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君が好きだから嘘をつく  作者: 穂高胡桃
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再会 ⑥

「知り合い?」


私に質問してきても無表情でただ前を見ている。さっき私が駐車場で健吾の車に乗った時の空気と同じだ。


「うん、同級生」


「久しぶりの再会?」


「久しぶりっていうか・・10年ぶり。・・・ねえ、何か機嫌悪くない?」


とりあえず健吾の質問に答えてから、私の気になっていたことを聞いてみた。


「別に悪くないよ」


呟くような小さな声でこっちをチラッと見ながらそう答えた。


「そう?そうかな~」


私も納得いかない目つきで言ってみる。


「ホントだって。それで?外まで追いかけて来てアドレス交換?」


「うん・・職場が近くだって分かって向こうで食事でも行こうって話になって」


「へ~」


そう言ったきりまたしゃべらなくなって、重い空気。私も英輔については話しようがなくて困った。


「10年ぶりか」


「うん」


「仲良かったの?」


「・・う~ん、仲いい友達だった」


答えづらい質問に私の視線が下へ下へ落ちていく。


「元彼とかじゃなくて?」


「違うよ!」


その質問にはつい健吾の顔を向いて否定した。私が突然大きな声で答えたから、驚いた健吾もこっちを向いたので一瞬視線がぶつかった。


「そっか・・」


「うん・・違う」


何だかややこしい話になってしまった。確かに追いかけて来た英輔と連絡先を交換して、その後握手して別れた姿を健吾が全部見ていたなら勘違いされるかも。他の人だったら適当に仲良かった友達って話を濁すけど、健吾には変な勘違いをされたくない。


「さっきの人はね・・友達だけど・・・昔好きだった人。でも告白して振られたの。すごく仲良かったけど、振られたっきり話もしていなかったの。それで10年振りに結婚式で会って、さっき少し話をした。それだけ・・笑わないでよ?言いたくないことだったんだから」


ちょっと上目遣いで伺うように健吾を見てみる。こっちは向いていなかったけど、小さく頷いているように見える。


「笑わないよ」


そう言った後、ちょっとだけこっちを見た。


「でも、何か・・初めて聞いたな、楓は誰を好きになったとか今まで言わなかったし。いつも俺が聞いても何となくはぐらかしていただろ・・もしかして今も、あいつのことが好きなのか?」


「まさか!」


とんでもないことを言い始めた。誤解もいいところ。私が好きなのは健吾だよ!って口に出せない想いを心で叫ぶ。


「恋愛目線で見てなかったって言われて終わった恋だよ!私も避けちゃって友情も壊れたんだから。今も想っているなんてありえないよ」


必死で否定する。確かに私が好きな人の話なんてしていなかったから、こんな訳ありの話をすれば今も気持ちを引きずっているって勘違いするかもしれないけど。違うよ違う。


「でも向こうはどうなんだろうな?気になっているんじゃねーの?追いかけて来るくらいだからさ」


「それはないよ、ただの同級生。私の中では過去の事だし、未練の気持ちは全くないよ。今日は久しぶりに会って、昔振られた後気まずくなって避けてしまったことを謝っただけ」


はっきり言い切れた。何を勘違いしているのか分からないけど、ちゃんと伝えたかった。


「そっか、何か余計なこと聞いてゴメン」


少しションボリした顔をチラッとこっちに見せて謝ってくれた。


「本当だよ~、人の過去の失恋まで話させて。古い傷なんだから」


ちょっと怒った顔を見せると、健吾も困った顔をする。

その顔が可愛いくて、すごく愛しくて、バレないように笑ってしまった。

そしてバッグの中に入れてあったミントキャンディーを1つ取って袋から取り出して、健吾に「あ~んして」っと言って、「え?」っと言いながらポカンと開いた口の中にポン!と入れた。

一瞬驚いた顔をしたけど、少し口の中で転がして「うまい」って笑って言った。

これって昔当たり前にやっていた事、でも最近意識して出来なかった事。2人で海にドライブした時もできなかった。でも今、何か自然にできて健吾の笑顔も見れてよかった。


「そういえば、一回実家に帰らなくてよかったのか?荷物とかあったんだろ?」


突然健吾が思い出したように聞いてきた。


「あ~、お土産と一緒に宅急便で送ってくれるって言うから大丈夫。健吾へのお礼のお土産も入っているって。迎えに来てくれたお礼に渡しなさいって」


「マジで?ラッキー。じゃあ、楽しみにしているよ」


お母さんは彼氏が迎えに来ると勘違いしていたから何度も「違う!」って説明したし、お父さんに関しては男が迎えに来るってだけでヘソ曲げちゃうし。彼氏だったらよかったのにね、本当に。


「しっかし今日は随分と気合入っているな」


「え~、まあ結婚式だしね。こんな格好滅多にしないものね」


膝より上のスカートの裾を触りながらシフォンドレスの感触を確かめる。いつもスーツ姿だし、健吾と出かける時はお洒落するけどこんな格好はしない。今日は髪も巻いているし、化粧も濃いしね。そう考えていたら何だか恥ずかしくなってきた。


「何か・・頑張り過ぎって感じかな?」


確かめるように健吾の横顔を見ながら聞いてみる。


「いや、いいんじゃん?まあ、いつもの楓じゃなくて最初ビックリしたけど。でも似合ってる」


少し微笑んで言ってくれる。今日は健吾と会うためにお洒落したわけじゃないけど、褒められたみたいでなんか嬉しい。


「本当?ありがと」


「何かフワフワ~っとしてるな。俺、そーゆーの好きだな。髪もフワフワ~クルクル~だしな」


こっちを見て言ってくれる。好きだなって言葉がすごく心にきた。健吾の好みに少しでもなれたなんて、やっぱり嬉しい。


「いつもと違うもんね。頑張り過ぎたけど良かったのかな?」


「うん、いい!」


笑いながら断言してくれる健吾がすごく愛おしくなった。こんな時、好き!って言えないことも、嬉しくてギュッと抱きつくこともできない友達って立場が辛くなる。別に友達でも好き!って言ったり、抱きつくことくらい他の人はしているのだろうけど、私は健吾が好きすぎて友達としてすることができない。バカは私だ。だから今は嬉しい気持ちを心から感じて喜ぶことにする。


「よかった。今日は色々と考えたこともあったけど、結婚式も参加できてよかったし楽しかった。それに遠いのに健吾が迎えに来てくれたし、すっごく嬉しい。ありがとね、健吾」


「いいえ、どういたしまして」


それからは最初のような空気はなく、何度も笑える話をしながら送ってくれた。また明日職場で会えるのに、帰っていく健吾の車を見送るのが寂しくなる位幸せなひとときだった。ああ・・・やっぱり大好き。



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