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君が好きだから嘘をつく  作者: 穂高胡桃
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再会 ④

「もう10年になるよな。懐かしいよ」


英輔の視線が私を通り越して昔を思い出している。思い出すときに戻る10年が私達の空白の年月。


「うん、そうだね」


思い出すと苦しくなった記憶。でも英輔に会った今、あの苦しさが不思議と和らいでいる。


「よく一緒に騒いだよな」


「そう、いつも英輔ふざけていたよね」


「ははっ、よく先生に怒られたな。それに楓といつも一緒にいたよな、みんなも一緒だったけど本当に楽しかったよ。だから・・楓と話すこともなくなって正直なんでだよ!って思った」


その時の感情は怒っていた気持ちの表現だったと思うけど、月日が過ぎて英輔にとって思い出になっているのか穏やかな表情をしている。それが私の心に刺さる感じがした。


「ごめんね、私が気持ち伝えたりしたから。振られてちゃんと受け止められればよかったのに、どうしたらいいか分からなくて英輔から逃げちゃったんだ」


「俺がひどい言い方したからだよな。ホントあの頃はまだガキで鈍感で何にも分かっていなかった」


「違うよ、英輔とは友達だったのに私が勝手に好きになったんだもん。確かに気持ち伝えて英輔に恋愛目線で見たことないって言われた時はショックだったけど・・でも英輔は何も悪くない」


英輔は悪くないと伝えても、英輔はゆっくりと横に首を振っている。


「楓のこと恋愛目線で見たことないって言った言葉は今でも本当に後悔している。言い訳じゃないけど本当に楓のこと大好きだったよ。それがどんな感情か分からなかったけどすごく大切な存在だった。愛情とか友情とか区別してなくて、楓の気持ち聞いてあんなおかしな言葉を返した。一緒にいるのが当たり前だったから、あの後も何も変わらないと勝手に思っていたんだ。だから・・楓が俺のそばからいなくなって、話もできなくなって何なんだかわからなかった」


「うん・・うん」


英輔の当時の気持ちを聞いてあの時を思い出すと同時に、英輔も戸惑っていた事を聞いて英輔を見ながら小さく頷いた。そんな風に思っていたんだね。


「楓のことが気になったり、寂しく思ったり、腹が立ったり、どうして・・って思っていたけど、年をとっていろんなことが分かったんだ。思ってくれる気持ちも、傷つける言葉も、いろんなこと。だから、楓ごめんな。あの時好きだって言ってくれてありがとう」


そう言って英輔が私に向かって頭を下げた。

ビックリして私は英輔の肩を軽く押す。


「英輔頭上げてよ!違うよ、私が悪いの、私がずるいの、違う・・」


もういろんな感情が溢れて涙が流れた。英輔がこんなにも想っていてくれたなんて考えてもいなかったから。勝手に嫌な思い出にして、今日会うことすら苦痛に感じていたなんて。


「楓~泣くなよ~。な、ごめんな。泣かせるつもりなかったんだよ~」


英輔が困った顔しながらそっと親指で涙を拭いてくれた。


「うん、ごめん」


私もバッグからハンカチを出して涙を拭う。


「じゃあさ、せっかく再会できてちゃんと話せたから仲直りしようぜ。楓それでいい?」


私の顔を覗き込みながら聞いてきた。そっか・・仲直りか、喧嘩じゃないけど今なら仲直りできそうだね。


「そうだね、仲直りしよっか」


英輔の笑顔を見て、私も泣き顔で笑顔になれた。何か嘘みたい、こんな風にまた英輔と笑顔で話せるなんて。私が笑顔になれたのを見て「じゃあ、乾杯しよう!」ってカウンターに赤ワインを取りに行ってくれた。そして再会10年仲直りの乾杯をした。

それから地元の仲間の話や近況について話が盛り上がり、自然と恋愛の話題も話せた。


「今は彼氏とか好きな人いるの?」


「彼氏は働いてからいないけど、好きな人はいるよ」


なんとなく恥ずかしくて視線がずれてしまう。


「へ~どんな人?」


「入社した時から1番仲のいい男友達。本当はね、英輔に振られた後もう男友達は好きにならない、好きと思ったら絶対に友達にならないようにしてきたの。好きな人は健吾って言うんだけど、健吾の事は入社してすぐ好きになったけど、彼女がいたの。でも諦められなくて・・友達になっちゃった、親友に」


