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GOVERNMENT EMPIRE  作者: Lirenoa
第三章 信頼の章
28/115

PAST 28:苦境を越えて

 恍惚とする感覚。

 真っ暗な闇が目の前に広がっていた。

 ここは水の中だろうか。居場所はよくわからない。

 「ワン! ワン!」

 動物が鳴いている。犬の鳴き声だ。

 そこで、視界は明るくなった。

 色付こうとしている木々の葉。穏やかな水の流れる音。首輪をはめた犬……。

 (いや待て、犬は余計じゃないか?)

 そう思った時、犬は修二の顔をペロペロと舐めまわした。

 「や、やめろって! くすぐったい! 擽ったいって!!」

 修二は犬に舐め回されるのを嫌がって、情けない悲鳴を上げながら犬をどける。犬は不服そうに「クーン」と鳴き、尻尾しっぽを激しく振って修二を見ていた。だらりと垂れた舌に犬特有の早い呼吸がなんとも言えぬ程の愛想を漂わせているのに、修二には外敵としか見なせない。

 「そいつは、『ロキ』。犬種は『ホワイトシェパード』。警察犬に多いシェパードの白バージョンだ。例によっては普通のシェパードより優秀な犬もいるらしいわ」

 女性の声でそう聞こえた。声のした方を反射的に向くと、そこには髪型がツインテールの気の強そうな目をした女が黒いコートを羽織はおって岩に腰掛けていた。

 「ハハハハ、ようやくお目覚めのようね?」

 と女は言って、岩から降りると華麗に着地して、手を叩き、犬を呼んだ。犬は拍手に反応して、元気よく女の前まで走っていく。

 「ロキ、おすわり」

 と、女が言うと犬はしゃがんでいい子になった。修二と遊べないのが少し寂しいのか、首をかしげて物欲しそうに修二を見ていた。

 「ところで、あなたは何者? それにこの犬は?」

 と修二がくと、女は「クフフ」と社交辞令のように作り笑いを浮かべて、

 「私は政府軍第三部隊、隊長の『依里茄いりか』だ。そして、隣にいるのが私の愛犬のロキだ。さ、私の自己紹介はすんだ。お前さんの名はなんて言う?」

 「僕は修二……」

 「ほう、修二か。隣にいるお兄さんもお友達か?」

 修二は依里茄の視線を追って、背後を見る。そこには気絶している隆がいた。顔面に水草をぶら下げて情けない姿になっている。

 「隆!!」

 修二はすぐに様態を確かめようと意識を確認する。

 「大丈夫だ。焦らなくてもその男は無事だ」

 依里茄は冷たい地声でそう言って、

 「心配するな。どこかの国とは違って私達は温和だからな」

 と続けた。

 「ここはどこ?」

 「ここは麗川の下流の方だ?」

 「麗川?」

 「麗川を知らないのか? 麗川は『帝国=政府国境』の基準と定められてる川よ。まあ、一部は分岐して政府領内に流れてるけど。それに、四季折々に見せる綺麗きれいな姿から麗川と名付けられたわ。ほら、見てみなさい」

