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GOVERNMENT EMPIRE  作者: Lirenoa
第三章 信頼の章
40/115

PAST 40:光と闇がそこにあるpart3

 「グギャルル!」

 マナ・ソフィアは気高く吠えた。

 ミサイルハッチをガッポリと開け発射しようとする。標的は修二と隆だ。

 「来やがるぜ」

 隆が言う。

 マナ・ソフィアは二発のミサイルを同時に発射する。直進するミサイルを二人は簡単に回避する。

 しかし、ミサイルは軌道を変えて二人を追う。その時、弾頭に赤色の何かが付いていることが分かった。

 「追尾機能付きミサイルか」

 修二は言って、後ろに倒れながら銃口をミサイルに向けた。修二はミサイルに発砲する。しかし、全く効いていないようだ。固すぎる。

 「冗談だよね?」

 ミサイルが下降する。修二は後ろに転がって回避する。

 ミサイルは着弾と同時に多大なエネルギーを放出した。

 「フアアァァッ!」

 修二は爆風に飛ばされ、泥濘ぬかるんだ地面に背中から打ち付けた。

 そこへ、マガの触手によく似たナイフ触手が飛んでくる。シビアな攻撃だ。体がズキズキ痛み、悲鳴を上げている。避けなければ殺される。

 焦りが積もる。このまま終わるわけにはいかない。

 「……!」

 修二は間一髪で職種攻撃を回避した。本当に危なかった。ズボンの裾が若干切れている。

 すると、マナ・ソフィアの足の関節がパカリと開いた。今度は何が来るのだろうか?

 機関銃だ。突発的に飛び交う轟音と黄色い光線。修二は態勢を崩しながら黄色の光を回避する。

 修二から外れた弾丸が、第三部隊をおそう。第三部隊の注意はうじゃうじゃ湧き出す兵士に向いている。


 瞬間、咲希の足にマナソフィアが撃った銃弾がめり込んだ。

 「グハッ! クソ! やられた! 援護を頼む!」

 咲希は叫ぶ。

 片足が使えなくなった咲希に雑兵はチャンスと言わんばかりに周囲から発砲する。下手に動けない。

 「潮時か……畜生」

 咲希は動けない状況下で、横にローリングする。奇跡的に銃弾を回避することに成功した。

 「援護はまだこねえのか?」

 瞬間、突如爆発が起きた。爆風の勢いでたかっていた雑兵は吹き飛ばされ、垣根に突っ込んだり、泥の中に倒れた。

 「咲希姉! こっち!」

 援護に駆けつけた友佳が咲希を支えて後ろに退却する。

 兵士は狙うには恰好かっこうの獲物になった友佳に向かって次々と銃弾を射出する。その時、友佳の背後から、依里茄が銃弾を跳ね除けながら飛び出た。

 「早く車の陰に隠れるんだ」

 依里茄は二人に言って前方から来る敵兵の一掃を始めた。マナ・ソフィアの横合いからの攻撃に被弾寸前になりながらも、友佳は必死に咲希を運ぶ。

 「チッ、まさかお前に救われるとはな。情けねえや」

 「そんなこと言ってる場合? 咲希姉?」

 「ケッ、よく言うぜ」

 二人の行動を邪魔するようにこぼれ弾の脅威きょういは収まらない。威光を示さんと枉惑おうわくする。特に駆動力抜群のマナ・ソフィアの銃弾が厳しい。やつの特徴は、動物には絶対できないようなポージングが、いとも簡単にできてしまうことだ。そのため、不格好に曲がった後ろ足の関節が友佳たちをおそう。

 依里茄はいち早くそれに気づき、

 「修二! 隆! 早くその兵器を何とかしろ!」

 と怒鳴る。

 「分かってる! もう少し待つことができねえのか!」

 言って、隆がマナ・ソフィアの懐に滑り込んだ。マナ・ソフィアは腹部が弱点だということを隆は知っている。

 「喰らいやがれ!」

 隆はマナ・ソフィアの腹部に銃弾を打ち込んだ。漏電ろうでんと共に、火花が漏洩ろうえいする。

 ショートした音が聞こえ、マナ・ソフィアは一瞬もたついた。その隙に、修二はマシンガンでマナ・ソフィアを攻撃する。

 しかし、マナ・ソフィアは修二の攻撃を完全無視。腹の下から出てきた隆に向かって火を噴いた。轟々ごうごうと燃え盛る灼熱の火炎放射が隆を襲う。これではまるで隆が火炎放射に突っ込んでいっくようなものだ。

