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君が好きだから嘘をつく  作者: 穂高胡桃
16/60

君の好きな人 ①

「そろそろ向かうか・・・」


約束の時間から30分過ぎた。一度会社に戻った時、健吾に「一緒に行こう」って言われたけど、「寄りたい所があるからお店で会おう」と約束して先に会社を出た。

本当は寄りたい所なんてなかったから、予約した洋風居酒屋から少し離れたカフェで気持ちを落ち着かせる為にコーヒーを飲んでいた。

もう、澤田くんも来ているかな?さすがに3人はキツイからな。普段時間は守る主義だけど、今回だけはあえて遅刻した。

でも、もう行かないと・・・ため息を1つ吐いてカフェを出た。


「よし、行くか」


店の前に立ち気合を入れて店内に入った。予約名を告げると、健吾達がいる部屋の前まで案内された。


「遅れてごめんね・・・」


一言言って部屋の中に入ると、そこにいたのは健吾と伊東さんの2人だけだった。


「ああ、待ってたよ。よかった隼人がこっち向かってるけど少し遅れるって連絡あったから」


「あ・・そうなんだ」


最悪・・澤田くんがまだ来ていないなんて。目の前に健吾と伊東さんの姿を見ただけで胸がザワザワ騒ぎ出した。耐えられないかもしれない・・・

不安な気持ちに襲われたけど、ここまで来てしまったのだからどうにか耐えないと。とりあえず席につこう。そうして2人の傍に立ったけど、向かい合って座っている2人のどっちの隣に座るか一瞬悩む。

とりあえず近いと言う名目で伊東さんの隣に座ることにする。

本当は隣に座れば伊東さんの顔をあまり見なくて済むからだ。座る時に伊東さんを見たら、彼女がニコリと微笑んだ。


「こんばんは、遅れちゃってごめんなさい。柚原楓です」


「こんばんは、伊東麻里です。よろしくお願いします」


「職場で顔は見るけど、話すのは初めてだね、よろしくね」


「はい。今日はみなさんの集まりに混ぜて頂いてすいません」


彼女のやわらかい笑顔と違って私は営業スマイルになってしまう。健吾にはばれるかな?

しかし伊東さん笑顔が可愛いな、声も柔らかいし。

私達の自己紹介が済むと共に、健吾も会話に入ってきた。


「俺達もさっき着いたばっかりでまだ何も頼んでいないから、先に頼んで始めていよう」


健吾はさっきまで開いていたメニューを私達に向けて、何が食べたいか聞いてきた。

とりあえず伊東さんと相談して、料理と人数分のビールをタッチパネルで注文して、すぐに運ばれてきたビールで乾杯した。


「伊東さんとは総務課で書類出す時に会うけど、話す機会はなかったね」


「そうですね、柚原さんのこと姿はいつも見ていました。私達事務には女性の営業職の方は憧れなんです。それに山中さんからよく柚原さんのことを聞いていて、素敵な方なんだろうなぁって思ってました。だから今日お会いできて嬉しいです」


「そんなこと言ってもらえる人間じゃないよ。仕事頑張っているわけでもないし、お酒ばかり飲んでいるし。でも、ありがとう」


正直喜んでいいのか気持ちは微妙。憧れてもらうような仕事できてないし、健吾が私のこと何て言っているか分からないけど、私は素敵な人間ではない。あ~だめだ、完全に後ろ向きになっている。


「楓はよく頑張っているよ。男の俺だって嫌になる時も、落ち込む時もある。同じ環境で頑張っているんだもんな」


「山中さんも落ち込む時あるんですか?想像できません」


「そりゃあ、あるよ」


せっかく健吾が褒めてくれても、目の前で楽しそうに話してる2人に言葉が出ない。やっぱり私いらないじゃない・・・つくり笑いしながらドリンクメニューを見ていると、突然健吾が澤田くんの名前を読んだ。


「隼人!待ってたよ、お疲れ」


「ごめん、遅くなって」


健吾が澤田くんの名前を呼んだ声で私も振り返る。ああ・・やっと澤田くんが来てくれた。3人という空間に身の置き場のなさを感じていたとこだったから、ホッとしてため息が漏れた。

私の前に座った澤田くんは急いで来たのか少しだけ呼吸が速かった。


「隼人急いで来たの?ごめんな、忙しい日に」


「いや、今日は残業するつもりじゃなかったから、時間に間に合うって言ってあったのにゴメン。だからちょっと急いで来たんだ。本当にゴメンな」


本当にゴメンなって言った時に澤田くんと目が合って、私も首を振って答えた。今日参加するって聞いた時も意外な感じと思ったけど、遅刻して息が上がる程急いで来たことにも驚いた。


「大丈夫だよ、先に乾杯させてもらっているからさ、隼人は何飲む?」


「あ!これドリンクメニューだよ」


私は持っていたメニューを差し出した。


「柚原は?何か頼もうとしていたんじゃないの?」


澤田くんの飲み物を聞こうとして逆に聞かれて、メニューに目を落として「じゃあ、カンパリソーダで」と答えた。そっと横の伊東さんを見ると、ビールがあまり減っていなかった。


「伊東さんビール苦手なら何か甘いお酒にする?遠慮しないで」


「あ、すいません。じゃあ・・・カシスオレンジお願いします」


私達の会話が済むと澤田くんがタッチパネルを手にして健吾にも追加を聞き注文してくれた。

カシスオレンジ・カンパリソーダ・そしてビールが2つ運ばれてもう一度乾杯した。


「伊東さん、営業部の澤田です。個人的にはほとんど話したことないけど、いつもお世話になってます。よろしくね」


澤田くんが落ち着いたトーンで自己紹介する。笑顔つきで。


「伊東麻里です。今日はご一緒させて頂いてありがとうございます。よろしくお願いします」


「初めてのメンバーで飲むから緊張するって言っていたけど大丈夫だろ。2人共いい奴だからさ」


伊東さんに向かって健吾が優しい笑顔で話しかける。いい奴って言われて、複雑な気持ちになる。この場では決していい奴なんかじゃない。トゲトゲした心を持った嫌な奴だ。私はこの飲み会に何の為にいるのだろう・・・伊東さんの恋愛話かぁ。健吾はいろいろと聞いているんだよね、彼氏のこと。健吾はどんな顔して聞いているの?この前、美好で電話かかってきた時は外へ出て行ったから見ていないし。健吾も私と同じように、平気な顔して苦しんでいるのかな?そして、笑って「頑張れ」とか言っちゃったりしているのかな?だったら・・・見たくないな、そんな健吾。自分を見ているみたいで私まで苦しくなるよ。

ああ、私は彼女に何を言えばいいのかな・・・











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