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GOVERNMENT EMPIRE  作者: Lirenoa
第二章 反撃の章
16/115

PAST 16:思念の矛先

 嫌な風が吹いたような気がした。

 戦場に木霊する銃声の音色。その音色をひっそりと聞きながら、空奈は強そうな黒スーツと対面していた。表情一つも変えず空奈を見つめる黒スーツ。よく見ると、胸元に白く『BRACELET(ブレスレッド)』と刻まれている。

 スーツの名前のようだ。果たしてそれが略語なのか、直訳が『腕輪』のブレスレッドなのかは分からない。

 ブレスレッドは頭を少しカクンと下げ、自分の腕を見ていた。すると、腕をパカリと開け、電卓でも打つように何かを入力し、閉じた。

 すると、肩甲骨に付いていた二つのミサイルボックスが顔を出した。相手が誰だろうと生ぬるい戦闘方は行わないらしい。雑魚など榴弾で一掃してしまおうと、面倒臭がりな考え方なのだろう。

 ブレレッドはミサイルボックスを空奈に合わせる。空奈は脅威きょういの黒光りボックスを睨視げいしした。緊迫感に包まれる。ミサイルに当たれば即死はまぬがれない。

 つばを飲んだ瞬間、ブレスレッドはミサイルを射出した。

 (きた……)

 と空奈は心の中で言って、横合いに飛び込む。ミサイルは直進して建物の中に突っ込んだ。

 建物の咆哮ほうこうの後に、コンクリートで出来た建物は形骸けいがいすらも残さず倒壊する。黒い煙と、白い粒子が交じり合った煙幕が空奈を襲う。

 腕を鼻に押し当て、煙幕に含まれる素粒子をなるべく吸い込まないように防御する。

 すると、視線の奥でオレンジ色が燦然さんぜんと輝いた。またミサイルを射出したのだ。

 危機を察知した空奈は、急ぎ、横へ飛び跳ねた。

 地面がえぐられる。ミサイルは最初に空奈のいた場所に着弾した。近間での爆発のため、爆風で体勢が崩れる。

 可愛らしい悲鳴をあげて、空奈はコンクリートに叩きつけられた。

 じんわりと痛みは体を駆け回る。うんざりだ。

 「いったいわね……」

 鬱陶うっとうしい痛みに苛立ちながら空奈は余裕の表情で立ち上がった。

 (今度はどこから来るの? あいつはどこ?)

 一面煙の景色をくまなく捜索する。

 その時、ビュオーと乾いた風が吹いた。視野は一気に明るさを取り戻す。

 煙幕から開放され、

 「いい風ね」

 と空奈は言った。澄ました顔で前方を見つめると、そこにブレスレッドの姿がない。

 驚きながら上を見た。予想通り、ブレスレッドは上から攻撃を仕掛けてきた。それを見た瞬間、空奈は後ろに退く。

 鈍い音が響き、コンクリートはえぐられて悲鳴をあげる、地面には小さなクレーターができた。

 餌食になっていたら一溜ひとたまりもな方だろう。

 圧巻が連呼する中、空奈は、

 「あなた、名前ぐらい名乗ったらどうなの?」

 とく。

 寡黙なブレスレッドは答えない。口がついているのかさえも危うい。顔を向けるだけで動作は終わった。

 「そう……口がないのね。仮面さん」

 言って、空奈はハンドガンをブレスレッドに向け、攻撃した。どの弾丸も体に当たるように打ち出した。だが、ブレスレッドは弾丸を全て弾いてしまった。

 「あら……。お固いのね……」

 空奈の顔は少し引きった。そして、悟る。

 (これって、あたし、無力すぎて勝てないんじゃない?)