 「ンヤロウ!」

 隆は火炎放射に突っ込む前にマナ・ソフィアの顔に銃弾を当てた。マナ・ソフィアは悲鳴を上げて、火炎をまき散らしながら、狂ったように首を振っていた。マナ・ソフィアにも感情があるのか、火炎放射の出力が上がる。

 飛距離が伸びた火炎放射が、脇を通りかかった咲希と友佳の前を通過する。

 「あぶねえよ! 何すんだ!」

 咲希が元気に叫んだが、ダメージはない。

 「修二! ミサイルをねらえ!」

 隆が言いながらマナ・ソフィアから距離を置く。

 「分かった!」

 修二はミサイルに向けてマシンガンを連射する。しかし、マナ・ソフィアはミサイルのカタパルトを折りたたんでしまう。

 「頭のいい猛獣だなぁ」

 修二はあっけにとられていると、マナ・ソフィアの頭がこちらに向き、火炎放射が距離を詰めてくる。修二は後退。すると、マナ・ソフィアは隆に向け機関銃を連射しながら、先端にナイフがついた二本の触手を修二に向けて射出した。その時、気高き騒音と共にナイフが飛ぶ。

 修二は体を反って二本のナイフをよける。その時、ナイフが服をかすめていった。この服は第三部隊からの支給品。

 修二はマシンガンで再び攻撃を開始しようとする。しかし、マシンガンが動かない。動かないのは、ナイフが銃身に突き刺さっている。

 「クソッ……」

 修二はマシンガンを捨てる。

 「シュウジィ! これを!!」

 その時、修二の異変に気づいた友佳が手榴弾しゅりゅうだんを投げ渡した。修二はそれをキャッチすると、

 「ありがとう」

 と感謝して、栓を抜く。

 「修二! 奴の腹の下にそれを収めてやれ!」

 ハンドガンをいつの間にか二丁装備して、攻撃を避けながら撃ちまくっている隆が叫んだ。修二は言われたとおり、奴の腹に向け手榴弾を投げた、しかし、マナ・ソフィアはナイフの外れた触手でそれをキャッチして咲希と友佳のいる方へ投げた。

 脳裏が真っ白になる。

 「おいおい、なんかやばいんじゃねえか!?」

 咲希は言った。

 友佳はそれに気づいたが、一歩でも長く距離を置こうと退却を最優先に考える。

 その時、手榴弾は不自然に曲がり、爆発した。轟音と黒煙があがる。

 軌道を反らしたのは隆だった。ハンドガンで手榴弾を撃ったのだ。

 「危機一髪だったな」

 隆が言った時、隆の足に一本の触手が絡みつく。触手は簡単に隆を持ち上げると、空中でぐるぐる回して、投げ飛ばした。

 「ウワッ」

 悲鳴と共に隆は横転した車の方へ投げ飛ばされる。車体に激突し、隆は戦闘不能になった。

 「リューー!!」

 友佳が叫び、咲希を放置してマナ・ソフィアに向かっていった。

 「おいてめえ! どこに行きやがる!」

 咲希は不平を漏らした。

 友佳は咲希の言葉に耳を傾けず、服の中から手榴弾を二つ取り出す。一体、いくつ手榴弾を持っているのか全く予測がつかない。

 すると、それをまず一つ蹴り飛ばし、もう一つ蹴り飛ばす。当然ながらマナ・ソフィアは二つともキャッチする。それを見て友佳は焦るのではなくニヤリと笑った。見ると、マナ・ソフィアがキャッチした手榴弾の栓は抜かれていなかった。

