表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GOVERNMENT EMPIRE  作者: Lirenoa
第四章 取捨の章
92/115

MOVE 20:死と欲望と家族と……part8

 暗い。

 視界に広がる闇。

 徐々に光を取り戻すと、浩平はそこに立っていた。

 目に前にはたくさんの人間が転がっている。軍服を着るもの、私服をはおるもの。共通しているのはどの人間も動かないということだ。瞳孔どうこうが開いた目をあけて、口からは泡を吹いている。

 “よくやった。ナンバードック。君のおかげで我々の目的は達成された”

 何も達成されていない。

 “お前は私にとって優秀な部下だ”

 忠誠を誓った覚えはない。

 “最高の工作員だ”

 望んでそうなったわけだはない。

 浩平は死んだ遺体を覗き込んだままだった。浩平はずっと一点だけを見つめている。その一点には私服姿の少女が居た。少女の手足には暴行を受けたような傷があった。


 緑の平原が広がっていた。のどかな自然の命が宿る公園のベンチに浩平は座っていた。周りはビルだらけで美しい空の青は真上にしか広がっていなかった。

 この日の浩平は考え事をしていた。

 “いつか、この公園もなくなってしまうのだろう”

 と。

 まだ、帝国と政府の戦争が激化していない時代、その戦火が南下してこの地方に災いをもたらすことは明らかだった。

 「わ!!」

 後ろから大きな声が響いてきた。不意を突かれた浩平は情けない悲鳴をあげてベンチから転げ落ちた。転げ落ちた反動で浩平はいつの間にかベンチと向き合っていた。

 そのベンチには細く伸びた白い足が生えている。少女が楽しそうに笑って立っていた。

 「もう、浩平は兵隊さんのくせに臆病なんだから」

 白いワンピースをまとった少女は「アハハ」と笑った。

 「へ、兵隊だって不意を突かれたら、ひ、悲鳴をあげるだろう」

 浩平は大声で言った。

 「もう、意地っ張りなんだから浩平は」

 「“姉さん”、いくらなんでもそれはないよ。もう少し大事にしてくれてもいいじゃないか」

 浩平は“姉さん”と呼んでいるが、別に血が通っているわけではない。ただのお隣さんで年上だからそう呼んでいるだけだ。

 「大事にしてるじゃん。こうやって驚かして」

 「全然大事にしてないよ。これが大事にしてるって言えるの?」

 少女は笑って「ごめんごめん」と言った。謝罪する気はゼロ。浩平はムッとした顔を少女に向けた。

 「まあまあ。そんなに怒らないでよ。ブランコ乗ろう」


 「……」

 浩平は立ちすくんでいた。変わり果てた少女を見下ろしている自分が許せなかった。

 こうなってしまったのは自分のせいだった。

 自分が作戦を遂行してしまったから……。

 「――――――――」

 浩平はぼそぼそと何かをつぶやいた。




 今の状況は浩平の過去のそれと似ている。

 任務を遂行すれば、修二が死ぬ。世界の破滅を優先してまで己を殺すか。

 「さあ、押せ」と言わんばかりにラズナはひっそりと圧力をかけてくる。その笑顔は憎い。

 しかし、浩平に立ち向かう勇気はなかった。下手に攻撃をして負けてしまえば、このスイッチはラズナの手に渡り……目的を果たすことはできないだろう。

 「さあ、どうするんだ? やらないのなら、お前のその手からそいつを奪うまでだ」

 ラズナが言うと、浩平の手が突然しびれた。疼痛にあぶられて、浩平の手から運命が離れていった。運命は吸い寄せられるようにラズナの手元に納められた。

 視線がラズナに集まる。

 「お前たちには感謝している。だから、せめてその眼で我が世界最強を成し遂げるのを見届けるがいい」

 そう言ってラズナはスイッチを押そうとした。

 次の瞬間。ラズナの手は何かに撃たれた。ラズナは詰まるような悲鳴をあげる。

 「誰だ!?」

 ラズナは睨み付けた。



 硝煙をあげる銃口。その銃を持った少年の背中には子供が乗っている。

 少年は大声で怨敵おんてきの名を叫んだ。

 「お前は……お前だけは……」

 揺れる少年の背中に乗っている女の子の手がだらりと垂れる。その手には血が滴っていた。


 「絶対に倒す」


 低い声で少年はそう言った。ラズナは撃たれた手で空気を払い、

 「おもしれえじゃん」

 と言った。

 次の瞬間にはラズナの顔は真剣そのものになっていた。怒りと屈辱のその表情は、帝国に向ける修二のそれと同じだった。

 「だったら……」

 ラズナは一歩前に出た。両手を広げる。


 「勝ってみろ!!」


 ラズナは叫んだ。それと同時に電撃の弾丸を飛ばす。

 無数にちりばめられた弾丸は修二の逃げ道をふさぐ。しかし、修二は冷静で、ショットガンをもう1発、発砲して地面を強く蹴とばした。勢いよく飛び出した修二は一瞬でラズナとの間合いを詰めた。

 しかし、修二は何かに行く手を阻まれて思うように行動ができなくなった。風圧だ。

 さらに、強い熱が修二を襲う。ショットガンを握る指が火傷してしまいそうだ。

 「驚異的な能力を食らうがいい!!」

 ラズナがそう言ったとき、すでにラズナの胸にショットガンが押し込まれていた。ラズナはすっとんきょうな声をあげる。

 「美海穂の、仇だ」

 引き金は静かに握られた。

 ラズナはショットガンに吹き飛ばされ、胸についていたコアはガラス玉が砕けたように飛び散った。



 ラズナは吹き飛ばされながら思った。

 「なぜ、このような結末になっているのか」と。

 「どうして、奴は自分に攻撃を与えられたのか」と。

 ラズナが修二に負けるはずなかった。能力的にも、圧倒的にラズナの方が上だった。電磁バリアーは攻略されたが、電気で生み出した熱と風圧で攻撃を阻止することは可能だった。なのに、修二は熱と風の壁を貫通してラズナに攻撃を食らわしてきた。