 と。

 結末が決まれば空奈のやることは決まっている。


 ブレスレッドは無力な空奈にまたミサイルボックスを向ける。完全に抹消するつもりだ。けたたましい衝撃音と共に勢い良くミサイルは飛び出した。

 「またその攻撃?」

 と、空奈は右足を一歩引き、体を斜めらせる。

 ミサイルは空奈のギリギリのところを通過する。風を切る音が、空奈を嘲謔ちょうぎゃくしているようだった。

 ミサイルは背後にある建物に激突した。空奈の背後から次々と壁の破片が飛び抜ける。ブレスレッドは何かを察するように構えていた体勢から普通の体勢へ戻した。

 「つまんないわ。あなた。攻撃がワンパターンすぎ」

 と空奈は挑発する。

 瞬間ブレスレッドの動きは停止した。仮面をかぶっていても、音声は聞こえるらしい。

 「もうそんなミサイルなんて飽きたわよ。なんていうかつまんないのよね。よける側になって考えてみてよ? それ以外の攻撃がないの? ホント情けな――――――」

 ブレスレッドが地面を思い切り殴った。「黙れ」と言っているのだろう。更に背中から長い刀身の刀を抜く。

 ブレスレッドは空奈の挑発に乗った。作戦成功だ。

 「そうこなくっちゃね」

 空奈はハンドガンを捨て、ナイフを持った。軍人には欠かせないサバイバルナイフ。しかし、ブレスレッドにナイフ攻撃が通用するかはわからない。

 空奈は相手の出方を伺う。息を呑みこみ、相手の刀を凝視ぎょうしした。

 (さあ、どうくる?)

 と、待っていると、相手はコンクリートの地面を蹴って、飛びだした。




 ここは、ビル内部のエレベーター。

 外は警備もなく、ひとりの兵士とも出くわすことなく簡単に入れてしまった。

 中は厳重警戒態勢になっているのかと思いきや、誰もいない。「もしかしたらここはそれほど重要な場所ではないのだろう」と、不審感が積もる。

 外の反乱兵の応戦に全兵力を注いでいるに違いない。と隆はさっする。

 エレベーターが停止して、21階の扉が開いた。すると、客人を出迎えるには豪勢すぎる壁の装飾品と床に敷かれた赤い絨毯じゅうたんが写り込んだ。ロイヤルな空間は天空の王城をかもし出していた

 だが、依然として警備をしている気配はない。

 隆は警戒心ゼロで堂々と赤い絨毯が敷かれた王朝の廊下の中心を通り、目的のデータがあると思われる、パソコンが置いてある部屋に入った。

 ガランと静まり返った一室は何ともいえぬ奇妙さを醸し出していた。

 (変だな……)

 違和感を覚える。目的を終えたらすぐにでも出たい気分だ。

 早速、お偉いさんが座りそうな豪華な回転椅子に座り、隆はパソコンにディスク(CD)を挿入した。ロックも掛けられておらず、電源がついたままの完全無防備なパソコンの中から、「取りあえずフォルダー内のデータを全部コピーしてしまえばいいだろう」と考え、全データをディスクにコピーする。

 待っている時間がとてつもなく暇なので、回転椅子でクルクル回りながら考え事をする。空奈のこと、警備のこと、帰り道のこと、これからのこと。

 そんなこんなをしているうちに、コピーが完了していた。ここまでにかかった時間はわずか二分。一呼吸おいてディスクを取り出し、ケースに納入。取りあえずロングコートの中にしまった。

 (バカみてえだな。命懸けでこんな手薄な場所に入って、データ取るなんて。くっだらねえデータなんだろうな)

 そう思い詰めながら、溜め息をついた。

 「動かないで」

 瞬間、隆は頭に銃を突きつけられた。背後の声から女だと悟る。となると、あまり暴力は犯したくないなと考える。

 「ディスクを渡してもらいましょう? ゲリラ兵さん?」

 と、後ろにいる誰かは優しそうに言う。そして、鼻で笑っていた。相手は隆の背後を取ったから勝ちだと思っている。

 (詰めの甘いやつだ)

 と隆も鼻で笑う。

 「よし分かった」

 言って隆はゆっくり立ち上がり、懐からディスクを取り出し。正面を向いた。

 女兵士は少し笑っていた。女兵士が隆からディスクへ注意を移した瞬間、即座に隆は相手の後ろに回り込み、銃を頭に突きつけた。

 「キャッ……」

 相手は何が起きたのか分からず、驚いて悲鳴をあげる。

 「銃をおろせ」

 隆は言った。しかし、女兵士は何も行動しようとしない。驚いているのか余裕なのか分からない。

 「早くしろ!」

 隆が苛立ちを積もらせると、女兵士は銃をゆっくり下ろす。単に驚いていただけだったようだ。少しホッとして、隆は女兵士が銃を下ろしたことを確認する。

 「手を挙げろ」

 と隆は次の指示を仰ぐ。女は支持に従い、両手を高く上げた。

 (これで一件落着だな)