 と言って依里茄は一本の木を指さした。それは新緑から徐々に赤色へとの葉が色付きそうな木だった。

 「もうそろそろ秋だから、この辺りでは美しい紅葉が見られるようになるわ」

 「というと?」

 「というと? 『というと?』とはどういうことだ?」

 「ここは政府側なのかって……」

 「困った土左衛門どざえもんだな。どう考えても政府の領内だろ?」

 と、言われて修二は美来が「政府は、優しい国なんだ」と言っていたことを思い出す。

 確かに、言われてみれば目の前の人は温和そうな人だ。助けを呼べばいつでも駆けつけてくれそうな親切な人にも思える。

 そこで気がついた。美来は拘束されたのだ。だとすればこんなところでもたもたしている場合ではない。一刻も早く彼女を助けなければ。


 「……なあ、『帝国軍隠密集団』って知ってるか? 黒ずくめの」

 「隠密集団? まあ知らないことはないが……」

 「そいつらの本拠地は?」

 執拗しつように問い詰めてくる修二に依里茄は苦笑いを浮かべて、

 「まさかお前さん、一人で帝国側に喧嘩売る気なの?」

 「……」

 「悪いけどそれはやめておいたほうがいいわよ。あんたが一人で喧嘩売って勝てるような相手じゃないからね。隠密集団は」

 と依里茄は言って顔を伏せていた。

 「ちょ、ちょっと待ってよ。一人とは言ってない!」

 「なら二人か? どちらにしても結果は同じだぞ。それに何故そこまで隠密集団にこだわるの? ここは政府の土地だぞ。安易な打開策は打ち切って、平和な生活をすれば帝国に対する恨みなんて忘れられる。犬死するくらいだったらそっちのほうがいいんじゃない?」

 「でも……僕は、仲間を助けなきゃならないんだ」

 「仲間ねぇ……きっと今頃洗脳されてんじゃないの? そのうち敵側に『寝返って』何もしなくても襲ってくるわ。だから、諦めな」

 依里茄は修二に冷たくそう言った。

 単なる耳障りにしか聞こえない。『寝返る』だなんて、美来がそんなことするような人間には思えない。

 「諦めない。僕は助けに行く。だから教えてくれないか? 本拠地を?」

 言った修二に依里茄は寂しそうな表情を見せた。すると、溜め息をついて、

 「あんたって、幸せ者よね。よくもまあ、この世界で人間を信用できるわね。でも、信用なんて不要よ。いずれ、『裏切られる』のがオチだわ」

 依里茄は冷たくあしらった。理由がなんなのかは分からないが、依里茄は教えてくれそうになかった。依里茄は人間関係に嫌気が差しているようだった。

 瞬間、左肩に痛みが走る。

 「うっ……」

 「どうした?」

 依里茄が修二に駆け寄る。修二の左肩から血があふれ出していた。

 「怪我してるな。大丈夫か?」

 「平気だ」

 依里茄は強がる修二を心配そうに修二を見ていた。

 「ワンワン!」

 突然、ロキがえた。依里茄と修二はロキの視線を追い、ひっきりなしに吠えている相手を確認する。隆が頭を抱えて起き出した。

 「隆! 大丈夫か?」

 修二は自分の怪我などそっちのけで隆を心配する。

 「ここはどこだよ……? ったく……」

 隆は元気そうだった。いつも通の億劫おっくう加減でそう言った。

 「あなたが隆という人ね?」

 隆は驚いたように依里茄を見た。

 「なんだてめえは?」

 「私は政府側、第三部隊、隊長の依里茄だ。そして、犬は愛犬のロキだ」

 と依里茄はお決まりのように挨拶する。隆は依里茄の愛犬のロキを見て、

 「ケッ、犬なんて飼ってんのかよ? 動物は足手まといになるだけだぜ?」

 「そう。でもロキは違うわ」

 「どうせ口だけだろ? この世界の軍隊なんてみんなそんなもんだ」

 言って、隆は周囲を見渡す。すると、女性人が二人ほど足りないことにショックを受けているようだ。さっきまでの威勢はどこかに吹き飛んでしまい、疲れ果てた浪人ろうにんのようにぐったりと溜息を吐いて、落胆らくたんしていた。

