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君が好きだから嘘をつく  作者: 穂高胡桃
8/60

2人の休日 ①

ーおはよう、着いたよー


健吾のお迎えコールで急いで荷物を持って外に出る。

約束の10時より少し早く着いた健吾は、車のドアの前に立って笑っている。


「おはよう、ありがとうね」


「何か久しぶりだな。じゃあ行くか」


「うん!」


助手席に座るとやっぱり健吾との距離が近く感じられて嬉しい。

車の中はタバコの匂いがして、それすらも愛おしかった。これが他の人のものだったら不快を感じてしまう。やっぱり特別なんだ。


「朝メシ食べてきた?」


運転しながらこっちに視線をよこす。


「うん、軽くね」


「そっか。俺タバコ買いたいからコンビ二寄っていい?」


「いいよ。私も飲み物買いたい」


5分程走ったところでコンビニに着き車を停めた。

2人で店内に入りお互いに飲み物を選ぶと、健吾は私のミルクティを手にする。


「あとは?何か買いたい物ある?」


「ううん、大丈夫」


私の返事を聞くとレジに行きタバコと一緒に会計を済ませた。


「ありがとう」


「うん、俺一本吸っていくから楓は先に車に乗っていて」


「わかった」


車のキーを受け取ってまた助手席に座ったところでスマートフォンの着信音が鳴った。

バッグから取り出して見てみれば、表示されているのは咲季先輩の名前。


「もしもし」


「あ、楓おはよう。今日暇かな?暇だったら新しくできたショッピングモールでも行かない?」


そうだ!咲季先輩に健吾と海行くってまだ言ってなかったんだ。せっかく誘ってくれたのに、先輩ゴメン!


「咲季先輩ごめんなさい!言い忘れちゃったのだけど、今健吾と海に行くところなんです」


「えっ!そうなの?いいよ、いいよ。また今度誘うからさ。それよりもよかったじゃない~楽しんで来るんだよ」


咲季先輩と話していると健吾が戻ってきた。


「悪い、待たせたな」


その声が聞こえたのだろう


「ちょっと山中くんに代わって」


咲季先輩が楽しそうに言う。また何言うのかな、からかうのは間違いないと思い健吾に心でゴメンと思いながらスマートフォンを渡す。


「健吾、電話」


「え?誰?」


「咲季先輩」


突然渡され健吾は戸惑いながらも受け取り耳にあてている。


「もしもし、おはようございます・・・」


やっぱり不意打ちで驚いたのだろう。言葉がたどたどしい。


「はい・・・いや、すいません。はい、じゃあ今度・・・はい、行って来ます」


健吾の困った顔を見て咲季先輩がからかっているのが分かる。健吾からスマートフォンを受け取ってもう一度電話に出ると咲季先輩はやっぱり楽しそうな声だった。


「もしもし」


「あ~楓?山中くんに、何で私も誘わないの?次は連れて行ってよってからかっちゃったから謝っておいて、冗談よって。でもさ楓、本当に楽しんできてね。あまり長話しても悪いからまた月曜日!行ってらっしゃい」


