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GOVERNMENT EMPIRE  作者: Lirenoa
第三章 信頼の章
51/115

PAST 51:ネビュラ(闇の中のきらめき)

 夜空の下で、反逆は終わった。

 地上に残った三人雑兵が、生存者を連れ出す。生存者は全部で三人、智恵利、咲希と友佳だった。相手がどんなに死にぞこないだろうと、息を絶つまで苦しめるのが奴らのやり方だった。


 『平和を愛する軍隊』と呼ばれた政府は運命に屈して、帝国の尻拭いとなっていた。

 この世界は腐り果てていた。一度、作り直される必要があった。

 誰かが予期した結果に終わっていた。


 死体と血なまぐさい臭いで埋め尽くされた月下の戦場。

 「どうだ? 気分は? 貴様らは政府の腐った部隊として死ぬんだ。嬉しいだろ?」

 猿霊香は弱っている戦士たちに言う。友佳はもう、絶命寸前だった。息をしているのがやっとのようだった。

 「腐ってんのは、てめえの方だろうが?」

 咲希が言う。

 「うるせえ!」

 猿霊香は怒り、咲希の顔面を蹴った。

 「やめて! 私だけを殺せばいいじゃない! 私だけを殺して、二人は解放して! お願いだから!」

 智恵利の言葉に全く聞く耳を持たない。

 「口を慎まないか? 貴様らは囚われの身なんだぞ?」

 「誰がお前に口を慎むものか……裏切り者め」

 咲希は言って笑った。猿霊香は咲希の顔面を蹴った。

 「決まりだ! まずはてめえから始末してやるぜ!」

 猿霊香は銃を向けた。

 「やめて! 咲希を殺さないで!! 私だけを殺して!!」

 智恵利が叫ぶ。

 「バカみてえに騒ぐんじゃねえよ知恵利」

 咲希が言う。

 智恵理は言葉を失い、咲希だけを見つめていた。咲希はじっと憎き悪を凛然りんぜんと睨みつけたていた。彼女は絶命する寸前まで戦おうとしていた。

 「でも、あたしはそういう風に仲間を思ってくれるお前が好きだった。第三部隊が好きだった」

 思い出話をするように、咲希は言った。咲希の目には薄らと涙が浮かんでいるような気がした。

 「楽しかったぜ。お前らと過ごせた日々はよ……。本当に、幸せだった……。ありがとよ……」

 「ゲハハハハハ! 面白いねぇ、死ぬ気満々じゃねえか! こりゃ、期待に応えねえとな?」

 引き金を引こうとする。

 「止めてええぇぇ!!」

 「さよならだ……」

 咲希は最後にそう言った。

 無常の銃声が轟く。月下で放たれた銃弾は曲がってくれやしない。

 「嫌あああぁぁぁ!!」


 無情にも、咲希は絶命した。

 「咲希!! やだよ! 逝かないで!!」

 智恵利の非情な叫びが響く。空虚に消えゆくその叫びに誰も答える者はいない。涙がこぼれ落ちる。

 猿霊香が嬉しそうに笑うだけだった。


 「次は死にぞこないの爆弾娘だな」

 言って、次の標的を友佳に移す。

 「ダメ!! その子はまだ子供なの!! お願い、殺さないで!」

 「さっきからお願い、お願いって何度、願えば気が済むんだ貴様はよ? そんなに殺して欲しくなかったら、『猿霊香様の尻をめさせてください』って言うんだな!」

 「っ……」

 智恵利は固まる。苦しそうに息をする友佳を見ていたら、言わざるを得ないような気がした。屈辱すぎだ。

 「え、猿霊香様の……し、しりを……舐めさせて、くだ、さ、い……」


 「ゲハハハハハハ!! こいつぁ傑作だ!! 哀れな命いだぜ!」

 智恵利は侮辱される。

 雪辱に唇をかみしめていた。精神が苦しくなり、悔しそうに顔を伏せた。

 これで、友佳が助かるなら仕方ないと心に言い聞かせ、罵詈雑言を受け流した。

 「つ~わけで、コイツにも死んでもらうか」

 「ちょっと待って! 話が……!」