 「残念でしたぁ! 本物はこっちだよ!」

 友佳は勢い良くもうひとつの手榴弾を蹴り飛ばす。栓が抜いてある手榴弾を。

 タイミングを計って全てが完璧だった。

 しかし、マナ・ソフィアはいとも簡単に完璧を打ち砕く。飛んできた手榴弾を触手で勢い良く払い除けて、噴水へ。

 「ありゃりゃ……」

 勢いづいていた友佳がションボリと声を上げた。

 弾かれた手榴弾は水中で爆発した。噴水が爆発の影響で吹き飛び、水力を調節する部位が破壊され、大量の水が溢れ出す。戦場は水浸しになった。

 「グッギャルルルルル!!」

 マナ・ソフィアは、触手で木をもぎ取り、それを、友佳と咲希の方へ投げようとした。二人は絶句する。あの木に下敷きにされたら骨折どころの話ではない。武器を持たない修二は黙ってその光景を見るしかなかった。車内に戻ればショットガンがあるのだが。

 マナ・ソフィアは木を二人の方へ投げつけた。

 「咲希姉!!」

 友佳は咲希に抱きついた。覚悟を決めたのだろう。

 「足がいてえよ! もっと安静に扱え! 友佳!」

 抱かれた本人は悶絶もんぜつしていた。木が迫る。もはや二人の視線は木に向くことはなかった。あんなに仲が悪いのに抱き合っていた。


 守りたいのに……

 守れないのか!?


 その時、飛んでゆく木の横合いから刀剣が突き刺さった。木は軌道を変え、マナ・ソフィアにぶつかった。それは、ただ単にぶつかっただけで、押しつぶされることはなかった。

 刀剣が投げられた方向を見ると、そこには泥まみれになった智恵利の姿があった。

 「やっと片付いたわ」

 依里茄がやれやれと言って、智恵利の横に並んだ。その時、車に打ち付けられた隆が目を覚ます。隆は周囲を見回していた。

 「さて、智恵利。こいつに見せてやろう私達の力を」

 依里茄が言って、刀剣を構える。

 「そうだね。とっとと終わらせたいもんね」

 智恵利が構える。二人はマナ・ソフィアに向かって猪突猛進ちょとつもうしんした。マナ・ソフィアの機関銃に残弾はない、火炎放射で対抗する。次の瞬間、二人は二方向に別れ、マナ・ソフィアを挟み込んで切り裂いた。

 綺麗きれいな一直線を描き、二人の攻撃の息もぴったりだった。フィニッシュも同じ。

 「ギャルッ……」

 マナ・ソフィアの側面から火花が散り、青白い電気が周囲に放出される。莫大なエネルギーがマナ・ソフィアのコントロールを狂わせる。突如、ミサイルハッチが開き、周囲に暴発した。外壁、垣根、そして、堅固けんごに閉ざされた監獄かんごく鉄扉てっぴを壊した。


 「グギャアァルルルルルルルルル!!」


 大きく空に向かって吠え、マナ・ソフィアは爆発した。ミサイルを積んでいた巨体は粉々に砕け散り上空にはキノコ雲が上がった。

 刀をしまいながら二つの人影が、炎と黒い煙に包まれたマナ・ソフィアの脇から登場した。二人はコクリと頷く。


 「助けに行って来い」

 の合図だ。


 修二は隆を連れて施設内部へと侵入した。ちょうどその頃、上空を覆っていた雲が雨を降らせた。

 「最近は雨が多いな」

 依里茄が雨に打たれながらそう呟くと、

 「ここは山だから天気が変わりやすいんでしょ? それより、移動手段を探さないと」

 と智恵利が言った。

 「それなら心配いらねえなぁ」

 咲希が堂々とした様子でそう言った。咲希はある場所を指差して、

 「装甲車なんてのはどうだ?」

 と言った。




 館内は外で爆発があったことなど知らずに、静寂に包まれていた。室内には素足の美来が大嫌いなガラスの破片が散らばっている。

 「クッ……」

 空奈は少し震えていた。

 ガクガクと震える手には彼女がよく使っている銃が握り締められていた。

 その銃が睨みつける先には右手に金槌かなずち、左手に五寸釘ごすんくぎを持った男が迫っていた。上半身はノースリーブのチョッキしか来ておらずボタンは全開。そこから見える肌の色は灰色で冷たい色をしている。