 と思われた。しかし、奥から一人アサルトライフルを持った兵士が現れた。兵士はアサルトライフルの安全装置を外し、セーフティを解除する。

 「銃を下ろせ! さもなくばこいつの命はないぞ!」

 隆の脅しに兵士は動じない。隆はいぶかしげな顔をして、兵士を睨みつけた。

 ホールドアップ状態の女兵士は「クスッ」と笑った。

 「グルか、畜生」

 隆は武器を持つ兵士に銃を発砲する。相手は発砲すると想定していなかったのか、驚いて動けなくなった。

 「アアッ!」

 銃弾は腕に当たった。見苦しいまでに兵士は倒れてのたうち回っている。

 「貰ったぁ!」

 と女兵士は隆の腕つかみ、ひねった。

 「いてっ!」

 隆は骨でも折れてしまいそうな感覚を味わいながら叫んだ。その際にハンドガンが落ちた。束縛から解き放たれた女は、さっき床に置いた自分の銃を手にもっていた。距離も置かれて下手な行動はできない。

 「もう一度言うよ。ディスクを渡してもらえれば危害は加えません。速くそのディスクを渡してください」

 「てめえ、一体何者だ? ここの警備兵か?」

 「見て分からないのかな? そのディスクを狙ってる時点で警備兵じゃないってことくらい」

 その言葉を聞いた瞬間、隆はここの警備兵が居ないことに合点がてんがいく。

 こいつらが警備兵を一掃したのだ。データを奪うために。しかし、何らかの都合が悪く隆がここに来てしまた。警備兵だと思ったのだろう。

 「……調子に乗りやがって」

 と言ったところで、隆は不審な点にもう一つ気がついた。

 それは、目的が同じ人間に銃を向けているのかだ。目的が同じなら何も危害を加える必要が端からないのではないか? それに、放っておけばそれで済む話だ。

 「何故俺からディスクを奪う?」

 「何故って? そんなの言わなくても分かるよ。これを見ればね」

 言って、女兵士はひび割れたCDを隆の足元に投げた。

 その罅の入り方からして、何か強い衝撃を受けたものだと思われる。例えば、勢い良くCDを叩きつけたとか。

 「ほお。なるほどな」

 隆は顔を上げ、様子を探る。そこで飛び込んできたのは女兵士の軍服だった。無残にも破け、中に来ている白いシャツが見えているのだ。きっと激しい戦闘に巻き込まれたのだろう。

 「早く渡して」

 単調に女兵士は言う。

 「いいだろう。渡してやるよ」

 と隆はCDを高く投げた。すると、予想通り女兵士はCDをボールを追いかける犬のように目で追っていく。

 (しめた)

 隆は勢い良くその場から飛び出した。

 「敵から目を離すなよ!」

 女兵士は呆気にとられて飛び出してきた隆に驚いていた。そして、隆は女兵士のハンドガンを持つ手を掴んだ。その際に一発だけ女は発砲する。弾丸は何もない壁に当たった。

 敵の攻撃手段を奪った隆は、降ってくるCDをもう片方の手でキャッチする。

 「くっ、そんな!?」

 「俺を舐めるなよ」

 隆は言って、女兵士の細い腕を強く握った。

 「いたたたたた!」

 女兵士はすぐに隆の前にひざまずいて、ハンドガンを落とした。

 「これ以上危害は加えない。ディスクは諦めるんだな」

 と言って、隆は悠々ゆうゆうと女兵士の落としたハンドガンを手にとって、女に落とされたハンドガンも手にとった。その時、女兵士の持っているハンドガンが異常なほど軽く感じられた。

 「ん?」

 隆は不審に思って、女兵士の持っていた銃の残弾を確認してみる。


 “弾が込められていない”


