再会 ③
結婚式って・・本当にすごい。不思議な空間で神聖な空気に包まれている。目に見える情景、耳に聞こえる賛美歌それが心の中心に感動を伝える。
そんな挙式で見た真奈美も久保くんもすごく神秘的で、愛を誓い合ったその姿に涙が出た。
自分の幸せではなくても2人の幸せそうな笑顔に心が温かくなった。
挙式が終わりその後フラワーシャワー、ブーケトスとみんなの笑顔に迎えられて真奈美も久保くんも嬉しそうだった。
その後披露宴でも色打掛、カラードレスを着た真奈美は本当に綺麗で輝いていた。
真奈美も久保くんもみんなに祝福されて、そこに喜びも笑いも感動も涙も全て満ち溢れていた。
「楓~いい結婚式だったね。もう、真奈美見ていたら涙が止まらなかったよ~」
終始涙を流していた佑香が2次会に向けて化粧直しをしている。私もファンデーションとチークで整え直しながら返事をする。
「本当に綺麗だったなぁ真奈美。幸せだとあんなにいい笑顔になるんだね」
「うん、本当に羨ましい!私も結婚したくなっちゃったよ。何かさ、友人の結婚式を見ると無性に結婚したくなるよね~。楓も結婚したくならない?」
「そうだね、あの空気はその気になっちゃうよね」
確かに結婚式の一連の流れに感動し、新郎新婦の幸せオーラに完全に飲まれてしまう。それが仲のいい人の結婚式ならなおさらだ。
「あ~!2次会で誰かいないかな?そういえば久保くんの大学の時の友人とかちょっとかっこいい人いたし頑張るか!」
「佑香すごいね、しっかり見てたわけだ・・」
鏡越しで佑香を見ると、チークを塗りながらうん!うん!と頷いている。
「そりゃ~見ていたよ出会いの場だもの。おまけに英輔のことも見ておいたよ。英輔は何度も楓のこと見ていたよ。横のテーブルなのに楓は絶対に見ようとしていなかったでしょう」
「うん、何か近くの席すぎて見れなかったよ。もうちょっと普通にしようと思っていたのにね」
そう・・佑香の言う通り。左のテーブルに英輔がいると意識しすぎていた。幸運なことに佑香が右隣に座っていたので少しも左側を見ない不自然さはなかったと思ったけど、佑香にはバレていたみたい。
会場で英輔の姿を確認した時からつい視界に入れないようにしてしまった。
英輔の視線は正直感じていたけどね・・
私たちのテーブルに話をしに来た同級生とは話したけど、何となく気持ちが落ち着かなかった。
私は同じテーブルの女友達みんなでワイワイ楽しむ事に集中していた。
「まあ、いいんじゃないの?2次会でみんなで騒ぎながら自然と話せる空気になるかもしれないしさ。とりあえず2次会行こうよ!」
そのまま佑香に腕を組まれ引っ張られるように連れて行かれたのは結婚式場の斜め前にあるダイニングレストランだった。
中に入る直前に迎えに来てくれる健吾のことを思い出した。
「佑香ごめん、ちょっと電話するから先に入っていて」
「うん、わかった。あ~!健吾くんでしょ」
「そう、とりあえず連絡しておく」
佑香はニッコリ笑うと中に入って行った。
スマートフォンの着信を見ると健吾からの連絡は入ってなかった。電話をかけると出なかったのでとりあえず切った。そしてメールで2次会に行くことを伝えようと操作していると着信音が鳴り、健吾の名前が表示されて、気持ちがはやった。
「もしもし?」
電話に出ながらレストランの入り口から少し離れるように歩く。
「あ~ごめん、運転中で出られなくて。そっち向かっている途中だけど楓は?式はもう終わった?」
「うん、今2次会会場に着いたところ。ごめんね、せっかく休みなのに」
私が心配な声を出すと健吾はケラケラ笑いだした。
「何言ってんだよ、ドライブみたいなもんだからさ。とりあえず2次会楽しんで来いよ。俺もとりあえずそっち着いたら近くで飯食っているからさ。終わったら電話して」
「わかった、とりあえず2時間位で終わると思うからまた連絡するね。じゃあ、行ってくる」
「ああ、後でな」
電話を切って入口を見ると、2次会に参加する人達がぞろぞろと入って行ってる。私もその後ろについて行き、とりあえず佑香の姿を探した。
佑香の隣に座ると直ぐに興味津々に聞いてきた。
「どうだった?もうこっち着くって?」
「まだみたい。着いたらとりあえずご飯食べて待っていてくれるって」
「へ~、優しいじゃない。ホントにさ、ただの友達関係なの?」
「そうだってば。自分で嫌になる位友達だよ」
「なんにもないの?」
「なにもない!」
佑香のアホな質問には怒ったけど確かにさっきの電話で私も思った。休日に遠くまで迎えに来てくれて、2次会が終わるまで時間潰して待っていてくれるなんて。本当に勘違いしてしまいそうになる。でも違うんだって自分に言い聞かせて余計に切なくなった。
「ごめんごめん、でもさ楓・・・諦めないで、ね!」
「うん、ありがとう」
2人で笑い合って2次会の幹事が挨拶スピーチを始めた方に視線を向けた。
2次会は同級生や同じ年頃の集まりだからすぐに盛り上がった。披露宴からお酒が入っているから初対面の人達でも関係なく挨拶を含め乾杯しあえた。