 生気がまるで感じられない。男は肉体美を見せつけているが、覚えるのは畏怖しかない。

 男は笑っていた。

 「お、お前は……死んだはずの『イリーガ』」

 空奈が言った。

 空奈にも帝国の情報はきちんと渡っている。イリーガがヘマをやらかし、殺され、研究所送りにされたことくらは伝わっている。しかし、そこで何が行われていたのかは謎だ。

 「討滅とうめつする。クケケケ……」

 イリーガは小さく言った。イリーガは不気味に笑っている。静かな狂気だった。

 その時、イリーガは不気味な雲行きを漂わせる中、ものすごい速さで空奈と美来に襲いかかった。

 空奈は突進してくるイリーガに銃を向ける。真剣な眼差しは、相手の動きの一歩先を読んで銃弾を射出する。

 「イギュアァ!」

 リード射撃(動く標的に銃弾を当てること)が上手いだけあって、空奈は瞬足で迫ってくるイリーガを一発で仕留めた。イリーガは空奈の足元であえなくダウンしている。

 もう立ち上がることはなく、戦力にはならないはずだ。


 弱すぎる。


 「空奈さん。すごいです」

 謙虚な態度で美来は言う。心の底から感心しているようだった。

 「集中すればこれくらい楽勝よ」

 空奈が得意げに言った時だった。

 イリーガが立ち上がり、空奈の前に立ちはだかった。

 「ぁぁ……」

 息を吐き、イリーガは狂ったように美来を襲う。イリーガの眼球は真っ白だった。瞳と光彩が一体化した、あの人間らしい目玉が無い。

 「美来!」

 空奈が叫ぶ。

 空奈は美来を守るようにして覆いかぶさった。


 とても残酷な音が聞こえた。この世の混沌というものが一言でまとめあげられたような残忍な音。


 「グウゥアッ!」

 凄惨な音響に空奈の悲鳴が轟いた。

 美来を庇護ひごした空奈の背中に五寸釘が打たれていた。五寸釘は深々と空奈の体に突き刺さっている。凄惨せいさんな攻撃だった。

 空奈は吐血する。空奈の吐いた血が美来の顔面に降り注ぐ。美来は目を丸くしたまま何が起きたのか全くわからないまま静止する。

 これでは“あの時”と同じではないか。


 美来は自分が弱いことは知っている。

 守られるような存在ではないことも……。


 「ウラアアァァア!!」

 空奈は狙いを定めず銃を撃った。イリーガは攻撃を浴びる前に後ろへ飛ぶ。空奈は致命傷を負いながらも一人で立ち上がった。

 空奈を美来の兄である『れい』の二の舞にするわけには行かない。

 「空奈さん……」

 美来が華奢きゃしゃな声を出す。


 “私がイリーガと戦う”


 と言いたかったが、拷問を受けた傷が痛み、また立てなくなっていた。

 (どうして? どうして、いつも肝心な時に私の体は動いてくれないの?)

