと考える。
たまたま、今日の昼に会っていた友人が、旅先の写真を見せてくれて、気に入ったのを数枚くれた。
たまたま、その友人とぶらぶらした夕方、気に入ったカードを、自分用にと買っていた。
クリスマスイブ。
彼氏の働く店に飲みに来た。
店に、珍しい過去を持つ若者が来た。飲んで愚痴って帰っていった。
名前も知らないキミへ。
キミは知らないだろうケド、サンタクロースは確かにいないのかもしれないのだケド。
だからこそ、誰もがサンタクロースを名乗れたりする。
彼はいつ気がつくだろうか。
少し嬉しがってくれたら良いけれど。
それとも、余計な思い出をクリスマスに追加してしまうだろうか。
その場合は仕方ない。
私はニセモノのサンタだもの。
本当のサンタクロースが、いつかキミを見つけ出しますように。
*****
十月。
ようやくそれが何か確認した。
コートのポケットに何か入っていることは何度と無く気がついたが、気がつきながら確認しないまま、忘れる―をエンエンと繰り返して、暖かく春になり夏になり秋になり…。
今。
肌寒さに冬を思い出し、防寒着― コートを思い出し、そういや放置してたような、冬に着れる状態なのか、ひょっとしてクリーニングとか必要か…と、探しだしてみて、そうしてやっと思い出した。
ポケット、何かが入りっぱなしだ。
小さめの茶封筒。表裏、何も書いていない。
何だっけ?
一箇所のみで留めてある封を、カピっと開けた。
数枚の写真。ヤシの木。夕焼け。
なんだこれ、見たこと無い。きれいだけどあまり興味は無い。
しかも折れまくり。それは自分のせいだけど。
一枚のカード。
シュークリームの上に赤いイチゴ。シューに顔が描いてあって「Merry X'mas!」
は?
カードを裏返すと女の書いたような文字でメッセージが書かれていた。黒色ボールペン。
『はじめまして。
サンタクロースです。
クリスマスプレゼントです。
どうぞこれから新しい良い思い出を。
20XX.12 24.』
「…………」
去年のクリスマス、何をしていたっけ、と思い返す。意外と思い出せる、さすが俺。
この日は、一日ゲームして晩は焼き鳥を食いに行った。
知らないオバサンとクリスマスの話をした。
可能性として、これは、オバサンという事実しか-顔なんてさっぱり不明の、オバサンからのプレゼント。
いつ、コートに入れたんだろう。トイレに立った時にでも入れたんだろうかな。
オバサン、悪い。
こっぱずかしい。むしろ若干気味が悪い。
っていうか。
さすが酔っ払いのやることっていうか。
でも。そんなモノなのに。
捨てられないっていう事実。どうして、なんでなんだ。
こっそり本に閉じて隠してしまう。俺、どんだけガキなんだ。
誰かに存在を知られたくない。でも捨ててしまうって、それができない。隠す。隠すしか、ない。
俺のクリスマス、遅すぎ。
棚に戻した本の背表紙を見てる自分が恥ずかしい。
目をそらせつつ。
思う。
酔っ払ってても、おばさんには分かったんだろうか。それがオトナってやつだろうか。
手に入れたのは 新しい『オモイデ』。
結局のところ一番憧れ続けた贈り物。
なんか、ガンバローとか。まるで子どもみたいに、思った。
※『サンタクロース』のためにR15指定。