 それを見た修二も同様に頭をカクンと下げて陽の光を反射する川面かわもを見ていた。

 「お前さん達、一体どうした? 急に暗くなって……」

 怪訝そうな目付きで二人の様子を見ている依里茄がそう言った。

 「僕達は『仲間を失った』ばかりなんだ……」

 と修二が答える。依里茄は『仲間を失った』の部分だけ驚いたように反応したが、気の毒そうに顔を伏せて、

 「お気の毒ね。その気持ちは分からないわけではないわ」

 と依里茄は言って、岩に掛けてあった刀らしきものを手にとった。

 「全く、お前さん達は礼儀を知らないわよね。助けた相手にお礼の一つもないの?」

 依里茄は不機嫌そうに言った。仲間を失ったことに気を取られすぎて大切なことを忘れていた。

 「助けてくれてありがとう」

 修二が言うと、依里茄は微笑んだ。

 「無理に言わせたみたいで悪かったわね。私はつい本音を口にしてしまう時があるから、直さないとな」

 言って、依里茄は脇目で修二たちを快く見つめていた。歓迎してくれているようだ。

 「ワン!」

 と、突然ホワイトシェパードはしっぽを嬉しそうに振ってえた。

 「それで、お前さんたちはこれから仲間を助けに行くんだよな?」

 依里茄が背を向けたまま上をむいてそう言うと、

 「そうだよ」

 と隆が不貞腐れたように答えた。すると、依里茄は「フフッ」と鼻で笑って、振り返り、

 「だったら、あえて言うわ。足がないのにどうやってこの険しい山道を登ろうっていうの? 徒歩? それなら、敵陣に乗り込む前に疲労困憊ひろうこんぱいで惨敗よ」

 依里茄が言うことは、あながち間違ってはいない。

 「何が言いたいんだてめえ?」

 隆は依里茄に向かって厳しい態度をとっている。依里茄はただ純粋に、

 「一緒に来ないか?」

 と言った。修二と隆は顔を見合わせる。そして、再び依里茄の方を見た。

 「お前さん達と出会えたのも何かの縁だわ。よかったら一緒に政府の基地まで来ない?」

 依里茄は照れくさそうにもう一度言う。

 (いい誘いだ。これはもしかしたら、政府を味方につけるチャンスかもしれない。でも、美来はどうなる? 手遅れになったらどうするんだ?)

 悩むようにもう一度隆と顔を見合わせ、

 「分かった。僕たちもついて行くよ」

 と依里茄に言った。

 (美来を救おうとして、むやみに突っ込んで全滅したら元も子もない。ついでに治療も受けよう)

 と修二は考えた。依里茄はその返答を待っていたかのように満面の笑みを浮かべた。




 犬のロキが先頭を切って、森の中を進んでいく。三人はロキの後を追うようにゆっくりと歩いていく。

 「私たち政府の軍隊は客人を大切にしているのよ」

 と依里茄が暇な道中を少しでも明朗めいろうな雰囲気にさせようと政府の事を説明する。口調は冷たいが興味深いことを口にしている。

 「へえ、政府の軍隊は客人を大切にしているのか」

 世間知らずの修二は話にのめり込んでいく。隆は早速さっそく、目的喪失してしまったかのような修二に冷たい視線をぶつけていた。

 「そう。それに、あなたたちは久しぶりの客人だから。きっとみんな喜ぶわ」

 と依里茄は嬉しそうに言った。その、容貌ようぼうに水をさすように隆は眉間にシワを寄せて不満そうな顔をしていた。

 (ちぇ、何、自慢話してやがるんだよこのやろう)

 隆は静かに溜息を吐き、依里茄と言う女を疑いの目で見つめた。

 「そうそう、あなたたち、もしかして逃亡者?」

 依里茄に聞かれ、修二は隆の様子をうかがう。隆は眉間にしわを寄せて、闘犬で知られている土佐犬のような顔をしていたので、

 「そうです」

 と答えた。

 「ほう、しかし良く逃げてこられたわね。その根性と精神力。ますます気に入ったわ」

 と、依里茄は頷いていた。その肯定具合から伺うに、嘘がバレていないようだ。

 「ところで、第三部隊はどんな部隊なんだ?」

 「いい質問だ修二。私達の部隊は別名『くノ一部隊』と呼ばれているわ」

 「くノ一部隊? じゃあ、『くノ一』って事は、部員はみんな女?」

 「そういうことよ。だから、主に接近戦を得意としてるわ」

 「へえ、でもなんでまた女だけなんだ?」

 「この世界ではもう、男の人員が女の人員より遥かに少なくなっているのが現状だわ。……男たちは戦場で討死うちじにし、帰りを待つ女、子供は悲しみと共に生きていく。……ただ犬死するくらいなら戦いたいと言う意思をもつ女性は軍人になって男たちと共に戦場を駆けるってだけの話よ」

