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君が好きだから嘘をつく  作者: 穂高胡桃
24/60

再会 ①

「楓~起きてる?そろそろ支度したほうがいいんじゃないの?」


階段の下から母親に声を掛けられる。まだアラームが鳴っていないから9時前だと思うけど・・眠い。

今日は真奈美の結婚式が12時からあるからゆっくりもしていられない。


「起きてるよ~」


起きてた声とは思えない寝ぼけた声で返事する。

う~ん、とりあえずシャワー浴びて頭を起こそう。ベッドから起きてヨタヨタと歩き、クローゼットからとりあえずの着替えを持って下に降りた。


「おはよう、起きられたのね」


キッチンから母の声が聞こえた。


「うん、シャワー浴びてくる」


目を擦りながら廊下をヨタヨタと歩く。寝ぼけ眼でも実家だから慣れた感覚でバスルームまでたどり着き、服を脱ぎシャワーのお湯を出した。お湯になったところで首元から浴びる。体に染み渡る温かさでやっと目が覚める。

スッキリしてキッチンに行くとテーブルの上に朝食の準備がしてあった。

焼き鮭に厚焼き卵、大根のお味噌汁にご飯、そしてお漬物。純和風で普通のご飯だけど見ただけで心が和んだ。子供の頃からずっと食べてきた物だから記憶に残っている味。自分で作ってみてもこのお味噌汁の味は何故だか出せない。

もうかなりの間帰省していなかったから一口飲んで懐かしさが口中に広がった。


「やっぱりうちのお味噌汁が一番美味しい」


「あら、ありがとう。そう思うならもう少し間開けずに帰って来てよ。お父さんも喜ぶから」


お母さんがニコニコ嬉しそうに言っている。そうだな、昨日の夜お父さんも寝ないで待っていてくれて、私が夕ご飯食べている時に嬉しそうにお酒飲んでいたし。今まで休みは健吾と出かけることも多かったけど、これからわからないしね。どんどん健吾と伊東さんが過ごす時間が増えるのかなぁ。

そんなことを考えながら懐かしかったはずのご飯を味わうことなく食べてしまった。


「お母さん私支度するから30分後にタクシー来るように連絡してくれる?」


自分で30分後と言っておきながら時間のなさに少し焦りを感じながら洗面所に向かい歯ブラシを手にする。


「あら、お父さんが送って行こうか?って言っていたけど・・・」


洗い物をしていたお母さんがタオルで手を拭きながら洗面所の入口まで寄ってきた。


「う~ん、結構距離あるからいいよ。タクシーで行っちゃう」


「そう?じゃあ、電話しちゃうわね」


そう言うと電話をかけにリビング戻って行った。お父さんには申し訳ないけど、今日は色々と気持ちの整理をして行きたいからタクシーにしておく。

英輔の事が頭に浮かんでまた考えてしまいそうになり、すぐに頭の中から消して短い時間でいつものビジネスメークより濃いめのメークを仕上げた。

コサージュ付いた柔らかい紫色のシフォンドレスに着替えて、胸の下まで伸びた髪の毛も軽く巻いた。ミニダイヤのシンプルなネックレスとピアスを着けて完成させる。


「こんなものかな?」


姿見の鏡で明らかにいつもと違う自分に少し苦笑してリビングに戻り、時計を見るともうタクシーの到着する時間になっていた。自分の部屋に行き、持って来たバッグの中からクラッチバッグとパンプスの入った箱を持って玄関に向かう。

箱から出してパンプスを履いてみる。いつも以上に高くて細いヒールに少しぐらつく。でもせっかくのお洒落だから頑張りたい。

自分の中で「よし!」と気合を入れてバッグを持ち、玄関のドアを開け外に出る。


「じゃあ、行ってくるね!」


姿は見えない両親に一言声をかける。


「は~い、気をつけてね」


2階の方からお母さんの声が返ってくる。

玄関を出て庭先を歩く。自分がいた頃より植木も花も増えていることに気がつく。何だか不思議な感じ。よく遊んだ小さな思い出の場所が変わっていく事に少しだけ寂しさを感じた。

門を閉めて家の前の道に立つと、タイミングよくタクシーが到着してドアが開いた。


「柚原さんですか?」


開かれたドアからこちらを向いた運転手さんに声をかけられる。


「はい、お願いします」


答えながらシートに座り行き先の結婚式場を伝えた。直ぐに車は走り出し私は窓に流れる景色をボーっと見た。

景色を見ていたはずなのに何も記憶に残らない。視線は景色を追っているのに、頭の中は昨日の記憶をたどっていたからだった。さっきまで英輔と会う事で緊張が占めていたのに、車窓に流れる景色を見て思い出したのは健吾の事だった。

昨日は久しぶりに休日出勤をした。月曜日の会議の為にどうしても揃えておきたい資料があって、本当は早めに実家に帰りたかった気持ちを抑え朝から出勤し資料作成に没頭していた。

夕方になり必要な資料の一部の内容を聞く為に健吾に電話した時に自宅にいたらしく、わざわざ会社まで来て一緒に資料を仕上げてくれた。

帰りに「車で来たけど代行でも頼むから美好に寄っていこう」と言ってくれたが、明日の結婚式の事と実家に帰る事を伝えて美好に行けない事を謝った。

ここまで手伝ってくれたのに申し訳なく思い謝ると、健吾は全く気にした感じはなく思わぬ提案をしてきた。


「明日結婚式で終わったら帰って来るんだろ?」


「うん、夜遅くなるかもしれないけど帰って来るよ。月曜は会議だしね」


「じゃあ、明日の夜迎えに行ってやるよ」


「え??」


突然の健吾の言葉に間抜けな声を出してしまった。

でも健吾は当たり前の事を言うように続ける。


「友達の結婚式なら2次会だって参加して飲むだろ?それから電車を乗り換えて帰るのは大変だろ。気にしないでたまには甘えろよ」


「だって・・健吾だって・・」


私が言葉を返す前に健吾が遮る。


「いいから。まあ、夕方にでもそっち着くようにして適当に飯でも食っているから心配するな。2次会でも3次会でも終わったら電話して。まあ、楽しんで来いよ、な!」


そう言って笑った健吾の笑顔がたまらなく愛しく思えた。私の返事は聞かず「決まりな!」と笑っていた。

そんな気持ちに私が甘えてしまっていいのかわからなくなっていたけど、やっぱり健吾の笑顔が嬉しくて甘えることにしてしまったんだ。

それで結局健吾が結婚式場の近くに着いた時、私も2次会が終わった時にお互いメールすることを約束してそのままアパートまで車で送ってくれた。そして荷物を持った私をまた駅まで送ってくれた。

何か・・・懐かしい空気だった。何も考えずに健吾と仲良くしていた時みたいで。

いいのかな・・私こうやって健吾と一緒にいて。

そう考えながら昨日実家に帰って来た時と同じように、また健吾の事を思い出してしまった。

これから英輔と会ってしまうだろうという緊張感よりも、やっぱり健吾の事が頭の中を占めていた。


「お客さん、着きましたよ」


運転手さんの声でハッとして正面を見ると、式場の入口前に到着していた。直ぐに支払いを済ませ車を降りる。

立派な建物に一瞬面食らうが、今まで頭の中にあったすべての事をクリアにして深呼吸する。


「はぁ~、よし!行こ」


小さな声で気合を入れて入口に足を進めた。


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