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GOVERNMENT EMPIRE  作者: Lirenoa
第三章 信頼の章
26/115

PAST 26:動き出す郎党

 帝国側本拠地、会議室。

 六体の聖火を持った女神像が広々とした空間を縁どるように配置され、一つの長テーブルを見守っていた。その長テーブルは白いレース柄のテーブルクロスに包まれ、寂しそうに佇んでいた。しかし、綺麗きれい清楚せいそな長テーブルには五十人は余裕で座れるはずなのに、たったの四人しか座っていない。

 それも、隅っこの方に。

 「フ、出払っている連中以外は集まったか?」

 と一人だけ座る位置が違い、異様な威圧を放っている帝国側君主カリバがそう言った。

 「そのようでございま~っす」

 と黒いドレスと白い真珠の首飾り、透き通る紫色を放つアメジストの腕輪、虹色に輝くオパールの指輪となんとも言えぬ華美な服装の女が言った。

 「レクラムよ、結果を報告しろ」

 「へいよ。カリバの旦那」

 とカリバから見て右側に座るレクラムが言って、席を立ち、険しそうな顔をして、

 「どうやら、ゲリラと思わしき存在が動いているみたいですぜ。早々に手を打たなければまずそうですぜ。きっと奴らはいつの日か勢力を高めてここ、帝国本拠地に猛進してくる可能性がありやす」

 と言った。

 「なるほどな」

 カリバは右目を髪の毛で覆い隠す殺斬さつきに目を向けて、

 「おい、殺斬。貴様らの軍隊は本当に動いているのだろうな?」

 といた。殺斬はこの前の会議で、暗躍あんやくするゲリラ部隊の処置を担当すると進言していた。殺斬は「ククク」と笑って。

 「カリバ様、安心してください。計画は順調に進んでいますよ」

 「なら、あえて聞いてみようではないか。どの程度進んでいるのか? と」

 「今の段階では、彼らの拠点を探しています。しかし、厄介ながら奴らの拠点は大きな市民ゲリラの領内に存在しているようで思うように攻撃を仕掛けられないのが現状です」

 「ほお、あの『スティーラ』が担当している地域か」

 「そうです。『月滅つきほろぼしの町』です」

 「面倒な場所だ。攻めるにはまだ時期尚早じきしょうそう。犬死する兵士は減らさねばならぬ」

 カリバは悩むように額に手を当てる。

 このままいけばゲリラ勢力が拡大。ましてや市民兵と組まれては規模壮大の反乱勢力になってしまう。

 「でも、ご安心ください。既に一手打ってあります」

 「ほお。それはなんだ?」


 「ちょっとした細工を仕掛けておきました」


 「なるほど。そいつはなんだ?」

 「おとりです」

 「囮?」

 「はい、その囮の力があれば、ゲリラ部隊は容易に投獄できるでしょう」

 殺斬が言うと、カリバはニタニタと笑った。まるで勝利を確信したかのように。殺斬もまたニヤリと笑った。

 殺斬は自分の持っている企図きとを成功させる自信があった。

 「殺斬よ。そのまま計略を続けろ」

 カリバは指示をだすと、殺斬はコクリとうなずいた。しかし、その光景を一人気に食わない表情を浮かべて見ているものがいた。

 「しかし、カリバの旦那、こいつが動くのが遅かったためリゲルがやられたんですぜ。貴重な戦力が一つ消し炭にされたんでっせ!」

 「まあ、そうカッカするな、レクラムよ。我々にはとっておきの兵器があるではないか」

 カリバが言うと、レクラムは殺斬にチッと舌打ちして、座った。殺斬はそんな無礼な態度をとるレクラムに対して何の反応も示さなかった。




 あの事件から間もなく二週間が経とうとしていた。美来がリゲルを射殺したという事実はゲリラ部隊を含め既に世の中に広まっていっただろう。

 しかし、そんな手を休めることなく広まる事件に対し、修二しゅうじ達はここ二週間、怪我の治療と疲労回復のために寝てばかりだった。

 夕日が差し込む寝室の窓をベッドに座って、眺めていた。この部屋は八畳ぐらいの大きさで、空間的にはそこそこゆとりはある。

 「あ、シュウ君」

 と美来みらいがにっこりと笑って声を掛けてきた。美来とはあの出来事があってからはずっとこんな感じだ。あれから二週間経過したと思うと短いようにも感じられた。つまり、それだけ親しい間柄になれたということだ。

 「美来」

 と声をかけると、嬉しそうに入ってきて、修二しゅうじの隣に座った。

 「ねえ、シュウ君、なにしてるの?」

 「夕日を眺めてる」

 「へ~。ロマンチストだね。また何で?」

 「五年前の事を思い出してさ……」

 「五年前?」

 美来は首をかしげた。

 「うん。その日、僕の村が絨毯爆撃じゅうたんばくげきされたんだ。隙間なく、村中の人間が死滅するようにね……」

 「酷いね……」

 「うん。あの日、僕は家族を失った。親しい人間も失って、一人になった……」

 言い終えたところで、修二は考え事を始めた。

 (五年前の爆撃事件から奴隷生活に至るまでの空白の時間。僕は何をしていたのだろう……)

