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君が好きだから嘘をつく  作者: 穂高胡桃
17/60

君の好きな人 ②

「楓、楓、どうした?ボーっとして。まだ酔うほど飲んでいないだろ?」


健吾に呼ばれてハッとして前を見ると、健吾が私の顔を覗き込むように見ていた。いけない・・つい健吾が伊東さんの恋愛話をどんな顔で聞いているのか想像しながら時が止まってしまった。


「ごめんごめん、酔ってもいないのにボーっとしちゃった。ちょっと仕事のこと思い出したの」


嘘をついてごまかす。いけないいけない、集中しないと。伊東さんに向かって「ごめんね」って謝ると、「いいえ」ってまたあの可愛い笑顔で返してきた。


「みなさん同期なんですよね、仲が良くて羨ましいです。私はあまり同期の飲み会とか参加していないから、なんかこんな雰囲気いいなって思いました」


伊東さんが羨ましいと言った表情に嘘はない感じがした。


「そう?でも今まで3人揃ってって言う飲み会はほとんどなかったんだよ。この前接待の帰りに、3人で飲むのは本当に久しぶりだねって言いながら飲んだの。伊東さんは会社の飲み会って苦手?」


私も率直に思ったことを口にした。


「私はみんなで飲むのとか好きなんですけど・・・その彼氏があまりいい顔しないので・・・」


ためらいがちに伊東さんが呟いた。健吾も澤田くんも何も言わずに聞いている。まあ、健吾はいろいろと伊東さんから聞いているのだろう。でも、何も言葉を出さずに伊東さんの顔を見ているから、私が話をするべきなのかな?と思った。まあ、彼女の悩みを聞きに来たわけだからね。


「いくら会社の集まりと聞いても、やきもち妬くってことかな?異性のいる集まりに行かせたくないのね。でも、今日だって2・2で飲んでいて合コンみたいに思われると思うけど大丈夫なの?」


今日のこと彼氏に言ってきたのかな?勘違いされたらヤバイよね。

でも、伊東さんは顔色変えずに言った。


「今日、みなさんと会うことは言ってません。ナイショと言うか、今喧嘩しているというか、あまりに束縛が凄いので少し前からもめていて、どうしたらいいか悩んでいるんです」


それで健吾と連絡取っていたんだ・・・。

伊東さんがそこまで話したとこで、健吾も話し出した。


「最近伊東さんが元気なかったからさ、俺も気になって聞いてみたんだ。あまり話したくないことだったと思うけど話してくれたから、ちゃんと一緒に考えたいと思ってさ。でも俺が伊東さんにとっていい意見が言えるか分からないから、楓にも隼人にも一緒に話を聞いてあげて欲しいと思って今日来てもらったんだ。楓と隼人だから安心して相談してみなって言ったのに、なんか緊張させてごめんね。でも、せっかくだから何でも思っている事言ってごらん」


すごく優しい言葉だった。その優しい言葉が私の心に突き刺さった。それは健吾の愛情で、話しながら伊東さんを見つめる目に全てが込められてる。伊東さんは気付かないのかな?


「ありがとうございます。すごく嬉しいです」


健吾の顔をまっすぐに見て微笑んだ伊東さんを見て、自分の中に真っ黒で渦巻いている嫉妬心に潰されそうになった。

もう嫌だよ・・・この2人を目の前で見ていたくない。帰りたい、帰りたい・・・カンパリソーダを一気に飲み干しながら、その気持ちも飲み込んだ。


「健吾と話すようになったのは仕事で?」


澤田くんが突然方向の違う質問をした。


「あ・・いえ、会社ではほとんど話したことなかったのですけど、うちの総務課と営業部の方との飲み会に参加した時からちょっとずつお話させて頂きました」


「ああ、そうなんだ」


「澤田さんは参加されていなかったですよね」


「うん、行ってないね。飲み会はほとんど参加していないからね」


澤田くんの言葉に伊東さんは、うんうんと顔をたてに振りながら聞いている。

健吾もとりあえず2人の話を聞いているみたいだ。


「その飲み会も彼氏に行くことは伝えなかったの?」


澤田くんが聞くと、伊東さんは「はい、急に人数が足りなくなって呼ばれたので彼には言ってなかったです」と答えた。健吾もそれは知らなかったみたいで真剣に聞いている。


「飲み会とか合コンは参加していないの?」


「はい、そうゆう場はほとんど参加していません。彼氏がいるので参加するのもちょっと・・・だし、少し前から彼の束縛も結構きつくなっていたので。あと、山中さんと友達交えてお食事に行く時も伝えませんでした。食事って言っても信じてもらえないし・・・」


「前は束縛はされなかったの?」


私も気になって聞いてみた。


「はい・・前はなかったです。職場の歓送迎会とか女子会とか言っても疑わなかったのに、今は全部疑われちゃって。それで喧嘩みたいになってしまうんです」


「そっかぁ、それじゃあ友達と会うのも疑われて嫌だよね」


つい、伊東さんの気持ちに同意してしまった。でも、確かに毎回疑われたら嫌だよね。

うん・・そうだなって思ったとこで澤田くんがまた口を開いた。うん・・そうだなって思ったとこで澤田くんがまた口を開いた。今までの澤田くんのイメージと違うって感じる程、今日の澤田くんは会話に参加している。


「前はなかったのに、それだけ疑われるってことは何か見られたり知られて彼が疑いを持ったってことはないのかな?」


「何かを見られたり、知られたりですか・・・」


伊東さんが考え込んだ。思い当たるふしがあるのかな?


「う~ん、分からないです。でも、携帯を見たりする人ではないと思うし、私もやましい事はしていないつもりです」


健吾と会ったり話したりしていることは彼女にとって何なのだろう。彼女が悪いわけじゃないかもしれないけど、健吾の気持ちは?彼氏にナイショで健吾に会っている事に少しはやましさを持って欲しい。あ~本当にだめだ。私にはアドバイスも何もできない。ごめんね、あとは澤田くんにお任せしちゃいます。


「じゃあ、束縛抜いたら彼氏のことは好きなの?」


澤田くんストレートすぎる!あまりにビックリして思わず健吾の顔見ちゃった。ほら・・・複雑な顔しているよ。伊東さんが「好きです」って言ったらどうするの?健吾おもいっきり傷つくよ。そりゃあ、伊東さんに「彼氏のこと好きです」って言って欲しいけど、その言葉を聞いた健吾を見たくない。

どれだけ苦しいか私には分かるから・・・


「好きだよ。伊東さんは彼氏のこと好きだよ。好きなのに束縛されて苦しいから悩んでいるんだよね」


答えたのは・・・健吾だった。悩んでいるのか答えられなかった伊東さんに代わって健吾がそう答えるなんて。信じられなくて息が止まった。今までの会話を見守って聞いていた健吾がここで伊東さんに助け舟を出した。健吾が伊東さんを見て、伊東さんも健吾を見ていた。私・・・もう嫌だ。


「私、ちゃんと考えてみます。自分の気持ち、束縛される理由も。ちゃんと話し合ってみます」


「そうだね」


ちゃんと考えると言った伊東さんに澤田くんはそれ以上の言葉は言わなかった。

健吾も「頑張って」の一言を伝えて、私はその時にできる精一杯の作り笑顔を向けた。

私、やっぱり何のアドバイスもできなかったね。












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