 「なに……」

 隆は驚いた。この世で自分と同じ平和的解決法を駆使する人間がいると知り。


 高い場所から戦争をしている兵士たちの姿が見える。巨躯きょくの鉄の塊と兵器を使って殺戮さつりくを嬉々としている連中の姿が……。


 血と弾丸で塗りつぶされる街並みに彼らはなんとも思っていない。戦争など当たり前だと思っているのだ。

 隆は早くこの戦乱を終わらせたいと思った。


 その時、窓から外を眺める隆に女兵士がナイフを持って襲いかかってきているのが、窓にうっすらと見えた。

 隆は即座に振り返って、ナイフの軌道きどうを読む。

 まっすぐに突き出されるナイフ。彼女の持っていた銃弾無しハンドガンを捨て、隆は両手で持った自分の銃の銃身でナイフを受け止める。

 瞬間女の顔が隆の視界に写り込んだ。頬に切り傷を負って、顔は黒く汚れていた。

 「このやろう」

 女兵士と隆がいがみ合う。暴力は極力避けたいと隆は常に考えた。

 「ディスクは私達がもらうんだ!」

 と女兵士はナイフに全神経を注ぎ込んで隆を圧倒しようとする。しかし、隆はそれを狙って、相手のナイフからハンドガンを放す。

 「アッ」

 と女兵士は反動で体制を崩す。

 「少し外の空気を吸ったらどうだ!」

 と隆は女兵士の背中をつかみ、女兵士をガラスに突っ込ませた。ガラスの割れる音が切なく響く。

 「キャアアアァァァ!!」

 女兵士は外に投げ出された。ガラスが割れた窓からは勢い良く荒野の乾燥かんそうした風が入ってくる。


 その時、女兵士の動きは不可解にも空中で止まった。上では女兵士の足を隆が握っていた。案の定、女兵士は気絶していた。

 「フッ……」

 と隆は苦笑いして女兵士を中へ引き入れる。予想以上に女兵士は軽かったため、引き上げることに手間は掛からなかった。

 引き上げて仰向けに寝ている女兵士の顔を見て隆は、あの時、自分の手の中で横たわっていた空奈の顔と照らしあった。

 残弾がない銃を無気力に拾い上げる。

 「返してやるよ」

 と、女兵士にそれを投げた。銃は女兵士の手元に落ちた。

 「聞こえてねか」

 独り言を漏らし、隆は出口を目指す。すると、先ほど撃った兵士が腕の痛さにもだえながら必死に手を伸ばしている。その先にはアサルトライフルが転がっていた。

 隆はそのアサルトライフルを遠くに蹴る。途端とたん、兵士は諦観ていかんしたように腕を抑えわざとらしく悶え始めた。

 隆はロングコートからハンカチを取り出した。

 「拭けよ」

 と隆はハンカチを兵士に投げ渡す。ハンカチは慈悲じひ深く兵士の腕に落ちた。

 「きっとそのうち腕も元通りになるさ」

 と言って、隆はその場を後にした。

 だが、ある程度歩くと隆の足がピタリと止まる。そして再度確認するように二人の兵士が倒れている後方を振り返る。

 ジッと隆を見つめながらハンカチを手にしていた男の兵士は、隆の目を見るとハッとなってハンカチをその場においてまた悶え始めた。

 (ここは、重要な場所なんだよなぁ?)