 と。考えるほど頭が痛くなるような気がした。

 「あ、ゴメン、シュウ君。こんな話になっちゃって、邪魔しちゃったよね」

 修二の寂しそうな顔を見た美来はそう言って、うつむいた。美来は思っている以上に優しい女の子だった。特に、人の心を読み取る感受性は仲間の中でも卓越していた。そんな美来にあるもう一つの人格は、今の美来とは正反対の性格をしている。

 『残酷無慈悲の殺戮兵器』。単刀直入に言うとそうなる。

 「いいよ。気にしないで。それよりも美来の精神の方が心配だよ。大丈夫?」

 「私なら平気だよ。シュウ君のおかげでね……」

 愛想笑いを浮かべる。美来は弱いところを隠しているのだ。心配させたくないという彼女の意志のせいなのかもしれない。

 「じゃあ、私、行くね。シュウ君。お邪魔してごめんね」

 言って、美来は軽いステップを踏みながら修二の部屋を後にした。あれから美来は修二と会話するたびに嬉しそうだった。自然と修二も美来の笑顔には癒されていた。


 「入るぞ」

 りゅうの声がした。かえりみると、開き戸を閉める隆の姿があった。そして、隆は閉めた引き戸にロックをかけた。

 「なんで鍵を閉める必要がある?」

 黙ってみていられない修二はそう訊いた。

 「今からお前に、美来の過去を少し話さなきゃいけねえからな」

 と言いながら隆は修二の視線を遮るように、窓の前に立った。

 「それなら聞いたよ。大量殺戮さつりく事件のことでしょ?」

 修二の言葉に隆は少し苦い顔をした。

 「ちげえよ。リゲルのことだ」

 隆は呆れたように言った。

 「リゲル?」

 「ああ」

 「リゲルがどうしたって言うんだ?」

 「そいつと美来の因縁の話。まさか、これも本人から聞かされたのか?」

 言って隆は修二に視線を向ける。

 「いや、聞かされていない?」

 「だろうな」

 当然のように言って隆は、引き戸を見ていた。

 「美来はリゲルに“兄を殺されてる”んだよ」

 その時、修二の脳裏で何かが動いた。

 それと同時に修二の脳裏にある人物が浮かび上がってくる。

 ツインテールにムッとした表情を浮かべる女の子の顔。それは、修二の死んだ妹。『早百合さゆり』の顔だった。

 「美来がリゲルを殺したのもそういう理由だ」

 修二は黙っていた。修二は自分と美来が同じ存在なのだと心のどこかで悟った。

 「どうだ? 少しは彼女の心の傷を癒す材料になったか?」

 「うん。ありがとう。わざわざ……」

 隆は「フッ」と鼻で笑って、

 「礼はいらねえ」

 と言って鍵を開けて扉から出ていった。

 扉が空虚な音を立てて閉まった。

 リゲルと美来の因縁を知った修二は考えていた。

 「美来がリゲルに異常な恨みを抱いていたのはそういう理由だったか」と。




 美来は廊下の突き当りにある階段で寂しそうに床を見つめて白い壁にもたれ掛かっていた。廊下にはほのかに落ち着きのある木材の香りが漂っていた。

 「こんなところで何してんだ?」

 隆が問うと、美来は寂しそうな視線を隆に向けた。

 「隆さん……」

 「なんだ? ヘッ、またお前さん修二のこと気にしてんのか?」

 「だって……」

 「平気だって、気にしてる方がバカみたいだぜ。修二はきっとお前のこと気づいてくれるぜ。いつになるかはわからねえけどな。きっと時間が解決してくれる。それまで待つんだよ。でも、今が楽しいから解決するのも早くなりそうだな」

 隆が言い終えても、美来はさみしい視線を崩さない。

 「さっき、シュウ君と何話してたの?」

 「お前の兄貴のことだが」

 「……どうして?」

 「少しでもお前のこと修二に分かってもらったほうが――――――――――――」

 「余計なこと言わないでよ……」

 美来は目に熱いものを浮かべて冷たくそう言った。

 「シュウ君だって、いろいろ抱えてるものがあるの……辛いのは私だけじゃないよ。シュウ君だって悲しみを乗り越えてる。隆さんはそんなシュウ君に負担をかけたってことだよ?」

 美来はそう言った。しかし、どこか抵抗がある言い方だった。

 「……説教かよ。でも、ホントは嬉しいんだろ? 中々言えなくて困ってるみてえだったからな」

 「隆さんて……『お兄ちゃん』みたいでだよね」

 美来は嬉しそうに笑って、その場をあとにした。

 「お兄ちゃん……か」

 隆は美来が去った廊下をいつまでも眺めていた。




 その一室には冷たい空気が流れていた。

 誰かが不審な紙を持っている。そこには赤い字で


 『早くことを進めろ。

  さもなくば皆殺しにする。』


 と単刀直入に卑劣ひれつな内容が書かれていた。

 「っ……」

 と苦しそうに息詰まりながらその手紙を眺めているのは空奈かなだった。


 (もう時間が来ちゃったみたいね……。三人ともごめんなさい……)

 空奈は手紙から一旦視線を逸らし、

 (どうやらあなた達とは決別しなければならないみたいね……許してね……)


 と空奈は手紙を握りつぶした。

 そして悔しそうに歯を剥き出しにして、差出人の名前を凝視していた。


 そこには『早百合』と書かれていた。

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