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君が好きだから嘘をつく  作者: 穂高胡桃
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嘘の終わり ③

悔しい・・腹が立って抑えられない。

喫茶店を出てそのまま早足に歩く。本当は走って少しでも遠くに行きたかったけど、ヒールが邪魔してスピードが出ない。だからできる限り早く足を進めるのに、信号にまで邪魔されて足を止められる。


「もう!どうして!」


赤信号か健吾にか分からない苛立ちを含んで、音量のない声で愚痴る。

視線が落ちて、視界がぼやける。そして今さっき目にし、聞いた記憶が戻ってくる。


   -好きなくせに・・ばかだよー


涙が出そうになって右手で顔を抑えた時、後ろから右肩を強く引かれた。

驚いて振り向くと、置き去りにしてきたはずの健吾の姿が目の前にあった。


「健吾!」


「どうしたんだよ、急に」


困ったような切羽詰った顔を私の顔に寄せてくる。

その表情に胸はキュッとなったけど、すぐに切なさに打ち消された。


「何でもない」


声が震える。今、健吾の顔を見るのは辛い。


「何でもないってことないだろ?」


更に私の顔を覗き込んで、さっきとは違って優しく肩を掴んできた。

だめだ・・・こんなそばにいられたら。ざわつく心が、思考を乱す。

肩を掴んでいた手を弾いて、健吾の顔を睨みつける。


「ばか!何でここに来るのよ!何で謝ったりしたのよ!好きじゃない・ただの同僚?違うでしょ!好きなんでしょ?伊東さんのこと諦められない位好きってずっと言い続けてきたじゃない!」


喫茶店を飛び出した時の怒り・悔しさの感情が言葉と共にどんどん増幅する。

今まで喧嘩もこんなやりとりもしたことがなかったので、私を見て健吾は驚いている。


「楓・・・」


あの時健吾が謝った気持ちも、伊東さんの存在が同僚って答えた想いも本当は分かる。好きな人を守りたいって気持ち私にも十分理解できる。

逆の立場なら、私だってあの場できっと同じ事をやっている。

事実、自分の気持ちを嘘ついて疑われ攻められている健吾を守る為、付き合っているのは私だと嘘をつき、2人の前でキスまでしてしまった。

めちゃくちゃだ・・私。


「あんなこと言ったら終りじゃない。あそこまできたら言えばよかったのに。伊東さんが好きだって言えばいいじゃない。バカだよ・・健吾」


「・・ごめんな。お前に嫌な思いさせて」


健吾の優しい声が余計心に刺さる。

愚痴を言うわけでもない、後悔の言葉を言うわけでもない。そして私と付き合っていると嘘をつき、キスまでした私を責めることもしない。最後は私が健吾の恋を壊したのに。


   -ダメだ・・私ー


このままだと健吾の幸せも見届けることもできない。

せめて女友達として健吾のそばにいようと思っていたけど・・それももう辛い。

渦巻く感情を抑えることもできなくなって、全てを投げ出したくなった。


「別に・・嫌な思いなんかしてない。違うの。健吾が思っているのと違うの。本当は健吾の応援なんか・・してないもん」


「ん?」


首を傾けて私を見る健吾は、突然の言葉を理解していない。

健吾の顔を見ながらやっとの思いで出る言葉はつぶやくような声量しか出ない。


「今までずっと健吾の相談にのっていたけど、全部嘘。ぜ~んぶ・・嘘」


「何・・どうした?楓」


眉間にしわを寄せて、じっと視線を合わせてくる。

ここで折れるわけにいかない。


「健吾に幸せになってって言ってきたのが、全部嘘ってこと。辛い時に頑張れって言ったことも、いいことがあった時一緒に喜んでよかったねって言ったのも・・嘘。そんなこと本当は思ってないの。思ってないのに嘘ばっかり並べてきたの」


「・・・」


「健吾の幸せなんか願ってない。友達だって接しながら相談にのって言ってきたことも全部嘘。本当は振られた健吾見て、悩んでる健吾見て呆れてた。ばかみたいってずっと思ってた。だからさっきもはっきりしない健吾を見て、もう面倒くさいって思っただけ。うまくいばいいなんて、思ったことないよ」


「何言ってんだよ」


健吾が困惑しているのを感じる。


そこまで言うのが精一杯だった。ひどい言葉をぶつけ続ける私の目を見て、


「そんな風に思っていたのかよ」


つぶやくように言った。


「・・・うん、ごめん。でももう限界だから」


それ以上は涙がこぼれそうで言えなくて、踵を返してその場を去った。

急いで歩いて、今度こそその場から少しでも離れるように。

早足で歩く歩調に揺れながら、いつの間にか涙が落ちてきた。


健吾にバカって言ったけど、バカなのは私だ。


全部自分のせいなのに、あんな風にしか終わりにできない。

ずっと嘘をついてきて、健吾を傷つける嘘でしか終わりにできなかった。

結局独りよがりに悩んで、こんな終わり・・・

友達でいることすらできなかった。

私の長い片思いは、自分のつまらない嘘と身勝手な言葉で全てを壊してしまった。

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