 「俺は殺さねえよ。部下がやるんだ」

 卑劣に笑った。

 「ちえ、り……」

 友佳が苦しそうに口を開く。息をするのがやっとで、次の言葉が出ないようだ。

 友佳は智恵利に笑って見せた。苦しいのに、優しい笑顔を見せてくれた。そこで、引き金は引かれた。智恵利は叫び気力さえ無くなっていた。

 「ゲハハハハ!! 殺されるのが嬉しかったみてえだぜ!! 笑ってやがった!!」

 言って、猿霊香は抱腹絶倒する。部下たちも同じ反応だった。

 「……どこまで侮辱する気なの?」

 智恵利は言う。

 笑いが止まる。

 「敬意を払え! ゲスブタども!! 私の仲間は、あんたらなんかより何百倍も、何千倍も立派なんだよ!!」

 しかし、無情な四人は一斉に笑った。

 「だったら貴様はどうなんだ? 『尻を舐めさせてください』なんて言ってる貴様はよ? 笑止千万だぜ!!」

 言って、猿霊香とその部下たちは笑う。

 屈辱に照らされる智恵利。侮蔑ぶべつに見下す視線が一斉に智恵利に突き刺さる。

 「殺してやる……絶対に殺してやる! あなた達はカスよ! いいえ! カス以下の人間よ!!」

 「言うのは勝手だぜ、反逆師さん。さて、そんじゃ、宴でも始めっか」

 智恵利は兵士に立たされる。そして、猿霊香から回し蹴りを喰らう。

 「ウヴッ!」

 傷にクリーンヒットした。

 笑われる。

 「オラオラ! 蹴って、蹴って、蹴りまくれ!! なぶれ、なぶれ!!」

 そして、終わりない虐待が続く。

 相手は智恵利を虐殺しようしている。悲しむ余裕なんてない。


 無情で残酷な世界になったものだ。

 平和なんて欠片もない。

 この世界は作り直されるべきだった。腐った人間は殺すしかなかった。

 そして、誰もいなくなるのだ。


 悪魔たちは笑う。嬉々と笑う。

 動けなくなった死に損ないの戦士をもてあそびながら……。




 「チェッ、もう終わりかよ。つまらねえな」

 猿霊香が呆れたように言った。

 智恵利は呼吸するだけで、もう何もできなくなっていた。弱りきった体は、冷たいアスファルトに抱かれ震えている。

 「もう、コイツも始末するしかねえな」


 反逆者は散る。

 何も残せないまま……。腐った世の中を救済するなんて夢のまた夢。

 この世界に宿った悪の魂は根強く息づいている。

 束縛世界は終わることはなかった。


 その時、銃声がとどろいた。ショットガンの銃声だ。

 「フアッ!」

 兵士が一人吹き飛んだ。

 「何だ!? 新手か!?」

 そこに、片目だけの女が立っていた。

 「グハッ!」「ロアッ!」

 一人、また一人、倒れてゆく。

 「貴様は……裏切り者、殺斬!! なぜここにいる!」


 智恵利の救援に駆けつけたのは、殺斬だった。


 狐の心変わりだろうか。

 「遅かった……」

 殺斬は苦しそうに言って、問答無用でショットガンをぶっぱなす。

 「フアッ!」

 表情を一切変えない殺斬は、この時、初めて怒りの感情を顕にしていた。

 利き手をやられた猿霊香はもだえる。殺斬は悶える猿霊香にハンドガンを向けた。

 「無様ですね。私の『大切な人』を殺したのに……」

 「ひ、ひぃ!」

 「地獄の業火で焼かれてください。永遠に……」

 言って、殺斬はハンドガンのトリガーを引こうとする。

 「待ってぐれ! 降参だ!! 頼む、いのじだげは……」

 「命乞いですか? 情けないですね」

 発砲。

 「グアアアアァァァァ!!!」

 殺斬は猿霊香が絶命しても発砲を続けた。マガジンの弾がなくなるまで撃ち続けた。ぶつけようもない悲しみをぶつけて。


 残弾が尽きると、ハンドガンをしまい、急いで智恵利の元へ駆け寄った。

 「しっかりしてください! 智恵利さん!」

