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GOVERNMENT EMPIRE  作者: Lirenoa
第四章 取捨の章
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MOVE 16:死と欲望と家族と……part4

 そこは、肌寒い部屋だった。

 周囲には寂しげに主人の帰りを待っている機械たちが、ほこりかぶって起動させられることを望んでいる。

 埃臭い部屋の隅には、カビらしきものが生えている。

 「ここは、使われなくなった制御室だ。ラズナの研究施設の中核につながる道でもある」

 誠也は淡々(たんたん)と言った。

 しかし、中核に続く道にしては少し寂しい。

 「本当にこんなところに道なんてあるのかよ?」

 浩平は首を傾げた。

 しかし、誠也は何もないその部屋を物色し始める。

 「何してるんだよ、おじさん。こんな時に宝探しごっこか?」

 「まあ、そんなものだ。ちょっと、機械を探している……」

 そう言うと、誠也はある機械の前で止まった。似たような機械ばかりがある部屋で、その機械に何の意味があるのかは分からない。

 「こいつだ。記憶が確かなら……」

 言って、誠也は何かを探る。

 「そんな、変哲もない機械に何があるって言うんだよ」

 「隠しルートだ。設備が変わっていなければな」

 その時だった。


 ばちばち。


 部屋の奥で、奇妙な音が聞こえる。どこかで電気が漏電しているようだ。

 「なんだ今の音、壁の奥から聞こえたぞ」

 浩平は怖がって一歩退いた。

 音のする方角には、壁しかない。

 その壁が揺れている事が分かる。そして、部屋が揺れていていると感じたとき、部屋の壁は破られた。

白い埃が呼吸器に容赦なく入り込んでくる。せきのどらし、苦しさに涙が漏れる。

 我慢して目を開けると、かすんだ視界にうっすらと影が浮かび上がる。人をなだめるように影は2人を見下ろしている。笑っているようにも見えた。

 人間の形をしたその影は、胸に赤い球状の何かを埋め込まれている。光を反射して禍々しい赤色に輝くそれは、時折、青白い直線の光を見せた。

 「ようこそ、生物界最強のうたげへ……」

 第一声に女はそう言った。

 女は周囲をぐるりと見渡し、その後、誠也に視点を合わせた。

 「やはり、覚えているか。いや、忘れたとは言わせない」

 先ほどまで不気味な笑いを浮かべていた女が男の声を聞いて、険しくなった。恨んだ人間を見るように誠也はラズナを睨む。

 「俺の面を覚えてるようだな?」

 誠也は冷静に質問する。ラズナは体を震わせ、何か言いたそうに口をもごもごと動かしていた。

 2人は睨み付けるだけで、その場から動こうとしない。

 すると、静まり返った室内に、電撃が走った。

 「小生意気になったなぁ。妻を失った時は思い切り泣いてたそうだな。その、泣きっ面をおがませて欲しいね」

 顔を上げたともうと、ラズナは不敵に笑った。

 その顔に人情というものはない。

 「残念だが、それはかなえられない願いだ。昔の俺と今の俺は違うんだからな」

 「ほう、言うようになったな。昔は研究以外には口出ししない人間だったのにな」

 「あのころの俺は偽物だ。今の俺が本物だ。さて、七香の居場所を教えてもらおうか?」

 不屈な態度をとる誠也に、ラズナは腹を抱えて笑うだけだった。

 「何がおかしい?」

 「今から死んじまうのに、どうやって娘を助ける?」

 ラズナは抱腹絶倒ほうふくぜっとう

 「笑うなら勝手に笑え、でも、ここは通させてもらう」

 言って、誠也はラズナに銃を向ける。威風堂々の姿勢を見せる誠也にラズナは吹き出しそうなっていた。

 「なんの真似だ? 運動もしない研究者が、銃なんて持ち歩いて何様のつもりなんだ?」

 ラズナはふと笑いをこらえて、ぎろぎろした視線を誠也に向ける。


 「撃ってみろよ」


 ラズナはネズミを見た猫のような目をしている。

 誠也は一瞬引き金を引くのを躊躇ためらったが、怨敵おんてきのラズナを前にこれ以上のチャンスはないと、発砲する。発射と同時に降りかかる銃の反動に腕が押し返される。一直線に飛び出した弾丸はラズナの頭に向かって行く。

