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君が好きだから嘘をつく  作者: 穂高胡桃
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モーニングコーヒー

眠りから覚めて、くつろぎの空間・感覚がいつもと違うことを感じる。

いつもの束縛のないリラックス感ではなく、あまり動きようのない密かな窮屈感。

それでも私は満たされる幸福感を感じている。

シングルベッドで身を寄せ合いながら今もまだ眠りに落ちている健吾の瞳を、すぐそばで見つめる。

健吾の肩に頭を寄せて健吾の存在を確かめていると、寝返りを打つかのようにこっちに身体を向けたと同時に、私の身体をゆるく抱きしめてきた。目を覚ましたのだろう。


「もう、起きた?」


気だるく呼吸をすると、かすれた声でそう言いながら私の頭に顔を寄せてきた。


「少し前にね」


「うん・・・」


まだ寝ぼけているのか、会話が途切れる。

そっと健吾の顔を見上げてみると、まだ瞳を閉じたまま気持ち良さそうにまどろんでいる。

まだ朝早いし、今日は休みだからこのまま寝かせてあげたい。

そっとベッドを抜け出そうとしたところで腕を掴まれた。


「どうした?」


「まだゆっくり寝ていていいよ」


「じゃあ、もう少しこのままで」


そう言いながらまた私をベッドに戻し、さっきと同じように抱きしめてきた。さっきよりも少しだけ強く。


「この方が暖かいし、気持ちいい」


嬉しそうに笑顔を見せて、また向き合った。


「気持ちいいって・・」


そう表現されて何だか恥ずかしくなった。

だってまだお互い裸だもん。触れ合う肌と肌が重なって、より暖かい温度を作り上げる。でも暖かいだけじゃない。触れ合う肌の感触が生々しくて、冷静になると恥ずかしさを感じる。

なのに今健吾はそんな感情を持ち合わせていないらしい。


「うん、気持ちいいよ。だからもう少しだけ」


そう言うと頬に優しくキスをした。そして唇にキスを落とし、そのまま唇は首筋にすべり落ちていく。


「健吾・・」


「気持ちいいから、もう少し」


その感触に誘われてしまう。それに確かに気持ちいい・・

その唇が首筋から胸元そしてまた唇に流れていくと共に、いつのまにか健吾の身体の下に組み敷かれて、彼の甘い重みまで感じていた。

頬から胸そしてウエストへと流れていく彼の手が、より私の気持ちを高ぶらせる。


もっと健吾と蜜になりたい・・・


私の思考の全てが健吾でいっぱいになる。


「うん・・もう少し・・」


結局健吾の誘惑に負けてしまう。

でももうこのままずっと負けてしまってもいいかもしれない。

甘い時がまた繰り返される。健吾の腕に包まれて・・・



再び目を覚ました時には、カーテンの隙間から明るい日差しが射していた。

変わらず隣にいる健吾にそっと顔を寄せると、健吾が私の肩を抱き寄せた。


「おはよう」


「おはよ」


あたり前の挨拶だけど、すごく新鮮で気恥ずかしい。

こんなそばで、密着して『おはよう』なんて何か・・複雑。


「どうした?」


私の気持ちを察知して健吾が私の瞳を探ってくる。


「うん?う~ん何か言い表せない気持ち。こうして健吾がそばにいてくれることとか」


「それは俺も同じだよ。でも何より楓を離したくないって気持ちが強いかな?」


「本当?」


「うん」


少しはにかみながら答えてくれる健吾の顔がたまらなく愛しくて、ぎゅっと健吾を抱きしめた。

それに答えてくれるように抱きしめ返してくれる。こんなに満たされてもいいのだろうか?ずっと隠してきた想いが溢れ出るかのように、抱きついた私の身体は健吾から離れることができない。そんな私をしっかりと受け止め続けてくれた。