 受け止めきれない悔しさが、美来の胸中で言葉へと変わる。

 「…………」

 空奈は苦しそうに呼吸しながら、銃をイリーガに向ける。

 その時、美来は背中にグサリと刺さっている釘を見た。

 「……」

 美来は声にならない声を上げる。

 空奈はすでに兄の二の舞になっていた。

 「美来……行きな」

 空奈は残る体力を振り絞り、言った。

 美来は怖がっていて立つことができない。必死に美来を助けようと、吐血しながらも矛を向ける空奈を前に……。

 空奈の体がふらつく。その時、動かなかった体が動いた。

 「空奈さん!」

 美来は体を支える。痛みが走ったが、美来は音を上げずに空奈を支える。


 痛いのは慣れている。

 守られる資格がないのは分かっている。


 空奈は美来の期待を裏切り、銃を持っていない左手で支えている美来を押し飛ばした。

 「鬱陶しい! ……邪魔だから、とっとと消えて!!」

 美来は初めて空奈に怒られた。何も悪いことはしていないのに……。

 そして、空奈は美来に銃を向けた。

 「消えないなら……今ここで撃ち殺す」

 嘘だと分かった。空奈は美来を助けてくれた相手でもある。見捨てるわけにはいかなかった。

 だから、空奈の助けになりたい。





 もう、“優しくしてくれる人間”を失いたくない。



 空奈の言う事を聞かず、美来は足を空奈に歩み寄った。しかし、空奈は美来の左手を撃った。

 「ングッ!」

 美来は狼狽うろたえる。

 空奈は美来が思うほど“いい人”ではなかった。

 「次は頭がいい!? ゴボッ、それとも……」

 空奈は倒れそうになりながらも、態勢を整えた。


 「『裏切り』がいい?」


 美来はもう空奈の思考が見えなくなっていた。身体的なダメージがいいか、精神的なダメージがいいかを空奈は訊いている。


 美来は空奈が裏切ったことを忘れたわけではない。


 「空奈さんの馬鹿!!」

 罵声を浴びせて美来は空奈に背を向けて走り出した。痛みなんてものは全く感じていなかった。優しいと思っていた人間がこんな人間だったなんて、信じられなかった。

 だから泣いた。

 走りながら泣いた。


 最後に、空奈の優しさを本当は感じていたから……。


 引換したいという思いが強まる。でも、引き返せば殺されるのは目に浮かんでいた。空奈は階段のないところで転んだ。もう、体が限界を迎えていた。




 空奈は覚悟を決めた。

 傷ついた美来の傷を一層深めてしまったことは、空奈も分かっていた。でも、こうするしかなかった。そうしないと、美来は助けようとするから。

 わざと左手を撃ったのは、美来の洞察力の問題だった。傷ついた美来は感受性が豊かで、すぐに人間の行動が何を意味しているか分かってしまう。


 特に“優しさ”。


 美来の場合、注意を完全に空奈から外してもらう必要があった。そうしないと、素直に逃げてくれないから。

 「ありがとう……美来。そして、ごめんね……美来」

 空奈はイリーガに向き直る。

 涙で視界がかすんでいるのが分かった。

 隆と別れた時の事を思い出す。あの場面と美来の場面は似ているような気がした。


 空奈は最後まで甘えることはしなかった。

 それはかつて二人の反逆者を引き連れた長として。

 部下を守ることは隊長の仕事。信念を誰よりも貫き通すのが隊長の仕事。


 (ああ……きっと怖いんだろうな。死ぬことが怖いんだな……あたし……)

 心の中でつぶやくと、視界のイリーガが六人に見えた。

 (あれ? おかしいな……なんで六人も?)

 イリーガが突進してくる。それを悟った空奈は最後の力を引き金に込める。


 この一発の銃弾に、空奈は“短い生涯の思い”をかけた。

 数々の場面がフラッシュバッグで蘇る。それは、つい昨日の出来事だったように。


 虚しい銃声が周囲一体に響くと、空奈の視界からイリーガが消えていた。わずかに腹部で痛みを感じる。腹部で杭を打つ音がした。

 (ダメだ……もう抵抗できないよ)

 空奈の脳裏に玲の顔が浮かんだ。

 そして、今を必死に生き抜く三人の尖兵せんぺい達の姿も……。


 (ゴメンみんな。あたし、先に逝くね……)



 空奈の手から銃が落ちた。


 なんとも言えぬ痛みが全身を襲う。その時が一番生きていると感じた。でも、音を上げることはしない。ゆっくりと感覚を失ってゆく。



 (痛みが……消えていく。そうか、これが死というものなんだね……一回、同じような感覚を味わったけど、『死』って『悲しい麻酔』だよね?)


 「空奈ぁ!!」

 遠くの方で誰かが呼んだ気がした。聴覚は生きている。

 「この野郎! 空奈から離れやがれ!!」

 懐かしい声だった。

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