 しかし、ラズナに手前で銃弾は何かに当たったかのように、弾かれて地面に落下した。驚くことに、銃弾は原型をとどめたまま落下している。

 単なる見間違いだろうと、誠也はもう一発、銃弾を発射する。

 結果はさっきと同じ。コロコロと無残に銃弾が転がる。

 「ふざけているの? これは、遊びじゃないんだぞ?」

 ラズナは手で空を仰いでそう言った。

 「困ったねぇ。お前は本当に困った人間だよ。わたくしに母性がないとそう言いに来たついでに、この思い出の地を破壊しようとたくらんでいるのだろう?」

 誠也は黙ってラズナの言い分を聞き入れる。

 「図星みたいだな。そんじゃ、もう殺しても構わねえよな?」

 ラズナは仰いだ手を背に隠す。するとラズナは前のめり、勢いをつけて隠した手を誠也に振りかざす。瞬間、電撃がはじけ飛んだ。

 紫電が誠也に唸りをあげる。

 誠也は電撃を避けられるほど運動神経はよくない。然り、回避不能。

 全身を伝わる強力な電撃を受け、誠也は痙攣けいれんして倒れた。

 「ハハハハ!! ざまあねえぜ、あきらめて、あの世で恋人に抱きつきな!!」

 ラズナは誠也に吐き捨てた。


 何もできない浩平は腰を抜かしてしまった。

 次に襲われるのは自分だと知ると怯えて、ますます腰が引けてしまう。

 「若造。死ぬのは怖いかぁい?」

 ラズナはひそひそと浩平に歩み寄る。優越に満ちた微笑みが浩平を見下ろす。

その時、浩平はうっすら笑っているようにも見えた。

 「甘く見られたもんだぜ! 俺はこう見えても、月滅の町の防衛軍、由紀殿の下に使える人間だ。貴様のような天上天下唯我独尊の存在でも、俺の爆弾で打ち砕いてやるぜ!」

 その時、浩平はポケットから何かをラズナに投げた。黒いそれをラズナは手に取る。瞬間、その黒い物体から焦げ臭いにおいと、閃光が飛び出した。

 「どうだ。俺が開発した小型の気絶爆弾の威力はよ!!」

 自信満々に浩平は言った。しかし、浩平の目に飛び込んできたのは大きな雷だった。もちろん、ラズナは無傷だ。

 ラズナの鋭い視線が浩平を襲う。

 「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと……。何もそこまで怒らなくてもいいだろう?」

 ラズナは浩平に静電気を帯びた手をかざす。やがて、その手には静電気よりはるかに強力な電力を宿す。それは、生命を断つためのものだと、浩平は知っている。

 だから、背筋が凍った。動くことができなかった。

 「覚悟はできてるか? 若造」

 ラズナは余裕の姿勢を崩さない。硬直してラズナを凝視している浩平を、面白がって見ているのだろう。生気を失ったような顔に再び不気味な笑顔が戻った。

 浩平にその笑みを見せつけると、蓄えた電力を放電しようとする。

 その時、電撃とは違う効果音が鳴った。その音は、石と石が当たる様な無機質で、素朴な音だった。

 ラズナはすぐにきびすを返し、浩平に背を向けた。浩平にとっては絶好のチャンスだ。

 餌に食いつかない魚がどこに居ようか。浩平は、すぐさま先ほど投げた爆弾と同じものを手にした。勢い良く立ち上がり、渾身の力で投げる。浩平の出せる最高のスピードで、爆弾はラズナに飛んでいく。ここまでは好調だった。ここまでは。

 しかし、次の瞬間。爆弾に気付いていないと思えたラズナが振り返り、電撃で爆弾を爆発させた。

 「なにっ」

 攻撃は失敗した。

 「生物界最強の後ろをとれるとでも思うたか? それは、甘い」

 ラズナはそれだけ言い捨てて、ゆっくりと消えていった。

 浩平は固まったまましばらく動けなかった。ラズナの驚異的な反応を理解できないでいるのだ。

 あの反応は何なのだ、と。

 誰も勝てないのではないのか、と。

 密かに不安が浩平の胸に浸透していく。

 その時、浩平の目には爆弾が目に留まった。その時、浩平の脳裏には浮かんだ。

 研究所ごと吹き飛ばせば、さすがのラズナでも力尽きるだろう、と。

 「俺は、由紀殿に使える爆弾技術士。吹き飛ばせない相手はない」

 浩平は自分に喝を入れた。




 そこはとても歩きづらい構造になっていた。まるで、アスレチックに迷い込んだかのように、足元は丈夫な綱で結ばれている。

 美来はそこで目が覚めた。

 「ここは?」

 ぎしりと揺れる綱。肌に締め付けてくる縄に戸惑いながら、美来は体を起こした。眼下には深淵の闇が広がっていた。暗くてその先がどうなっていたのかは分からない。

 ただ、1つだけ言えることがあるとすれば、あの縄のおかげで美来は命拾いしたということだ。


 近場にある階段を上る。

 登った先はいきなり一室になっていて、カプセルがいくつも連なっていた。カプセルの中には死人のように目をつむった人間たちが眠っている。美来はそれを1つ1つ目で確認していく。