 智恵利は虫の息だった。脆弱な吐息は、小指で突いただけで止まってしまいそうだった。

 「さ、さつ……き。なんで、ここ、に……?」

 「……それは、あとで話します。頑張ってください!」

 言って、殺斬は智恵利を背負った。

 「本館まで耐えてくださいね」

 林道を歩く。

 「どう、して、ここ、に?」

 「政府軍に変な動きがありました。まさかと思い、来てみたらこんな、ことに……」

 殺斬は涙声でそう言った。

 「へへ……裏切り者じゃ、なかっ、た、んだ。久し、ぶりだ、ね。こうして、話す、の……」

 「本当にごめんなさい……。もっと、分かりやすく『この危機』を伝えるべきだった……。そうすれば、皆さんを救えたかもしれないのに……」

 「ねえ、なんで、殺斬は、あの時、うらぎっ、たの?」

 「……話せば長くなります。複雑でしたから。簡潔に言えば帝国と政府の情勢を探るためです……」

 顔を伏せる。

 「へぇ……。そう、だった、んだ……。結局、あなた、は……私、たちの、ために……危険を、犯して……」

 「いいえ。身勝手な理由からです……。仲間にきちんと事情を話すべきでした。隠し事なんてするものじゃありませんよね」

 苦笑いする。

 「ねえ、殺斬……。依里茄、の、こと。頼む、ね……」

 「どういうことですか?」

 「……あり……が……」

 智恵利の手がだらりと垂れ下がる。

 驚愕に揺れる。

 「智恵利さん? 智恵利さん!?」

 応答はない。


 「アアアァァァ!!」

 嗚咽おえつを上げる。

 暗闇に沈み込む森の中で、静かに慟哭どうこくは響いた。

 智恵利は殺斬の背中で死んだ。鋼のように冷たくなる。

 わだかまりが解けて、早すぎる別れだった。


 「そんな……」

 泣いた。

 たくさん泣いた。


 「ごめんなさい……」

 謝った。


 「私……なにも、できませんでした……」

 悔恨に悲嘆を重ねた。

 後悔と悲しみを胸に、殺斬は昔の日々を思い浮かべていた。

 また、あの日のように幸せな日々を迎えられたら……。と願っていた。

 重い足取りで、殺斬は闇の中を歩いた。




 「遅いな、智恵利たち……」

 依里茄が心配そうに言う。修二も心配そうに夜空に浮かぶ星たちを眺めていた。

 「で、修二。こんな光景、政府の奴らに見られたら極刑だぞ?」

 言って、依里茄が睨みつけるのは、本館の中で子供を遊ばせる男の姿だった。本当に楽しそうに遊んでいる。男は、この本館に入ることをかなり拒んだが、子供が強引に引き込んだため、こんな状況になっている。因みに、親子は友佳の部屋にあったぬいぐるみで遊んでいた。

 修二は苦笑いを浮かべるしかない。

 「でも、今思えば私はどうかしていたな……。子持ちの親子を殺すだなんて……」

 言って、依里茄は頭を抱えていた。

 その時、何かがちぎれる音がした。嫌な音だった。

 「あっ」

 女の子が驚いて泣いていた。

 「あ~、あ~、あ~。大丈夫だ。すぐに直るからな」

 男は優しい声でそう言った。

 依里茄が面倒臭そうに立ち上がる。

 「どれ、貸してみろ」

 依里茄はぬいぐるみを手にとった。カエルのぬいぐるみ。脇腹が裂けていた。腕とかが破けるのは普通だ。ぬいぐるみの接着部分で弱いから。でも、自然に脇腹が裂ける事なんてあるのだろうか。

 「どうやったら、こんな裂け方するんだ?」

 依里茄がやれやれと言って、ワインが置いてある棚の引き出しから、裁縫さいほう道具を取り出した。すると、ぬいぐるみを手に取り、一瞬にして手直ししてしまった。圧巻だ。

 「ほら、元通りだ」

 これには女の子は大喜びする。男は気に入らない目で依里茄を見ていた。依里茄は男と目が合い、止まったままだった。女性は好意を寄せない人間とは、目を合わせられるらしい。