 訳ありげに依里茄が言うと、丁度、木々の分け目から建物が見えてきた。


 「そろそろ、目的地みたいだわ」

 依里茄が言って、茂みをくぐると、開けた場所に出た。木々に囲まれ、ヘリを離着陸させるための滑走路までついていて、奥には大きな二階建ての建物が立っている。

 荘厳そうごんな雲域をかもし出しながら、周囲一体は警備にあたる兵士に埋もれていた。

 (なんて、すごい場所だ……)

 修二は目をキラキラと輝かしていた。これくらい勢力が大きければ帝国も楽勝で潰せると思ったからだ。

 「ここが、政府本拠地よ」

 依里茄が言うと、

 「あ! 隊長さんだ! 隊長さんが帰ってきたよ!!」

 と、赤いリボン付きのカチューシャをはめて、オシャレなパーマ(横波ウェーブ)が魅力的な金髪の女が叫んで、それに続いて女性人が集まってくる。

 それも、全員、腰に刀を装備している点が怖い。失言したら殺されそうだ。

 (すごいな。本当に接近戦専門なのな……まて、刀……?)

 修二の脳裏で何かがうごめいたような気がした。

 「よ! 依里茄っち! 今日は客人も一緒なんだね?」

 と、元気いっぱいに先程の金髪の女がそう言った。『隊長さん』と呼んだ暁には『依里茄っち』と呼でみたりとまとまりのない女性だ。

 「お~い、客じ~ん。元気かぁ!」

 うわさをすれば女はハイテンションでニコニコしながら修二に手を振っているではないか。思わず目を丸くして見ていると、

 「おい、やめねえか、『友佳ゆか』。客人が困ってるだろ」

 と低い声が響いた。すると、大人びた容姿をしている長髪の女性が現れた。

 「え~。困ってないよ~。ね! 客じ――――――――――!」

 態度もわきまえないおとぼけな娘に拳骨げんこつが落とされた瞬間だった。

 「って~。いきなり何するの『咲希さき』姉! 舌を噛むところだったじゃない!」

 「済まない客人。うちの友佳がとんだ無礼を働かせちまったが、どうか許してやってはくれぬかね?」

 咲希は懇切丁寧こんせつていねいに修二と隆に言う。

 無視された友佳は、気に食わない目つきで咲希を見ていた。更に、友佳はつまらなそうにうつむいてしまった。

 「あ、いやいや、別に全然大丈夫だよ。そういうもてなしは逆に嬉しいし……」

 修二が言うと、友佳はパァッと明るい表情を浮かべた。

 「なに? 意外にも心広きお方じゃねえか。よかったな、友佳」

 咲希は控えていた無礼がここになって一気に下品な口調に変わった。男勝りな正確らしい。

 「な~に言ってんのよ。咲希姉。これが人間として普通なんだってばぁ」

 友佳は堂々と胸に手を当ててそう言った。せっかくフォローしてやったのに台無しだ。お調子者のようだ。

 「まあ客人。楽しんでいってくれよ。ここでは戦争のこと、忘れちまっても構わねえからさぁ!」

 言って咲希は修二の左肩を叩く。それも、強く。

 「ウガッ……」

 悲鳴を上げる。咲希は驚いたように止まった。咲希は修二が怪我をしていることに気づいていなかったようだ。

 「す、すまねえ客人。大丈夫か? 悪気はなかったんだ」

 やりたい放題もいいところだった。修二は少しいらだちを覚える。

 「お前らは邪魔だ。とっととどっかいけ」

 依里茄は二人を強制的に追い払った。友佳と咲希は嫌そうな表情を浮かべたが、渋々その場をあとにした。

 「何だったんだ?」

 「すまんな。修二。私の部下が迷惑をかけた。でも、許してやってほしい」