 顔についた泥、ボロボロの衣類。美来はカプセルの中に居る人間と面識があるような気さえした。

 「この人たち、リゲルの労働場に居た人と似てる……。なんだか、気持ち悪い」

 独り言をつぶやいた。そうでないと、心が落ち着かないのだろう。

 その時だった。

 不意に奥の扉が開いた。銀色に輝く頭身、重そうに抱えた銃器、赤色の眼光。機械兵の登場だ。

 機械兵は美来を認知したのか、歩くのをやめた。

 「侵入者発見、侵入者発見」

 ガラガラ声で機械は言う。放置しておけば次々と、同じ素材でできた兵士たちがぞろぞろ集まってくるに違いない。

 美来はすぐに持っていたライフルを構え、射撃する。耳をつんざく快音が一室に響き渡り、美来は射撃の反動で1歩、後退する。

 銃弾を頭に受けた銀色の肢体は、ガラガラと声を漏らして崩れていった。美来は深呼吸する。彼女は、1人で暗い山道を歩いているような恐怖感に襲われているのだろう。

 前方を注意深く観察する。ぶらぶらと扉が怪しく揺れているところ以外、何も不審な点はない。

 扉に最大まで近づいたときだった。男の顔が飛び出してきた。両者は思わず悲鳴をあげる。そして、美来は銃を構えながら後退する。

 「ちょ、ちょっと待てってば! 俺だ、俺だよ! 浩平!!」

 男は眩しい光を遮るように両手で顔を覆っていた。美来は一息ついて、重たい銃を下ろした。

浩平は爆弾のカバンと誠也を抱えていた。慌てて逃げてきたのか、かばんは担いでいるというより、手で持っているような状態だった。

 「いや~、よかったぁ。仲間がいて、この先1人だったらどうしようって不安だったんだよ~」

 浩平はカバンと誠也を下ろして、謎のジェスチャーをしながら話す。

 はぁ、と美来は返答を返す。

 「でも、浩平君。この先には何もなかったよ」

 美来は取りあえずそう言った。

 「いや~、にしても本物のカプセルだな。スゲ~、人が入ってるぜ」

 「……」

 人の話を聞かない浩平は不謹慎だ。美来はあきれたようなものを見る目で浩平を見ていた。

 「取りあえずさ、どっちか持ってよ」

 「え? どっちかって、浩平君が両方持ってくれるんじゃ……」

 「え~、俺1人じゃ重すぎるよ。特にこの親父さん」

 浩平の適当な態度に美来は少し嫌そうな顔をした。しかし、数秒後には爆弾を抱えて、通路に顔を出した。きょろきょろと様子を確かめている最中、浩平は誠也を担ぐのに手古摺てこずっていた。