「そっか・・そんなに長く好きなんだ。でも彼女いるから告白しないのか?」


少し驚いた顔で私の恋愛話に答えてくる。5年も片思いだもの、驚くよね。


「彼女は少し経って別れちゃったの。でも私は相談に乗ったり励ましたりしていたから親友の女友達に定着しちゃたの。好きなんてもう言えなくてさ。そしたら最近健吾に好きな子できちゃってさ、今はその相談に乗ったり応援しちゃってる」


今の状況を話したら英輔は寂しそうな顔になった。


「やっぱり俺があんなこと言ったからかな?」


「ううん、違う」


本当はそれが一番気にしていたことだけど、英輔にはそう思って欲しくなくてばれるとわかっていながら否定した。


「俺が楓の気持ちの根本を作ってしまったんだと思う。ごめんな。でもさ楓、5年間もそばにいて過ごしてきたんだろう?きっと楓の良さをちゃんと分かっていると思うよ。その人に好きな人がいるかもしれないけど、楓も少しでも気持ちを見せてもいいんじゃないかな?伝えたら感じることあるかもしれないよ?」


「でも、怖いんだ。健吾のこと失うのが。友達って立場まで失いそうで。最近ね、ちょっと行き詰まっちゃっていろんなこと迷ってる」


素直に思っていることが言えた。好きでいること、悩んでいること、この先諦めなければいけないのかもという迷い。それを英輔に話すことができた。


「楓、本当に恋しているんだな。からかっているわけじゃないよ。楓もっと自信持ったほうがいいよ、10年振りに会ってスゲー綺麗になっていてビックリした」


「は?」


「本当だよ。式場で楓見て驚いたけど、2次会始まって何人もお前のそばに来ただろう?それだけ魅力があるってことだよ。見た目だけじゃない、さっきも言ったけど5年もお前がそばにいた男なら楓の良さは分かっているはず。でもその人は自分の気持ちに気付いていない可能性もあるだろ?楓の気持ちも気付いてないのかもしれないし」


「でも・・」


「楓、少し位自信持てよ」


説得するように言ってくれる。何か嘘みたい、恋の相談するなんて。


「自信かぁ、ないな」


私が呟くと英輔は苦笑した。


「それで?その人はどんな人?」


「え?どんな人って。そうだな~、男らしいところもあるけど、グジグジ情けない時もある。でもすごく優しかったりもする。今日もお酒飲んで帰ってくるの大変だろうって遠いのに車で迎えに来てくれるって言うし。好きな子いるくせにさ、そんなことサラッとしてくれるって言っちゃう人」


「へえ~、そっか。そりゃあ好きな子いるって分かっても諦められないか」


微笑んで英輔は言ってくる。そして手に持っている赤ワインを飲み干した。

英輔にはどんな健吾像が浮かんだだろう?嫌な奴を想像していないといいな。


「楓、頑張ってみなよ。俺お前の笑顔が見たいよ。そうやって休日でも迎えに来てくれるんだろう?もう迎えに来てるのか?」


「うん、今近くのお店でご飯食べているはずなんだ。電話したらここまで来てくれるって」


携帯の時計を見ると2次会が始まってからもう2時間近く経っている。健吾はとっくにご飯を食べ終わっているはずだ。


「もうかなり待たせちゃっているし、明日早いから私先に帰らせてもらおうかな。英輔せっかく会えたのにごめんね、でも話せてよかった。本当にありがとう。英輔は今日帰るの?」


「いや、久しぶりに実家に帰ったし今日は飲む予定にしていたから明日は有給取ったんだ。楓は気をつけて帰れよ、まあ迎えに来てくれるなら心配ないか」


「うん、じゃあお先に。真奈美と久保くんに挨拶して帰るね」


立ち上がって英輔に手を振ってバイバイと行った後、真奈美と久保くんに挨拶し、佑香と友人たちに帰る事を伝えて化粧室に行き健吾に電話した。


「もしもし?」


3コールで健吾が電話に出た。


「あ!健吾ごめんね遅くなっちゃって。今帰るから」


「3次会は?」


「ううん、明日もあるし、もう新郎新婦と友達に挨拶したからすぐ外に出られるから」


「わかった、じゃあすぐ迎えに行く。少し寒いから中で待っていれば?」


「大丈夫大丈夫」


「そっか?じゃあ待ってて」


「うん、お願いします」


電話を切って鏡を見ると口紅が取れていたので、バッグから桜色のグロスを取って唇に薄く塗って髪を整えた。

そして健吾の車を待つ為に少し気持ちを高ぶらせながらお店の出口に向かった。





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