 「僕は別に平気だよ」

 修二はそう言った。依里茄は何かに思いつめているようだったが、

 「さて、私たちも行きましょうか」

 と言って二人を連れ本社へと向かっていった。隆は温かな恩恵の中でも、気に入らなそうに周囲を見渡していた。

 その後、隆は依里茄と楽しそうに喋る修二を睨みつけていた。




 広々とした入口を入ってからすぐに右に折れると、ひとつの扉があり、そこへ案内された。

 入ると、客室のようだ。

 純白のモコモコとした動物の毛でコーティングされたソファの前に、白いテーブルクロスが敷かれたロイヤルなテーブルを挟んでもう一つくだんと同じソファが置かれている。

 緑色のタイル床に、白い壁紙。

 入口から入って前方に見えるのは、丸く突き出てガラス張りになった奥行に映し出される絶景のパノラマ。

 この部屋をつなぐ扉は全部で三つあり、修二が入ってきた場所から見て右奥に一つ、さらに、修二達のいる壁際にもう一つ十メートル程間隔を置いて、あった。

 テーブルの上には、既に四つのマグカップが用意されていてお茶も入っていた。テーブルの脇では女中と思われるまだ小さな女の子がメイドの服装をしてにっこりと笑みを浮かべて待っていた。

 小さいのにメイド服を着せられ、頭にメイドカチューシャ、手に白いロンググローブている様子を見ると自分が奴隷扱いされていた日々を思い出す。

 最悪なことに手には銀色の丸みを帯びたおぼんを持っていた。


 修二にはそれが泥臭い鶴嘴つるはしにしか見えなかった。


 修二は気を紛らわそうと、ガラス張りになっている半円状に突き出た場所へ足を進める。一定間隔で柱が並べられていて、豪華な造りになっているそこは、リゲルが居た部屋とどこかそっくりで嫌な気がした。

 「修二、お前たちに会いたいという連中が来る。そこのソファに座ってまっててもらえないか?」

 依里茄が言った。修二はすぐに承諾しょうだくして、隆の隣に座った。隣にいる隆はとてもつまらなそうな顔をしている。

 「……」

 隆は何も話すことはなかった。修二と目も合わせようともしなかった。ただ、どこか一点を見つめる彼のクールな横顔だけが修二の視界に飛び込んできた。




 二、三分ほどたった頃だろうか。テーブルに座る修二達から見て右側の修二達が入ってきた青い扉とは別の黄色い扉から、たいそうなお偉いさんが着るような制服を身にまとい、軍帽ぐんぼうを被った一人の大きな男が入ってきた。

 (リゲル?)

 一瞬疑ったが、貴族というものはああいう体型が多いのだろうと感情を抑止した。

 「『くノ一』よ、この方々が客人かね?」

 といい年した男は狡猾こうかつな人間が出しそうな悪賢い声でそう言った。

 「そうですよ」

 依里茄は面倒臭そうに答えた。

 「ムフフ、なかなか良い面をしておるわ」

 男は横目で睨みつけている隆を見てそう言った。そして、「よっこらせ」とソファに座り込む。その際、彼の腹についている肉とテーブルが衝突し、入れてあったお茶がこぼれた。

 「おおっと、失礼。ほれ、『かおり』。早くかんか!」

 「は、はい!」

 男は自分がこぼしたお茶を『かおり』と呼ばれるくだんのメイド服を着た小さい女中に拭かせる。女中は先ず、貴族の太っちょの周囲に溢れたお茶を真っ白の雑巾拭き取ると、続いて女中は一生懸命雑巾ぞうきんで客人の修二と隆に迷惑がかからないようにテーブルを急いで掃除する。