 と考えたところで隆は再び足を動かした。消えた警備兵。血痕とか、遺体とかそういったものは全く見当たらない。

 結局、警備は敷かれていなかったのかもしれない。

 エレベータの前まで足を運ぶと、エレベーターの扉が勝手に開いた。奇々怪々な事象ではあったが、隆は気にすることなくエレベーターに乗り込んだ。




 風が静寂を運んでいた。

 その静寂を打ち砕くようにマガは憤怒ふんどしていた。

 「よくも、よくも俺の綺麗な顔に傷を作ってくれたなぁ!」

 マガは短気で自分勝手だ。顔が傷つくことは戦乱の世界ではよくある話。チンケなことで切れている方が馬鹿のように思える。

 「ぶっ殺してやる!!」

 キーキー叫んだ挙句あげく、マガはナイフの触手を縦横無尽に暴れさせた。放たれた触手はレンガ造りの建物の角を次々と切り落とし、無情にも壁を裂いた。

 突然、ピタリと動きが止まったと思えば、

 「この! よくも! 恥かかせやがったなぁ!!」

 とギャアギャア叫び、触手を修二の方へ飛ばしてくる。

 「人のせいかよ……」

 修二はマガに聞こえない程度の声で言った。

 目の前には意味不明な御託並べて殺そうとする男の子、悶えて寝てしまった美来。

 「どうすればいいんだ?」

 修二は周囲を見渡す。マガは修二を見下すように軽視し、満足そうにニヤリと笑った。

 そして、目の前の健全な肉体を肉片にしてやろうと触手を飛ばした。


 …………………。


 「ナンダ? テメエ……?」

 片言のようにマガはそう言って、触手を止めた。いきなり構えた修二に興味を示したのだ。

 「マガ。僕が相手だ」

 修二はナイフを手にする。マガは気に入らなそうにムッとして、触手ナイフを戻した。

 「アッハハハハハ! お前、僕と、戦うか? 面白い」

 マガの怒りは興奮へと変わる。

 「死ねやゴラアアァァ!!」

 マガが右手を突き出すと、四本の触手が一斉に襲いかかる。

 「な……?」

 一気に四本の触手が修二を襲う。避けきれない。

 「っ…………」

 体をくねらせて回避しようと思ったが、触手ナイフの一本が右腕をかすった。

 「くそっ、ダメだったか」

 「アッハハハハハハハ!!」

 マガは笑う。

 それはあの時森の中で訊いた美来の発狂した笑いと同じものに聞こえた。卑劣で残酷な笑いでもどこかに寂しさを感じる笑い。


 “彼等は”笑う。

 受け止めきれない多大な興奮の恩恵の下で……。


 「僕様が一番だ! 僕は強いんだ! 最強なんだ! アハハハハハハ!!」

 ガは優越感に浸っている。顔もいつの間にか嬉しそうに、得意げに笑っている。シュペリオリティーコンプレックス。

 マガは狂ったように笑い続けた。敗北者を嘲笑い、自分を慰める笑い。そして、修二を挑発するように、

 「まずは女から始末してやる! ハハハハハハ! 失う怖さを思い知るがいい!」

 修二にはとても聞き捨てならない言葉だった。マガにとってそれは諧謔的な言動に過ぎない。弱者をいたぶるのは彼にとって最上の喜び。

 修二は曲がりすぎたマガの精神に、一発ぶん殴ってやりたい気分を覚える。

 「やめろ!!」

 と修二は無意識に飛び出した。労働場からずっと一緒に苦楽を共にした美来を救うために。触手を伸ばすマガよりも早く。ナイフを拾う、走る、飛ぶ、滑り込む、攻撃する。

 労働場で初体験したはずの戦闘は、短期間でマガの触手を全て跳ね返すまでに成長していた。しかし、修二に成長の実感はない。戦闘は体が知っていたと言い切れる。

 「美来には……。指一本触れさせねえ!」

 修二は言っていた。

 そして、体が脳の反応を無視して構えた。

 (あれ? なんで動けるんだろう? なんで僕は戦闘に慣れているのだろう?)

 不思議だった。

 「ばっかじゃねえの? 横たわってる女は彼女か? どっちにしろ『どちらかが捨てる』のがオチだぜ」

 マガは嘲る。本当の馬鹿がいるとマガなりの諧謔かいぎゃくろうしていた。修二にとってマガの言動は害悪の他なにものでもない。

 修二はマガに刃先を向けた。子供にナイフを向ける主義ではないが、機械(人造人間)だと思えばすぐに向けられた。

 「“捨てはしない”」

 「へえ?」

 「……僕と彼女は“友達”だから」

 「と・も・だ・ちぃ? そいつはおもしれえや。だったら、僕に教えてくれよ、その友達ってやつをさあ! アッハハハハハハハ!!」

 マガは狂ったように笑って触手ナイフを四本とも修二へ飛ばす。

 呆気にとられたまま修二はナイフを構えた。

 “絶対に、美来を守る”

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