 「なんだ? 私の顔になにか付いているのか?」

 「……いや、案外、子供好きだなと思ってな」

 「そう」

 簡単に済ませると、依里茄は修二の元に戻ってきた。依里茄は子供が気になるようで、ずっと子供を見ていた。

 「子供が気になるの?」

 「……いや、そういうわけじゃない」

 言って、依里茄は顔をしかめた。余計なお世話だと言わんばかりに、頬をふくらませていた。



 その時、誰かが外で倒れた音がした。

 遊んでいた女の子は手を止める。

 「何だ?」

 異常事態に依里茄は不穏の表情を浮かべる。

 扉を開けると、そこには、血まみれの智恵利を抱えた殺斬が倒れていた。殺斬はここまで智恵利を自力で運んできたのか、息が乱れていた。

 「なっ? これは、どういうこと?」

 修二が言う。

 依里茄は気が気ではなかった。

 「智恵利に何をした……」

 敵意むき出しに殺斬のことを睨みつけた。沈黙が続く。

 「ダメだ、見るな」

 男が後ろで、女の子を連れて、二階へ上がっていく音がとても大きく聞こえた。

 智恵利は死んでいるようだった。ぐったりとしていて、動いている気配がない。

 「お、おのれ……」

 依里茄が殺斬の胸ぐらをつかむ。

 「この! 裏切り者!!」

 殺斬を殴った。槍を突き出すような豪快ごうかいな打撃が夜空の下でえ、殺斬を豪快ごうかいに突き飛ばす。地面に転がり、痛そうにうめき声を上げる、やられっぱなしの人間。

 依里茄は殺斬が智恵利を殺したと思い込んでいる。

 踏みとどまらない怒りが、彼女に次の行動を指示した。依里茄は瞬足で殺斬に向かい、走った勢いに任せて蹴り飛ばした。

 「やめろ! それじゃ、単なる逆恨みじゃないか!」

 修二が依里茄を押さえ込む。

 「放せ! あいつが殺したんだ! あいつが! あいつが殺したんだ!!」

 依里茄は叫びながら修二の中で暴れまわっている。もう少しで逃げ出されそうになったとき、女の子を置いてきた男が加わった。

 「やめないか! 単に怒りをぶつけても後悔するだけだぞ!」

 依里茄は男に舌打ちして、振り払うと本館に走り去った。どこへ向かったのか見当もつかない。

 「大丈夫か君? とんだ、災難だったな」

 何も知らない男は殺斬を保護する。何があったのかはわからないが、詳しい事情は殺斬が知っている。

 「何があったんだ?」

 修二が代表して訊く。

 すると、質問しただけなのに、殺斬は涙を浮かべた。初めて見た殺斬の感情に修二は驚きを隠せなかった。

 「……今、事情を聞き出すのは時期尚早なんじゃないか? もう少し様子を見てから――――――――――」

 「内乱です……」

 男の声を遮って殺斬が言った。

 「え?」

 銃弾が眼前を通り過ぎるような感覚だった。受け止めきれない現実と、信じられない思念が修二の中で交差する。

 「咲希さんや友佳さんはもう……」

 それ以上殺斬は口にしなかった。

 修二は顔を伏せた。考えられなかった。彼女たちが消えるなんて、なおさら考えられない。

 また、大切な命が消えた。痛切する。

 殺斬は泣き崩れていた。裏切り者の涙には思えなかった。本気で泣いている。号泣だったから。

 訃報ふほうを前に漠然ばくぜんとする修二。

 「なんか、色々大変なことになってるな……」

 男が言って、場をわきまえて去っていった。


 空虚な風が目の前を通り過ぎていった。

 殺斬の慟哭がしみじみと漆黒に冴え渡り、悲痛に怯える星たちが弱々しく明滅めいめつする。殺斬は横たわる智恵利の遺体に泣きつく。


 ずっと謝っていた。

残酷なお話になってしまいました。

裏切りとは悲しいものですね。


ここまで読んで下さりありがとうございます。

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