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君が好きだから嘘をつく  作者: 穂高胡桃
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幸せはここにある ②

「はい、隼人くんお待たせ」


笑顔でそう言いながらおばちゃんが澤田くんの前にビールのジョッキを置いてくれた。


「ありがとうございます」


そう笑顔でおばちゃんに返してこの場が整った。

この懐かしい雰囲気がなんだかくすぐったいような感じになる。今まで美好でこの空気を作ることはなかったけど、すごく自然な感じがした。


「じゃあ~、せっかくなんで乾杯ってことで。今井さん、隼人、いろいろと面倒かけました!ありがとうございます。ってことで乾杯!」


健吾が照れながら『乾杯!』と言い切ると、咲季先輩が「よかったね!」と一番にジョッキをぶつけた。それに続くように澤田くんと私も健吾と咲季先輩に乾杯して飲んだ。

ビールを1口・2口と飲みながら、健吾の横で咲季先輩と澤田くんと笑いながら会えることの嬉しさを感じていた。

こうして集まって『よかったね』と言ってもらえることがどれだけ幸せか、心が答えてくれる。


「山中くん、今更だけど楓が転職しちゃって寂しいでしょう」


「そんなことないですよ」


また咲季の冷やかしに健吾がぶっきらぼうに答える姿が楓には可笑しかった。何度も健吾が悔やんでいたのを聞いていたのに、こうして強がってしまうのだから。そんな健吾の顔を見ながら笑いを堪えている楓を健吾は横目でチラッと見ると、


「何だよ~」


と、横腹を突いてきた。


「別に~、寂しくなんかないよね?」


そう可愛く答えながら身を避けると、健吾は少し困ったような瞳を楓に向け続けた。でも楓はそんな健吾の表情がたまらなく可愛く感じて、笑顔を返した。


「すっかり楓の尻に引かれちゃってるわけね・・・」


咲季はそんな2人を見ながら苦笑を浮かべた。

こんな感じになるとは思っていなかったけど、健吾の溢れてしまっている楓への愛情を見て、どれだけ2人が幸せなのかが分かってよかったと思えた。

すると隼人が楓に声をかけた。


「新しい仕事はどう?」


「うん、ぼちぼち慣れてきた感じかな?でもまだいろんな事教わりながらやってるよ」


実際転職して3ヶ月ちょっと頑張っているけど、教わることも細かいことがまだいろいろとある。


「そっか、頑張っているんだね」


優しく笑ってくれて、「うん、なんとかね」と笑って返す。

そして澤田くんには健吾のことで悩んでいた時に、何度も話を聞いてもらったり慰めてもらったことを思い出した。

何度澤田くんに救われたことだろう・・・

そのことを思い出し、隣にいる健吾は今もなお咲季先輩にからかわれているのを確認し、小さな声で

「ありがとうね」とお礼を伝えた。そんな言葉に隼人も意味を理解し、「どういたしまして」とささやくような声で返した。

そしてまた健吾と咲季の会話に混ざり、笑い声が続いた。


そんな盛り上がりの中に着信音が聞こえ、みんなの会話を止めた。

すると楓がその音に「あ、私だ」とそばにあるバッグから携帯を取り出した。

表示されていた名前は『英輔』


「あれ?英輔・・」


思わず声に出た小さな声も・その名前も3人には聞こえていた。


「ちょっとごめんなさい」


咲季と隼人に軽く頭を下げ、そのあと健吾に一瞬視線を合わせて電話に出た。


「もしもし?」


話し始めると少しだけ身体を健吾と反対の方に向けて電話に集中した。


「あっ、そのファイルはもう資料室に戻しちゃったの。ごめんね」


聞こえてくるのは何てことはない仕事の話なのだけど、そんな楓を気になる様子で見ている健吾。そしてそんな健吾のことを、咲季はテーブルに片ひじをつき顎をのせて観察するが如くにやつきながら見ていた。


「気になるよね~」


「いや・・別に」


咲季の問いかけに睨むような視線を見せつつも言葉は濁りを見せ、隠し切れなかった。


「楓の気持ち信じているんでしょ?」


「もちろん」


「まっ、心配ないわよ。特に楓の一途さは、心配のしようがないからさ。山中くんも心配かけないようにね!」


咲季は楓が電話中で聞こえていないのを確認しながら、健吾にはしっかりと釘をさした。

もちろん伊東麻里のことだ。あの子のことはどんなに小さな火種だってこの先存在させてはいけない、そう思っている。健吾がこうして楓の同僚として友達であり、過去好きだった人との接触が気になるのと同じように、楓にとって健吾の好きだった人の存在はいつだって不安材料になるはずだから。

大きなお世話でも理解してもらえる今、健吾に伝えたかった。

そんな咲季に健吾はしっかりと視線を合わせて「はい」と答えてくれた。


「でも本当によかったね」


「何がですか?」


「だって楓が会社辞めた後、山中くん廃人みたいだったじゃない」


その言葉には隼人も吹き出すように笑った。


「隼人まで、なんだよ~」


恨めしそうに隼人を見ると、涼しい顔で「そうだったね」と返されてしまった。


「でもさ、こうやって仲良く2人並んで幸せそうなところを見たら、よかったな~って思うじゃない。その上、楓にデレデレなとこまで見たらさ。本当にどっちが長い年月片思いしていたのか分からなくなりそうだよ」


「ほんと勘弁してください」


そう健吾が情けない顔をしたところで楓の電話も終了した。


「ごめんなさい、話が長引いちゃって」


「ううん、大丈夫」


咲季がそう答え、隼人が笑顔で頷いてくれたのを見た後に健吾を見ると、なんとも微妙な顔をしていた。

楓は気になって『ん?』と首を傾げると、『ううん』と首を振りながら今度は笑ってくれた。





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