 修二の手は限界だったはず。

 絶対に火傷は負ったはずだ。

 ラズナは倒れながら、銃を握る修二の手を眺めた。

 修二の手にはめてあるハーフフィンガーグローブは焼けただれて、修二の手は真っ赤になっていた。

 矛盾している。矛盾だらけだった。


 「人は、気持ちの持ち方次第で、常時の能力以上の能力を発揮できる」というのか。


 科学では解明できないことがある。

 人の感情を数値化することができないのと同じように。

 ラズナの敗因はいたって簡単だった。人間をザコだとあなどっていた。ただ、れだけだった。

 白く冷たい地面にラズナは倒れた。

 生物界最強の夢は冷めていった。所詮、人間に生物界最強なんて無理だ。そもそも、最強なんて居ないのだ。



 「終わったよ。美海穂ちゃん……」

 修二はそう言った。

 美海穂が最後に残した言葉、『52463』は裏口の暗証番号だった。つまり、美海穂が居なければ修二はこの場に立っていなかった。




 「儚いな……人間というものは」

 由紀はそんな言葉を残した。


あの後研究所を爆破し、ラズナを捕縛した。そして、美海穂の遺体をゴールドスノウの墓地に埋葬した。

 慰霊いれいを済ませた一行は冬馬の命令で町の中心地に集められていた。街灯とベンチの広場だった。

 「君らにはここから出て行ってもらう」

 冬馬が怒り心頭にそう言った。

 「君たちが大人しく僕の命令を聞いて居れば、こんな結果にならなかった」

 「なぜだ? なぜだ?」と冬馬は繰り返す。

 悲しいことだった。

 「人の言うことを聞けない人間なんて僕は入れた覚えがない。帰れ。そして、帝国に潰されてしまえ」

 「そんな言い方って……」

 「黙れライフル女! 貴様も同罪だ。でてけ」

 冬馬は聞く耳を持ってくれなかった。

 興奮していて、とてもじゃないが修二達がゴールドスノウを去る以外に選択肢はないように思えた。

 口を閉ざし誰も、物申すものが出なくなった時だった。


 「何を勘違いして怒鳴り散らしているんだ?」


 そう言ったのは由紀だった。

 「なんだと?」


 「命令違反をしたのは私だけだ」


 冬馬よりも修二達のほうがその発言に驚いた。

 「私が嘘の情報を修二達に流した」

 「それは本当なのか?」

 「本当だ」

 由紀の顔に嘘という文字が全くなかった。修二が何かを言おうとすると、黙って由紀は修二を睨み付けた。修二が言葉を発することはできなかった。

 「だから、追放するのは私だけでよかろう?」

 冬馬は少し悩むような表情を浮かべた。顎に手を付けて、しばらくざらざらした口元をなぞると、

 「いいだろう。なら、お前だけ出ていけ」

 と言った。

由紀は俯き、とぼとぼと去っていく。くだらなそうに鼻で笑っているようにも見えた。


 由紀はすでにバイクにまたがっていた。寂しそうな表情を浮かべ、ヘルメットに手を掛ける。

 「待って由紀ねえ」

 親しみのある声が聞こえた。由紀はただ幻聴を聞いているのだろうと作業を続ける。フルフェイスのヘルメットをかぶろうとした時だった。

 「由紀ねえってば」

 続く声に由紀はようやくその存在を確認した。

 ゆっくり振り返ると、そこには息を切らして立っている修二の姿があった。

 「修二……。どうした?」