 「ちょっと、美来ちゃん手伝って! 重い……」

 浩平の情けない発言に美来は、てきぱき動いて浩平の背中に誠也を乗せた。

 「いや~、助かった。美来ちゃんはいい子だね」

 浩平の発言に頭にきたのか、少し美来は頬を膨らませたようにも見えた。

 「それは、いいよ。とりあえずどっちに行けばいいの?」

 と、美来は浩平よりも先に通路に出てきょろきょろする。

 「左だよ」

 と、浩平が言った瞬間、美来は足早に左側の通路を突き進んでいく。これが、彼女なりの反撃の仕方なのだろう。

 「ちょっと、美来ちゃん! そんなに、焦ったらとんでもない奴と遭遇しちゃうよ!!」

 「『とんでもない奴』ってなに?」

 「びりびり女」

 美来は足を止めて、振り返る。

 「『びりびり女』ってなに?」

 「そ、それは、こう……」

 浩平は誠也をおんぶしたまま手をかざす。

 「こんな格好すると、手から電撃ビームが飛び出すんだ」

 痛々しいものを見るような目で浩平は見られた。

 「ほ、本当だぜ! 疑ってるみたいだけど本当だからな!!」

 「うん。じゃあ、先に行こう」

 「絶対分かってないよね! 絶対信じてないよね!」

 浩平は顔を赤くしながらそう言った。これ以上、美来が浩平にこたえることはなかった。




 荒い吐息が聞こえる。息苦しそうな吐息だった。

 「酷いことするな。ここの研究員……。こんなガキでも容赦なく切り刻まれるなんてな」

 「大丈夫か、依里茄。動揺しているぞ」

 「当たり前だ! 子供をやってしまったんだぞ! それも、とても可哀想な……」

 依里茄は口を押えてうずくまった。マガのような生意気な小僧ならまだしも、今回みたいな可哀想な子供が相手だと依里茄のメンタルにもこたえるようだ。

 「あいつ、泣いていた……」

 「ああ。確かに泣いていたよ。だが、このまま放っておいたらあいつは報われなかった。そうだろ?」

 切られた男の気持ちを考えると、依里茄は遂に涙を流してしまった。感情が空回りしてオーバーヒートしている。

 「泣くなよ。まだ、終わってねえんだからよ。二度とこんな事、起きねえように奴らをボコボコにしてやろう」

 隆は依里茄に手を差し伸べた。依里茄はその手を取り、ようやく立ち上がった。

 「行くぞ。この先に何かあるか確かめたら帰る」

 恐る恐る先に向かう。扉を開けるとその先にはカーテンがかけられた扉があった。思えば嫌なにおいがする。この辺は生臭い。人間にはきつい臭いが漂っている。刺激臭とでもいうべきだろうか。

 嫌な予感しかしない。

 しかし、隆は意を決し、カーテンを開けた。すると、そこには実験台に括り付けられた女の子の姿があった。室内の壁は防音になっているのか、泣き叫んでいる女の子の声が一寸たりとも聞こえない。最悪なことに、泣き叫ぶ女の子の周囲には青いゴム手袋をはめた、白衣が見える。

 「おい、どうなってる。こういう事だったのか、この糞、研究施設が!!」

 「早く助けるぞ!」

 しかし、扉は外からあかない仕組みになっている。ドアを叩いたり、体当たりするがびくともしない。

 「仕方ねえ! 撃ちぬくぞ!!」

 扉から距離を置いて、ドアノブに向けて発砲する。しかし、堅固けんごな扉は銃弾を弾き返した。投げたボールが壁に当たって返ってくるように、弾かれた銃弾が隆たちを襲う。ここで、依里茄の刀が唸りをあげた。

 銃弾を弾き返すと、依里茄はその勢いで刀をガラスに突き刺した。そのまま、ガラスを切り抜く。切り抜いた瞬間、中で泣き叫ぶ哀憐な女の子の叫び声が、通路に居る隆たちの耳に届いてきた。女の子を守るべく、切り抜かれた空間から隆が銃撃して研究員を一網打尽にする。

 一瞬の間に、研究員はのたうち回っていた。そして、女の子の悲痛な叫びは収まった。

 「ふう、何とか間に合ったぜ」

 「バカ野郎。早とちりすぎだ。私が居なかったらお前は銃弾に当たって死んでたぞ」

 依里茄にも元気が戻る。隆はゆっくり堅固な扉を開こうとする。その時だった、依里茄がナイフを投げた。ナイフは隆の安堵の笑みを通り過ぎて、一直線に実験台の方へ飛んでいく。隆の笑みが消えるのと同時に、研究員の悲鳴が聞こえた。

 「早とちりだ」

 ただまっすぐに依里茄は言った。

 「はいはい、軍師さんよ。もういいだろ?」

 体力的に隆は限界らしく、動作が重かった。やっとのことで重い扉を開けて、そのまま、もたれこんでしまった。

 「どうした急に?」

 「傷に負担がかかりすぎたみてえだ。今頃になって症状があらわれやがる。子供たちの救出は頼んだ」

 と言って、隆は胸ポケットの中を探った。しかし、胸ポケットの中は空っぽだった。

 「そうだ、俺はタバコをやめたんだったな」

 「大丈夫か?」

 「平気だ。頼む」

 向こうの世界で空奈があきれ返っている様子が目に浮かぶ。隆は拳銃を手に持って胸にかけてあるペンダントを覗いた。いたいけに笑う3人の姿にうっとりとしている時だった。

 エレベーターが隆の居る階層で停止した。徐々に扉が開く。

 その時、隆は目を疑った。遥か手前には眼鏡と背中にライフル。服装はマフラーにジャケットと防寒対策をしている。

 「れい?」

 思わず隆は呟いた。そう、思い出に出てくる人間だったのだ。彼は狙撃が得意で、生き別れになった妹を探していた。そして、捕虜となり労働場に連れていかれて、妹(美来)と出会って間もなくその命を落とした人物。隆と空奈とは仲のいい友だった。

 玲は死んでいるのだ。

 だから、ここでヨタヨタと歩いているはずがない。しかし、隆の前に居るのは玲だった。


 変わり果てた玲だった。

明けてしまいました。

12月は連絡もなしに途絶えてしまって申し訳ありません。


それはさておき、ご精読ありがとうございました。

次回話に続きます。

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