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君が好きだから嘘をつく  作者: 穂高胡桃
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2人の休日 ②

コーヒーを口にして健吾を見ると目があった。少し微笑んで私の隣に座ると、またタバコを1口吸って海を見つめる。

その横顔が綺麗でそのまま私の視線が止まる。


「楓さ。彼氏つくらないの?」


海を見つめながら話す健吾に心臓がギュっとなって体が固まった。一番話したくない話題なのに。

もうそのまま健吾を見ていられなくて視線を砂浜に移した。顔が沈んで海を見るほど上げられない。

さっきよりも風が強くなって髪をなびかせた。


「彼氏かぁ・・・」


なんとかいつも通りの私の言葉が出るように小さく息を吸った。


「うん。今のナンパは別にしても、楓は想ってくれる人も出会いもちゃんとあるだろ?俺はもったいないと思うけどな。周りだって恋で浮かれたり、悩んだり、結婚して幸せになってるだろう。楓もちゃんと幸せになって欲しいって思うからさ」


健吾の口から風に流されるタバコの煙を見つめながら視線を空に移す。

いつの間にか空は雲で覆われていた。私の心にも陰を落とす。

視線を海に移すと、あれだけキラキラしていた海も今は輝きを失っている。


「彼氏つくったほうがいいかな?」


その言葉で健吾が私の顔を見た気配を感じた。でも私はそのまま視線を動かさない。


「うん。せっかくいい出会いがあるなら幸せになりたいと思わないか?」


「そうだよね。この年なら彼氏くらいはいないとね。でもね、一緒に食事に行ったり、飲みに行ったり、悩んだら相談したり慰めてもらったり、どこか一緒にお出かけしたりしてさ。こうやって行きたいって思ってた海に連れて行ってくれる人が私の周りにはいてくれるから、私にはそれが幸せなの。それに、私は自分で好きって思う人と付き合いたい。たとえいい出会いがあっても自分の好きな人じゃなきゃダメなの。でもちゃんと自分の幸せも考えるよ」


ここまで言ってやっと健吾の顔が見れた。

海から健吾に視線を移すと目が合って、一瞬時が止まる。

フッと健吾は笑顔になると、コーヒーを手にしてグッと飲んでまた海を見た。


「そっか、そうだよな。俺も楓に幸せになって欲しいと思っているけど誰でもいいわけじゃないよ。俺だってこうやって楓と海に来れるのは楽しいし。彼氏がいたら食事でも飲みにでも簡単に誘えないしな。でも、楓の幸せは本当に願っているよ。さっきみたいにナンパされる楓を見ると、心配っていうか気になってさ。何か変なこと言ってごめんな」


「ううん、ありがとう。嬉しかった」


笑いながらも恥ずかしそうに照れている健吾に、私も素直になれた。

結局私達は友達なんだと感じたけど、私の幸せを思ってくれている健吾の気持ちが素直に嬉しい。


「何か寒くなってきたな。天気もイマイチだしそろそろ行くか」


「うん」


風も強くなり薄着で来た肌を冷やした。やっぱりコートを持ってくればよかったな。

バッグを持ち、歩きにくい砂浜じゃなく階段を上り車目指して歩道を歩いた。

すっかり輝きを失った海だけど、歩きながら見る景色はいい。

その時、ポツリと顔に雫を感じた。


「雨だ!」


「降ってきちゃったな。楓急ごう!」


健吾がバッグを持ってくれて2人で軽く走り出すと、あっという間にポツリポツリと降りだして、車にたどり着いた頃には服も濡れてしまった。

キーで開けてくれて急いで車に乗る。バッグを受け取り砂浜で足を拭いたタオルとは違うフェイスタオルを取り出し健吾に差し出す。


「海で濡れるかと思って持ってきたの。健吾使って」


「バカ!まず自分のこと乾かせよ、風邪ひくぞ」


呆れた口調でタオルを受け取ると、私の頭にかけてワシワシと拭いてきた。

思いがけない行動に私は固まった・・・簡単に拭くと私の顔を覗き込んでくる。


「大丈夫か?」


「うん、うん大丈夫。健吾も早く乾かして」


「わかった。まさか雨が降るとは思わなかったな。もう少し近くに車停めればよかったな、悪い」


話しながらガシガシと乱暴に自分の髪を拭いている。そんな姿を横目で眺める。

髪が乱れても愛おしいなぁ。


「そんなことないよ。海を見ているうちに楽しくて、どんどん歩き出したの私だもん。ごめんね」


「雨に濡れて寒いだろ」


話しながら健吾は後部座席を見ると、着ていたパーカーと半袖のTシャツを脱いで上半身裸になった。


「何!どしたの?」


驚いた私に着ていたTシャツを差し出した。


「着替えがあればよかったのに、着ていたやつでゴメン。でもパーカーが厚手で濡れていないから」


「え!大丈夫だよ。タオルで拭けば。濡れていないなら健吾が着て!裸ってわけにいかないでしょう、家に帰るのだから」


私も両手で押し返す。


「いいから着替えろ。ブラウス濡れてそのまま着ているわけにいかないし、脱いでコート直に着るのもなんだろ。とりあえず、これ我慢して着ておけよ。俺はジャケットあるから大丈夫、ほら後ろで着替えて来い」


そう言って私の手にTシャツをのせて、自分はダウンジャケットを着て携帯を操作し始める。

そしてエンジンをかけてエアコンをつけ、オーディオのボリュームを少し上げた。

きっと私が後部座席で気にせず着替えられるようにだ。

戸惑ったけど、後ろに移り着替えることにした。

手にしたTシャツに健吾の体温を感じて、なんだかすごく恥ずかしい。これ・・・着るの?

たまらなくドキドキしたけど、やっぱり濡れたブラウスと下着が気持ち悪くて、健吾のシャツとコートに着替えた。

でもやっぱり恥ずかしくて助手席に戻りオーディオのボリュームを戻して、照れ隠しに健吾に向かって


「Tシャツに人肌のぬくもり残ってる・・・何かエロイ」


って呟いたら健吾の目が点になった。


「そうゆうこと言うなバカ!」


呆れた顔で前を向くと、携帯をポケットに入れる。


「寒くないか?急いで帰るからな」


「うん、大丈夫。シャツごめんね、ありがとう」


健吾は優しい顔で微笑むと、車を発車させた。

雨はそんなに強く降らず、また景色を楽しみながらドライブの帰り道になった。

週末の為帰り道も混雑してアパートに着くのに時間がかかってしまった。


「雨に濡れたし、お風呂かシャワー浴びてお茶していく?」


「う~ん、微妙な格好だしな。楓も早く風呂入って温まったほうがいいよ。俺も今日は帰るよ、ありがとな。またどこか行こうな」


「うん、こっちこそ今日はいろいろとありがとうね。Tシャツ後で返すね」


「わかった。じゃあ、また月曜日な」


「ばいばい」


そのまま健吾を見送ってから部屋に帰った。

今までなら出かけた後は必ず部屋に寄ってお茶していくか、そのまま雑魚寝で泊まっていったのに、寄らずに帰ったのは雨に濡れたことだけじゃなく、やっぱり伊東さんのこともあるからかな?

久しぶりのお出かけすごく楽しかったけど、少し寂しい。


あ~、早くシャワー浴びて温まろう。


でも、エロイって言っちゃったけど健吾のぬくもりのあるTシャツ、やっぱり嬉しかった。

言えないけどね。


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