 見苦しい光景だ。

 奴隷時代を思い出す。


 「ケッ、くっだらねえ」

 隆は自分の場所を掃除する『かおり』の手を掴んだ。

 「はい?」

 かおりは声を裏返してそう言った。

 「貸せよ。お前、小せえのに大変だろ?」

 隆は女中から雑巾を奪い自分の場所を拭き始めた。

 かおりは隆の思いがけない行動に思わず動作が固まってしまう。

 「おお……なんと……、かおり、何をしておる新しい雑巾を持ってきて拭くのだ!」

 偉そうに貴族は命令する。

 「はい! 申し訳ありません!」

 かおりは急いで貴族と依里茄のいるソファの後ろにある赤い扉に入って、すぐに雑巾を一枚取ってきて。今度は修二の席を拭き始めた。修二は隣で拭いている隆を見習って、女中の持っている雑巾に手を置いた。

 「へ? あの、大丈夫ですよ。私がやりますから」

 女中は当然のようにそう言ったが、強制労働を経験している修二は黙って働かせるわけにはいかなかった。

 「いや、僕が拭く」

 修二は女中から雑巾を取って拭き始めた。依里茄は「二人して何してんの?」と冷たい視線を向けているが、修二は目もくれず一心に拭いた。

 「ムッハッハッハッハッ! 素晴らしい客人だ。この『玄三げんぞう』、感服致したぞ」

 貴族自分を『玄三』と名乗り、呑気のんきに拍手して修二達をめ称えていた。


 女中のかおりは嬉しさをこらえているのか、照れくさそうにはにかんでいた。

 しかし、その一方で玄三は鋭い目付きでかおりを睨みつけた。かおりはその目を見て、「あっ」と一歩後退する。

 それと同時に震える手から銀色のおぼんが落ちた。

 虚空に消えるむなしい衝突音を耳にして修二、隆、依里茄は一斉にかおりに注目する。

 戦慄せんりつに怯え、引きった『かおり』の眼光は、まるで虐待を受けている幼女のようにも見えた。

 「す、すみません! 今、片付けます! 今、掃除します!!」

 何かに恐れおののくように、かおりは大声を上げて、銀の皿を拾い上げると、修二と隆から雑巾をなかば強引に奪い取った。

 「お、おい、どうしたんだ?」

 隆が訊いても何も答えない。息遣いが乱れまくって「ゼー、ハー」と言う吐息しか聞こえなかった。

 「大変申し訳ありませんでした! 客人様」

 一礼すると、逃げるように赤い扉から去っていった。

 沈黙が続く。

 妙に背筋が凍りついていくのを修二は感じ取った。


 「優しい国なんだよ」と言う美来の声が消え始め、変わりに「最初に崩壊したのは政府側なんだぜ」と言う隆の残酷な言葉が脳裏を過ぎった。


 政府の楽園。それは根っからの嘘だったのだろうか……。

 疑念が積もりゆく。

 その時、黄色い扉から武装した兵団が入ってきた。

この次の投稿は遅れると思います(遅れない可能性もあり)。


なるべく速めに更新したいと思っています。

楽しんで読んでもらえると幸いです。

投稿者自身なるべく最善を尽くします!

(>_<)ゝ



誤字、脱字などありましたら、指摘お願いします。


まだまだ文章力とか、表現力などあらゆる点で至りませんが……


物語を書くのって楽しいですね!!☆



それはさておき、いよいよ政府側が登場しました!

ここからバンバン、キャラクター出てきますんで覚悟を(笑)


今回の話で五人くらい出てきたかな?(汗)

まあ、その後いろんな場面で活躍するんで無理に覚えなくても大丈夫です☆


最後に読者の皆様。

心より支援を感謝いたします。

引き続き『ガバエン』をお楽しみください。


TO BE CONTINUED NEXT CHAPTER(PAST).

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