幹事主催のビンゴゲームは文句なく盛り上がり、友達も知らない人も関係なく騒ぎ会えた。
一段落ついたとこでトイレに行き、何となく一休憩で化粧直しをした。
盛り上がる空気に少し疲れを感じたので小さなため息をついた。2次会は出会いの場でもあるので知らない人でもグイグイ距離をつめてくる。まあ、お酒もかなり入っているからね。
でも、初対面で電話番号やアドレスを聞かれたりするのはやっぱり苦手。佑香がうまく話を逸らしてくれたから何とかその場を済ませられたけど。
働いてから健吾を好きになって合コンの話もほとんど蹴ってきたから、慣れていないと言うか逸らし方がわからない。番号やアドレスを教えないということが相手を不快にさせるのかもわからない。
そんなやりとりが何度か続いて何となく疲れて、佑香に「トイレに行ってくる」と言って抜け出した。
とりあえず化粧直しも終わったので戻ることにした。
席に戻ろうと近くまで行ったところで今まで座っていた席に佑香がいないことに気付く。
「あれ?」
キョロキョロと周りを見渡すと今まで座っていた席の少し奥に佑香を見つけることが出来た。その隣には同じ年位の男の人がいて。4人の席に2人だけで座っている佑香の顔は嬉しそうで。もしかして披露宴の後に言っていたーかっこいい人ーってあの人かな?私は邪魔する気もないのでそのままカウンターに行ってカクテルを作ってもらい近くの席に座ることにした。
カクテルを2口飲んだところで声をかけられた。
「久しぶり」
顔を上げると目の前に立っていたのは英輔だった。
「あっ・・・」
突然のことで視線も開いた口も止まったままになり、動かない私に気にすることなく英輔は私の隣に腰を下ろしてきた。
私の視線も隣に座った英輔へと移動し、少し開いた2人の距離が私には視線を逸らせない空間を作っていた。
今まで2次会の間に近寄って来た人達は、やたらと距離をつめて話しかけてきたので顔を寄せられた瞬間にクッと顔を逸らせてきた。
でも今、隣に座ってこっちを見ている英輔は一人分のスペースを空けて座り、体ごとこっちを向いている。
そんな英輔をただ見続けてしまった。
「どうした?一人で飲んで」
英輔は顔を傾けながら笑顔で聞いてきた。懐かしい笑顔。そう、この笑顔をいつも見ていた、10年前まで。10年経っているからもちろん大人の男になっているけど、記憶に残っている笑顔・安心感は変わっていなかった。
「佑香と一緒にいたけど、今あっちにいるから」
私が指をさすと英輔もそっちを見る。そして「ああ、そっか」と笑いながら小さく頷いた。
そしてまたこっちを向くと何も言わずに微笑んだ。
「楓、久しぶりだな。元気だったか?」
優しい声のトーンで聞いてきた。予想外の距離感、英輔の笑顔。こんな風に話しかけてもらえると思わなかった。長い年月トラウマのように心に残り、あれだけ再会に悩み、話せると思わなかったのに英輔の言葉に自然と口から言葉が出てきた。
「うん・・元気だったよ。英輔は?」
「楓が目の前に見ている通り元気だったよ」
笑顔で言葉を返してきた。
「そっか・・」
緊張もあって答えているけど言葉が途切れ途切れになっている私に、変わらず笑顔を向けてくれる。
「結婚式に楓も参列するって聞いていたから楽しみにしていたんだぞ」
「えっ!」
思ってもいなかった言葉に驚いた。
「もうずっと楓に会っていなかったからさ。実家に帰ってきた時は久保たちと集まって飲んでいたから楓の事とか時々聞いたよ。そう!楓の会社と俺の会社は意外と近いんだぜ、知らなかったろ~」
「うそ!どこ?」
聞くと3駅しか離れていない距離に英輔はいたらしい。きっと真奈美は知っていたはずなのに1度も聞いたことがない。まあ、私にとって英輔というキーワードは禁句になっていたからね。あえて真奈美は言わなかったのだろうな。
「でもまたこうして会えて話せてよかったよ。うん、すげー嬉しい」
英輔の言葉がストンと胸の中心に届いた。何か嘘みたい。振られてから動揺して完全に意固地になって英輔との距離を作ってしまったんだ私は。親友だったのに、勝手に好きになって振られて断ち切ってしまった。なんなんだ!って怒っていていいはずなのに、英輔は再会を喜んで言葉に出してくれている。
凝り固まった心の氷が、サーっと解けたように感じた。
「英輔、ごめんね。私ひどいことしたのに、本当にごめんね」
「何言ってるんだよ、俺こそごめんな。俺あの頃まだガキでいろんなこと分かっていなかった。楓にひどいこと言った。ずっと後悔していたんだ。もう会えないかなって思っていたから、久保に聞いて今日楽しみにしていたんだ。まあ・・無視されるかな?とも思っていたけどね。でもよかったよ、こうして会えて話せて」
英輔から予想外の言葉にビックリしたけど、ちゃんと話したいと思った。英輔が謝ることは何もないってちゃんと伝えたいと思った。何よりもあんなに行きたくない・会いたくないと思っていた感情がこんなにも変化するなんてただただ驚いていた。