 優しい声で由紀はそう尋ねた。

 「どうして?」

 修二は言う。由紀は見覚えのないように首を傾げた。

 「どうして、あんな嘘をついたの?」

 「嘘? 何のことだ?」

 「由紀ねえが僕に嘘の情報を流したって話」

 由紀は鼻で笑った。

 「嘘なんてついてないぞ。それは本当の話だ」

 「でも……」

 「お前は何も気にしないでいい。ただ、帝国を倒すための戦略を考えていればいいんだ」

 由紀はまた寂しそうな表情を浮かべた。

 「なあ、修二。浩平を頼むぞ」

 「……」

 「じゃあ、またな」

 由紀は手を動かし始めた。

 「絶対、死ぬなよ」

 ヘルメットをかぶる前にそう言って、由紀はバイクを走らせた。寒い夜の闇に由紀は消えていった。

 その間、修二はずっと引っかかっている事があった。




 おりがあった。その中でラズナはじっとしていた。

 「気分はどうだ? 実験長さんよ」

 誠也の低い声が響く。

 「誠也か……。お前にはたっぷり聞きたい事がある」

 「なんだ? 言ってみろ」

 「何故、研究所を逃げ出しりした」

 誠也は考えるようにラズナから目をそむけた。

 「……目的が変わったからだ。それ以外に何があるというのだ?」

 「目的か。その目的ってのは何なんだ?」

 「貴様には関係のないことだ。家族を切り刻むお前にはな」

 「糞ったれが、所詮は臆病者なだけなのに」

 いきなり静かだったラズナが暴れだした。

 鉄格子に顔を押し当てて、誠也を睨み付ける。

 「何をのこのことゲリラに味方してんだ。貴様……。政府側の人間を恨んでいただろう? 貴様がなぜ……?」

 「“今”は政府ではなく帝国を恨んでいるのだ」

 「何故? 帝国はお前を快く受け入れてくれただろうが」

 「ああ、確かに帝国は俺を受け入れてくれた。だが、政府に手をまわしていたのも事実だ」

 「なんだと? そんな事、聞いた覚えはない。帝国が政府に加担してたなど知らぬぞ」

 「そりゃ、貴様が知る訳もなかろう。俺たちは帝国から幽閉されていたんだ。そして、思うがままに操られて調子のいい言葉に騙され続けてきたのさ」

 「なら、なぜ貴様は“あの時”止めなかったのだ。どうして、相談を持ち掛けなかった」

 誠也は近くの椅子に腰を下ろして、頬杖ほおづえをついた。


 「“目的”が変わったからだ」


 誠也はただそう言った。

 すると、ラズナの暴走が止まった。

 「お前も恐ろしい人間だ……。まるで狐だ。狡猾で、残酷で、恐ろしい……」

 鉄格子にかかっていた手をずるりと下ろし始める。

 「欲望に頭を支配されるよりはまだましだとは思うがね」

 「あの時、貴様を殺しておくんだった……。そうすれば、こんな屈辱――――――」

 「まあ、ゆっくり反省するんだな。母性亡き母親よ」

 誠也は去って行った。その間、ラズナはずっと誠也を睨み付けていた。


 「シオトよ――――――」


 それは誰かの名前だったのだろうか。

 頭をがくりと下げて、ラズナはずっと悔しそうに鉄格子に手をかけていた。

ご精読ありがとうございました。

次回話に続きます。


もしかしたら来週、投稿できない可能性があります。

ご了承ください……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