だからついわがままな言葉まで出てしまう。


「ずっと健吾のそばにいたい」


そんな私の言葉を聞いて、健吾は私の顔をじっと見た。


「あたり前」


予想外の返事に驚いた。


「何それ?」


私が驚きの顔を見せると、健吾は面白そうに笑って見せた。その笑顔を見て、つい私も笑ってしまう。

結局私達ってこんな感じなのかもしれない。

恋人だけど・・友達。

でも今はそんな友達らしい感じも嫌じゃない。それはやっぱり健吾の【愛情】を感じることができたからかな。

それは健吾が見せてくれる眼差しが、しっかりと私に伝え、感じさせてくれた。


「こうしてそばにいるって、やっぱりいいな」


「ん?何が?」


「楓が俺のそばにいる。それがすごく心地いい」


そんな風に言ってもらえるなんて思っていなかったから、嬉しさが込み上げてくる。


「私だって・・幸せ」


そう答えると、健吾は急に頭をフルフルと振った。


「あ~、俺もバカだよな。もっと早く気がついていればよかったのに」


「え?」


「楓が会社辞めるって決める前に、ちゃんとしておけばってさ。こうして今そばにいるけど、職場離れてやっぱり楓のこと気になるしさ」


「私?」


「・・・いや・・あいつかな」


言い難そうに言葉切れながらつぶやいた。


「あいつって・・・え?英輔?」


「・・・」


答えないけど、健吾が気になっているのはやっぱり英輔のことだ。

確かに昔好きだったけど過去の話で、ちゃんと話したんだけどな。英輔と同じ職場にいても、今更気持ちがぶれることはない。


「英輔はそんなんじゃないよ、本当に。健吾への気持ちと英輔とは全く違うし、絶対ないから心配させるようなこと。健吾、信じて」


「うん、ちゃんと分かっている」


「そういう気持ち・・私だって同じだよ」


そう・・私だってまだ不安は抱えている。健吾がそばにいてくれて『好き』って言ってくれて幸せを感じても、不安の種はまだある。

私の言葉に健吾は、意味を探るように私の顔を見た。


「何で?」


「だって・・・健吾だって伊東さんと同じ会社でしょ?そこに私はもういないし。不安は私だってあるよ」


「それは心配ないから」


「分かっているよ。分かっているけど・・・また誘われるって言うか、相談にのってって言われたら断れないでしょ?」


つい、余計なこと言ってしまう。

そんなモヤモヤした気持ちが嫌で、頭まで布団をかぶって全てを隠す。

するとその布団ごとぎゅっと抱きしめられた。そして優しい声で私をなだめる。


「楓、大丈夫だから。俺も楓と同じように、楓と伊東さんへの気持ちは全然違うから。楓を心配させることはしないから、約束する。だから楓も俺を信じて?」


そんな健吾の言葉にモヤモヤした気持ちも簡単に治められてしまう。

ちゃんと健吾の気持ちは伝わってきているから。こうやって私はこれからも負けてしまうかも。

なんかムズムズとくすぐったいような気持ちになって、健吾をいじめたくなってしまった。

布団から顔を出して健吾を見る。


「本当?」


「うん、本当」


「信じていい?」


「信じて」


「伊東さんとは何もない?」


「ないよ」


「何にもなかった?何にも?」


「・・・」


健吾が困った顔して言葉を止めた。私の『何にもなかった?何にも』の意味が分かったのだろう。今の気持ちではなく、『2人で会っていて2人の仲に何にもなかったのか?』という問いを察知したのだ。

健吾も正直だからなぁ・・・


「楓」


「なぁに?」


「楓~ごめん・・怒るなよ・・・」


「怒ってないよ」


かわいそうになって笑って答えると、更にギューっと抱きしめてきた。

結局お互い信じるしかないんだ。それはきっとできる、今の健吾を見ていればちゃんと確信できる。

この愛は大切にしたいから。

私の言葉と笑顔を見て安心したらしい健吾も、柔らかい笑みを見せた。

だから最後の意地悪を。


「健吾、コーヒーでも飲む?」


「うん、飲む」


待っていた答えを聞くことができた。


「じゃあ、昨日健吾が後で飲むって言ってたコーヒー注いでくるね。保温したまま凝縮されているからね」


健吾に意地悪な微笑を見せると、情けない困った顔を見せた。


「楓・・かんべんして」


そんな健吾が可笑しくて笑ってしまう。


「嘘だよ。今淹れたてのコーヒー持ってくるから待ってて」


ベッドのそばに置いてあった部屋着を着ながら健吾に視線を送る。


大丈夫、私達はこれからだから。

これからまた2人で新しい関係を作っていこう。












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