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新婚の王子が妹と同衾している場に出くわしました「構いません、続けなさい」

作者: はぢてる
掲載日:2026/09/24

短編です。

「お、お姉様…!」

「あ、アンネローゼ…これは……その……」


 王の寝室、扉を開け放すとベッドの上には生まれたままの姿でくんずほぐれつ嬌声を上げている、結婚したばかりの夫と我が愚妹。

 汗びっしょりで抱き合ったまま、仁王立ちしている私を真っ青な顔で見つめていた。


 嗚呼、そのベッドまだほとんど寝たことないのに。


 私はぼんやりと彼らを見つめ返しながら思った。

 激務上がりでひどい顔をしているため鬼の形相のように見えているのかもしれないが、正直こっちは疲れを通り越して頭がハイになっており思考は雲一つない青空のように澄み渡っているのだ。


 私は近くにあった書斎椅子を引き寄せるとそこに深々と座り込んだ。


「構いません、続けなさい」


*****


 いずれこういうことが起こるのではないかという予感は遥か前からあった。


 私の父であるリームヒルト公爵と国王との間に交わされた約束に基づき、幼い頃から許婚関係にあった私とヴァイクの関係は必ずしも円満なものとは言い難かった。


 何せ、ヴァイクがあまりに色ボケすぎる。

 気に入った娘を見つけるとメイドだろうが学院の下級生だろうがすぐに手を出そうとする。しかも無駄に顔は良かったり王太子の立場をちらつかせたりするので手籠めにされる女の多いこと多いこと。


 流石に目に余るし私からも父に相談してみたのだが「お互い親に決められた結婚で不満もあるのだろう。ある程度遊ぶことは許してやれ」と歯牙にもかけてもらえなかった。

 馬鹿親父め。


 だが流石に他国から遣わされた使者の息女にまで手を出そうとしたので強めに諌めたら「ならお前が代わりを努めろ」とか言ってきたので張り倒してやった。

 仮にも婚約者である相手に対して「代わりに抱かれろ」とは愚かしいにもほどがある。


*****


「多分、ヴァイク殿下はアンネローゼ様の気を引きたいのだと思いますよー」

「…理解に苦しみますね」


 王女となることを見据えた淑女教育は多岐にわたり、王都で最も人気を集める娼婦として知られるリアーヌから受ける性教育もその一環だった。


「イケメンに限ってそういう屈折した方、多いですよ?それにアンネローゼ様は隙のない完璧美人ですからね。自分の容姿も権威も通じない相手の気を引こうとするなら、後は嫉妬心くらいしか利用できるものはありませんから」


 リアーヌの授業は内容自体も唆られるものだったが、同時に彼女の特異な出自もあってか含蓄に富むものだった。


「つまりヴァイク殿下は私の気を引くために他の女性に手当たり次第声をかけている、と?だとすれば完全に逆効果です。嫉妬心どころか、今の私は殿下にドン引きしています」

「ですよねー。私のお客さんにも明らかに私目当てなのに私が拒否するので他の女の子ばかり抱くお馬鹿さんいましたけど、こちらとしては不誠実にしか映らないんですよ。その人、最終的に刺されましたけど」

 

 私は溜め息を吐いた。


「あれでも王太子なので刺されては困ります。何とか私の方で対処できる形に落ち着けることはできませんか?浮気は許すにしても病を貰ってきたり素性の明らかでない者と子供でも拵えられては一大事です」

「んー、聞いたところから察するにアンネローゼ様はもう王子に愛情など一片も抱いてないようですし…ならもう、ペットにするしかないのかなー」


*****


 妹のマリアベルがヴァイク殿下に気に入られたのは当然の流れといえるのかもしれない。


 幼い頃から甘え上手というか、愛らしさか弱々しさか曖昧な態度を振りまいて人の同情心を引くのを得意とする子だった。

 長身で成人と間違われることしばしばな私と違い、小柄で童顔な上にこの性格なので男性の庇護欲を刺激するらしい。父や実家に使える男性使用人連中もメロメロだった。

 いつか甘えが度を過ぎてしまうのではないかとは思っていた。


 私とヴァイクの在籍する学院に入学した頃から、彼女は度々偶然を装って彼と面識を深め、少しずつ距離を深めていた。


 ただ流石に婚約者の妹に手を出すのは憚られたのだろう、少なくとも主だってヴァイクがマリアベルに手を出したという話は耳にしなかった。

 マリアベルについても男子生徒から人気が高いと聞いていたので、いずれ他の男性と結ばれてくれればと期待していた。

 

 というか当時、副生徒会長としての執務に忙しかった私にはあの二人の動向にそこまで注意を払う余裕がなかった。

 生徒会長であるどこぞの王太子は女の尻をおいかけてばかりでロクに執務をこなさないし、私がそれなりに仕事を回せると分かると学院の生徒も教員も終いには経営陣までどんどん要求を積んでくる。


 ある日、ヴァイクとマリアベルと食事会で同席した際に二人の距離がやたら近いことに気づいた。


 あ、こいつらやったな。


 そう直感したものの、山積みになった書類を思い出すとすぐにそんなことは頭の片隅へ追いやられた。


*****


 学院を卒業して1年後に私とヴァイクは結婚することになったが、ヴァイクは相変わらず王太子の自覚があるのかないのか仕事をサボり遊び歩くし、マリアベルはマリアベルで何やら好き勝手やっていた。


 そしてその皺寄せは全て私に来ていた。


 当時は最早父でさえリームヒルト家の運営の大部分を私に担わせていたし、王家も既に私が嫁入りしたかのように政務に携わるよう求めてきた。


 結婚式?

