悩みの種 ①
最近、考える事がたくさんある。
健吾と伊東さんの事で頭がいっぱいだったのに、ここ最近は来週の日曜日に真奈美の結婚式に行く事へのため息が私の生活に染み付いてしまった。
決して真奈美の結婚式がため息の理由じゃない。そこに参加するだろう佐山 英輔に会うと思うと、自分の中のいろんな気持ちがザワザワと騒ぎ出す。
昔好きだった人・・・でも今好きなわけじゃない。昔すごく仲よかった男友達・・・でも失恋して今は友達でもない。
そしたらどんな感じで顔を合わせればいいの?
「お久しぶりです」って言うの?それとも「元気だった?」かな。それとも・・・無視??
もうそんなことも分からない位微妙な関係になってしまったというか、私がそうしてしまったんだ。
あ~どうしたらいいのかな。
「楓~どうした?最近ボーっとしたり、よくため息ついてるわね」
咲季先輩が自分の席からイスのキャスターを滑らせながら私のそばまで来て、耳元でささやいた。
ハッと横を見ると、探るような目をして私を見ている。
「時間あるならさ、うち寄って行かない?」
「え?あ、はい。いいんですか?」
「たまには家飲みもいいよね。何か美味しい物買って帰ろう」
「はい」
「じゃあ、早くその報告書終わらせちゃってね~」
そう言いながらまた自分の席までイスを滑らせて戻っていった。
咲季先輩のそんな姿を見るとつい笑ってしまった。
目の前に座っている健吾に見られていたらしく、「どうした?」って聞かれたけど「何でもな~い」って笑ってごまかした。
「何だよ、変なの」
そう言った健吾も気にした感じはなく、また報告書の記入に視線を戻してる。
それからとりあえず今日必要な業務だけ終わらせて咲季先輩と会社を出た。
駅前のデパートでちょっと贅沢なおつまみとワインを買って咲季先輩のアパートに向かった。
アパートといっても着いて目の前に見たらそれはお洒落な建物だった。
部屋に入るとそこはまたお洒落な空間だ。1LDKの部屋にやわらかい色合いの家具や雑貨が清潔感も表している。
「先輩素敵なお部屋ですね」
「そう?何か住んでしまうとまた不満が出るけどね。まあ、こんな部屋だけど適当にくつろいでね」
そう言ってテーブルの上に買ってきた料理を皿に並べ始めた。
「手伝います」
私も袋からワインを出して、テーブルの上に置く。
「最初はワインとビールどっちがいい?」
「じゃあ、ビールで」
私が答えると冷蔵庫からビールを4本出してテーブルにビールグラスと一緒に置いてくれた。
あっという間にテーブルの上はおつまみとお酒で埋め尽くされて準備万端だ。
「さあ、座って」
咲季先輩がイスを引いて座るように促してくれる。
私が座り、咲季先輩も向かい側に座るとビールをグラスについでくれた。
「じゃあ、お疲れ」
「お疲れさまです」
2人で軽くグラスを合わせて最初の一口を飲んだ。あ~、美味しい。グラスも冷えていて喉に通るビールが気持ちいい。
「さあ、食べよう」
少し大きめのお皿にサラダ春巻き・きのことチーズのマリネ・アンチョビのキッシュ・ハーブソーセージを少しずつのせて渡してくれた。
「いただきまーす」
まずはマリネから食べてみた。
「美味しい!何かこういうのいいですね」
「そうだね。友達とはこんな感じで飲むことあったけど、楓とはなかったよね」
ビールをグッと飲んだ後、咲季先輩もアンチョビのキッシュにフォークを刺して食べ始めた。キッシュの味が美味しかったのだろう、オッっと驚きから笑顔の表情になった。
「はい、今日は誘ってくれてありがとうございます」
「いいえ~。しっかしこの料理美味しいね」
2人して暫くお惣菜を食べ比べしてビールを2本ずつ空けた。どれを食べても美味しくて幸せな気持ちになれた。
咲季先輩が1度立ち上がり、冷蔵庫からお皿に並べられた3種類のチーズを出してテーブルに置き、買ってきた赤ワインを開けてグラスについでくれた。
「それで、最近の楓のため息の理由は何?山中くん?」
咲季先輩が本題に入る。咲季先輩に隠すものは今更ない。
「いえ、健吾じゃなくて・・・う~ん、健吾のことはいつも頭にあるんですけど。来週幼なじみの結婚式に行くのですけど、そこで会いたくないと言うか苦い思い出の人に会ってしまう予定なので気が重くて・・・」
「会いたくないって元彼?」
咲季先輩に隠すものは今更ないとか思いながら遠まわしな言い方をしてしまい勘違いさせてしまっている。
「そうじゃなくて、昔好きだった人です」
「ああ!前に言っていた男友達?」
そう、咲季先輩には昔の失恋話は言ってあったからすぐ理解できたみたい。
「中学生の頃から仲良くなって高校生の時に告白したけど振られちゃって、友達関係も破綻してしまった人に会った時にどう接すればいいのかわからなくて」
これが簡潔にまとめた今の悩みだ。一言で言えば気まずい、こんな気持ちでいるのは私だけかもしれないけど私は真剣に悩んでいる。
咲季先輩はそんな私の気持ちをちゃんと理解してくれたようで、うんうんと頷きながら私の言葉を聞いてくれた。
「楓が好きになった人とは友達にならないって心に決めさせた男ね。それでだとうとう会う機会が来たわけだ。そっか・・・嫌いじゃないけど会いたくない人ね、でもさ高校の時じゃ10年近く経っているわけでしょう?失恋した時とは違って、会って話してみればまた違う空気を感じるんじゃないかな?お互いもう大人だしさ。仲いい男友達だったんでしょ?身構えないで素の楓で相手を見てみなよ。今の楓は素敵な大人女子だよ」
こうやって咲季先輩はいつも勇気付けてくれる。私のトラウマになってしまった原因の英輔に会う緊張と不安を解いて違う可能性を見つけてくれる。
確かにあれからもう10年経つのだから自分が思うほど悩むことないのかもしれない。
笑顔は出せなくても、「久しぶり」って自然に言うことくらいできるかな?話せたらいいな・・・少しそう思うことができた。
「素敵な大人女子ではないけど、うん・・頑張ってみます」
「よし!えらい!じゃあ、楓の頑張りに乾杯!」
「乾杯」
カチーンっと2人笑顔でグラスを合わせた。




