彼女は恋敵
「やっぱりここのランチ美味しいですね」
「そうだよね。メニューも豊富だし美味しいし、いいお店だよね。せっかくの美味しい料理なのに話に夢中で冷めちゃってごめんね」
1口サイズのお肉をパクつきながら「ごめんね」って甘えた顔して言う。
営業部に配属されて、ほとんど周りは男性ばかりで女友達の作れない環境で、こうして一緒にいる事を楽しめる女性に出会えたことは幸せだなって、私もお肉にパクつきながら思った。
自分の気持ちに嘘ついて無理して笑っていると、時々ふと涙が出てしまう。そんな私の隣で笑顔でいてくれる温かい女性なんだよね。
ボーっと考えていると咲季先輩が私の足を軽く蹴ってきた。
「え?」
「後ろ、今入り口に伊東さんが入ってきたよ」
コソコソ話のように小さな声で私のささやく。そっと振り向くと確かに伊東さんだった。同僚達と食べに来たのだ。彼女たちは会社の制服だけど、私達営業は私服スーツだから気付かないかもしれない。
それに私の顔を見ても、彼女は私を知らないかもしれない。でも同じお店にいるのは何だか気まずい。
咲季先輩は顎で合図をし、「後ろに座ったよ」と小さな声で教えてくれた。
「出る?」
気を利かせて言ってくれる。でもこんなことで甘えてられない。
「いいえ。大丈夫です」
私達2人何もやましくないのにコソコソ話している。あんなに美味しく感じていた料理もまったく味が分からなくなっている。それくらい私には会いたくない人だ。
気にしないようにしているけど、私は後ろに聞き耳を立てているのだろうか?彼女たちの話が耳に入ってくる。
「ねえ、今日の合コン7時集合だからね」
「OK~」
「今回お金持ち系でそろえて貰ったから絶対逃したくないよね!」
みんな夢中で話している。伊東さんの声はどれ?さすがに振り向けない。
彼女も合コン行くのかな?健吾泣くよ!
咲季先輩を見ると軽く首振っている。伊東さんの声じゃない?気になって彼女たちの会話に集中する。
「ねぇ~麻里もたまには行こうよ~。彼氏いたっていいじゃない、秘密にするからさ。そんなに彼氏とラブラブなの?」
「そんなラブラブなんかじゃないよ」
「だったらいいじゃん。お金持ちとなかなか出会えないよ~。飲み会だけでも楽しもうよ」
「そうだよ~、ねえ一緒に行こう」
どうするの?伊東さん。咲季先輩も気になるのか、また足を軽く蹴ってくる。
合コン行ったらモテるだろうな、可愛いものね。
「う~ん、ごめんね。やっぱりやめておく」
「え~なんで?もったいないよ」
「行こうよ~」
「ごめんね。ラブラブなんかじゃなくて、最近喧嘩しちゃったりしてるからさ。今は疑われることしたくないんだ。本当にごめんね」
「そっか、わかった」
「うん麻里も大変だね、頑張れ!」
「麻里なら男うけするのにもったいないな。まあ、また誘うから行きたくなったらおいで」
「ありがとう」
そっか、ちゃんと合コンの誘いは断るんだ・・・憎みきれないなぁ。
でも、健吾とは食事したり、メールしたりしてるのでしょ。
よくわからないよ。伊東さんを理解するのは難しい。
健吾とはどうなのだろう・・・彼氏とうまくいってなかったら、もしかして別れたりする?健吾は知っているのかな?そしたらどうなるの。
視線を上げて咲季先輩を見ると、やっぱり難しい顔をしてる。
同じことを考えているのかな・・・
彼女たちが話題を変えても、私の気持ちは切り替えられなかった。