 花嫁の準備あれこれに加えて招待客の選別から会場のセッティング、周辺各国への根回しまで「どうして私が自分でやらなきゃならんのか」と思うようなことまで全部やらされて感慨などカスほどもなかったわ。

 結婚後もしばらくは祝辞を送ってきた諸外国への返礼やら、今を好機と見出し裏で鍔迫り合いを始めた国内貴族の派閥調整やら、後始末でロクに睡眠を取る暇もなかった。


 そうしたことに取り敢えず一旦区切りが付き、初夜さえ潜ることの出来なかったベッドにようやく包まることができると思って寝室のドアを開けた直後。


 妹が夫の股間に跨りひぃひぃ言っているではないか。


*****


「何をしているの?続けなさいと言っているでしょう?」

「わ、悪かった、アンネローゼ…」

「お姉様、ご、ご、ごめんなさい…」


 二人はベッドの上で冷たい視線を送る私に向けて深く頭を垂れる。

 だが私には薄っぺらい謝罪などどうでも良かった。


「謝らなくていいですから。ほら、早く抱き合って最後までやることをやってしまいなさい」

「し、しかし…それでは不貞に…」

「今更何を言っているのですか」


 言い訳を聞くのも面倒になってヴァイクの言葉を途中で遮った。


「あなた達の貞操観念がガバガバなのはとっくに存じています。馬鹿につける薬などありません。今のあなた達にできるのは精一杯あられもない無様を晒して私を楽しませ、慈悲を縋ることだけです。さあ、乳繰り合いなさい」


 二人が私の正気を疑うような目を向けてくる。

 色狂いはそっちだろうに。

 いつまで経っても硬直したままなので、駄目押ししてやる。

 

「早く始めなければ衛兵を呼びますよ。そうすればこの結婚直後というタイミングです。ヴァイクの王太子という立場にも影響が出るでしょうね。私も庇い切れるか怪しいですし、マリアベルは王族を誑かした咎で処罰されるかもしれません」


 二人は既に青ざめていた顔をいよいよ蒼白にしてヴァイクの萎縮した股間を奮い立たせるべく行為に及ぶ準備を始めた。


*****


「ペット…ですか?」

「ええ、そういう男性はもう人として対等に見れませんから。ペット。ワンちゃんです」


 驚く私にリアーヌが人懐っこく、しかしどこか妖艶な笑みを浮かべて言った。


「女が男を鎖で繋ぐのには何も女性が股を開くだけが方法ではありません。先ほど、私が欲しいのに他の女の子ばかり抱いて刺されたお馬鹿さんの話はしましたね?その後、部屋に招いて私が他のお客さんと行為に及んでいるところを目の前で見せてあげたんです。彼、どうなったと思いますー?」


 まるで想像がつかない私が頭を振るとリアーヌは極上の菓子を食べた直後のように口を手で軽く覆い、その後ろでぺろりと唇を舐めた。


「壊れてしまいました。爵位を捨て、財産は全て私に貢ぎ、今は娼館で下男として働いています。気が向いてたまに着古したストッキングを与えてやると人目も気にせず、むせび泣いて喜びますよ」


 娼婦というと金のために春を売る、人によっては蔑む者も少なくない職業だ。

 しかし、私にはこの時のリアーヌがどんな王族よりも威風堂々としているように見えた。


「人の心というのはちょっとしたことで簡単に壊れます。然るべきタイミングと然るべき態度。それさえ踏まえていれば、殿下であろうと…いえ、殿下のような方だからこそ性癖を歪めるのは容易い。アンネローゼ様なら指一本触れさせることなく彼を籠絡できると思いますよ」


*****


 最初、私に見られながら行為を強いられることに動揺してぎこちなかったものの、すぐに盛り上がって腰を振り始めた。


 …いや、気の所為ではないだろう。


 二人、特にヴァイクの方は明らかにこちらを気にしながら、私が部屋に入ってくる前より興奮しているのがわかる。

 目の前で行われる痴態を見ながら、私はようやくアンネローゼの言っていた意味を理解した。



 ワインのボトルを手に取り、グラスに注いで飲み始める。


「滑稽ですね」


 昔、外国の特使が余興で見せてくれた子猿の踊りを思い出す。


 今後はどうしようか。

 いつかこうなることを予想してある程度根回しは済んでいる。既に国の実権はほとんど私が握っているようなものだ。子供ができたら私が後見人として面倒を見ても良い。

 

 私はベッドで交わる二人の心が手に絡め取られていくのを感じながら、いつまでもクリアな思考で未来に思いを馳せていた。

こういうのもっと書きたいです。

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