「行ってきます」


電話を切るとすぐに健吾に咲季先輩のメッセージを伝えた。


「からかってゴメンネだって」


「ああ、今井さんも行きたいって言っていたから今度みんなでどこか行くか」


「そうだね、楽しそう」


2人で笑ったところでまだ車を出発していないことに気付いた。


「ごめんね。電話待たせちゃったね」


「ああ、大丈夫だよ。じゃ!行くか」


そしてエンジンをかけると今度こそ海に向かって走り出した。

週末で道が混んでいたが、2人の会話は止まることなく車内に流れる音楽も心地いい位のボリュームに落としてあった。


「健吾、もう少しで海見えてくるよね」


「うん。この先に見えてくるよな」


「あ~楽しみ!久しぶりだよね~。いいなぁ、この辺に住んだらいつも海が見られるのね。将来海の近くに住もうかな」


「何言ってるんだよ。また適当なこと言って。それより海!見えてきたぞ」


健吾が言った通り広がる海の景色が見えてきた。青い波にキラキラと光る太陽の光が何よりも綺麗で、何もかもが感動だった。


「あ~!海だよ、健吾!海!すごーいいい景色。綺麗だね、健吾!」


「楓落ち着けって。でもやっぱり海はいいな」


「うん、海はいいよね。ほら潮の匂いがするよ」


「ほら、あんまり顔出すなよ危ないからさ」


もう嬉しくて止まらないよ。健吾も呆れているけどやっぱり嬉しそうだよね。それ位海が綺麗なんだもん。でもやっぱり私は健吾と一緒だからこの嬉しさが止まらないんだ。


「健吾、よかったね雨降らなくて。天気イマイチって言っていたけど結構晴れているよね。健吾は海入らないの?」


「入るかよ。まだ海入る季節じゃないし、風だって結構冷たいだろ。殺す気か?」


「ふふ、じゃあ足だけつけてみようよ。せめて海を少しだけでも感じたいし。水かけないからさ」


「絶対かけるなよ~、着替えないからな。あ、楓これからどうする?先に砂浜の方に行くか、昼メシ食べるか。どっちがいい?」


「う~ん。道混んでいたし健吾も運転で疲れたでしょう?ごめんね、先にご飯食べてから砂浜の方へ行こうか。ゆっくり海見たいしね」


「そうしよう。この先に美味しいカフェがあったよな。そこでもいい?」


「うん。あのお店のハンバーグ美味しかったよね。今日は何食べようか」


そのまま2人のお気に入りのカフェでランチを済ませた。

海沿いにあるそのお店は、海の景色を大きな窓越しに見ることができて食事をより一層楽しむことができた。

本当はワインで乾杯できたら幸せだったけど、ドライブだからね。また今度。

でも本当に幸せな空間だった。


「そろそろ行こうか」


「うん」


「じゃあ、少し先まで行って車停めようか」


2人は車に乗り、お店などが少ない少し落ち着いた景色の所まで車を走らせ駐車場に停めた。


「風が気持ちいいからコートは置いていこうかな?」


「そうだな。俺も置いていくよ」


そう言って身軽にバッグだけ持って歩き出す。

潮風が髪とスカートをなびかせて本当に気持ちがいい。ベタだけど貝殻を拾ったりして、健吾に笑われるけどこれぞ海!って感じで思いっきり楽しむ。


「健吾、これ見て。すっごく可愛い、この貝殻持って帰ろう。砂もサラサラで気持ちいいね」


「またかよ。楓いつも海来る度に貝殻一生懸命探して持ち帰っていたよな。じゃあこの貝もやるよ」


そう言って真っ白な巻貝を手のひらに乗せて私に見せる。そう、なんだかんだ言って私に合わせて貝殻を拾ってくれるんだ。だからいつも海に来る度ペアのように貝殻をおみやげに持ち帰って宝物のように飾っているのだ。


「ねえ、健吾。水が気持ちいいよ、来て来て」


靴とソックスを脱いでつま先で水を触ると、砂も転がるように足に触れ本当に気持ちよかった。


「また、濡れるぞ~」


そう言いながら健吾も裸足になり波打ち際に入ってくる。その健吾の笑顔で楓は更に楽しくなる。


「ほら、気持ちいいね。足持っていかれそう」


「気をつけろよ。でも本当に気持ちがいいな」


「うん、健吾も気をつけてね。ほら!」


そう言って水をすくって健吾に少しかけた。


「うわ!やめろよ!冷たいな。楓にもかけるぞ」


健吾も両手に水をすくってかけるふりをするけど、まだ寒いと分かっているからかけてはこない。そうして階段まで行き、バッグに入れてきたタオルでお互い足を拭いて靴を履く。

やっぱり海は楽しい。はしゃいでもこの景色になじむ。


「あ!車にタバコ忘れた。結構歩いたから買ったほうが早いか。ちょっとそこのコンビニ行って来る。楓何か買ってこようか?」


「うん。ホットコーヒーがいい」


「じゃあすぐ戻るから待ってて」


そう言って健吾は道の反対側のコンビニに歩いていった。

階段に座って海を眺めていると心が和んだ。いつも仕事に追われ、健吾への抑えた想いで心がトゲトゲしている感じで苦しかった。そんな気持ちが目の前の波を見ていると忘れられる感じがして、いつのまにか微笑んでいる自分に気付く。

そんなゆったりした時間を過ごしていると、後ろから声が聞こえた。振り向くと自分よりも若い男の子2人だ。


「1人で何しているの?散歩?俺達とドライブしない?」

「お茶でもいいよ」


あまりに近い距離にいてちゃんと言葉が出ない。


「あ、いえ、私一人じゃないので。すいません」


「いいじゃん。そこに車停めてあるからとりあえず行こうよ」

「景色いいとこ連れて行くからさ」


「いや、連れがいて待っているところですから。本当に無理です」


言っているそばから腕をつかまれる。力が強くて痛い!本当にヤダ!


「いいから、とりあえず行こう。車乗って!」


「嫌です!」


2人に腕と腰を持たれたところで男の腕が離れた。


「悪い、その手離してくれる?連れだから」


健吾だった。冷たい目で男達を見ている。


「何だよ、男いたのかよ」


「悪いけど、他行って」


健吾と男達の空気は悪かったけど、近くに人がいたせいか男達は立ち去った。


「何、短時間でナンパされているんだよ。お前もちゃんと断れよ。連れて行かれるぞ」


「だって、近くにいすぎてビックリしたんだもん。健吾いないし。無理やり引っ張っていこうとするし。やだもう・・・よかった健吾が来て」


「しょうがないな、またボーと海見ていたんだろ」


「ボーっと見るよ一人なら」


「・・・そうだな、ゴメン俺がコンビニ行っていたからな。ほら、コーヒーお待たせ」


温かいコーヒーを手渡してくれた。でも本当に健吾が来てくれてよかった。私もちゃんとハッキリ断れるように言えないとダメだな。

少し冷たくなった風が肌を冷やしたけど、温かいコーヒーが両手を温めた。

健吾も今買ってきたタバコを吸いながら「ちょっと目を離すとこれだよ・・・」と呟いていた。

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