第7話:お隣
靴箱で靴を履き替えて自分の教室に入る。私の席は一番廊下側の一番前の席。荷物を置いてお弁当箱を机の横にぶら下げる。
(早く昼休みにならないかな…)
まだ朝のホームルームが始まってすらいないのに、手鏡を見ながらコンタクトを入れ、そんなことを考えている。
先輩の教室と私の教室は校舎が違う。今いる教室があるのは西棟で先輩の教室と部室があるのが東棟だ。西棟では1年生の通常クラスと2、3年生の文系が、東棟では1年生の特進クラスと2、3年生の理系が授業を受けている。
先輩の教室と私の教室が同じ棟なら休み時間の度に会いにいけるのに。棟が違うと10分の休み時間だと何もできない。
だんだんとクラスの人たちが登校してきて教室内が賑やかになってくる。私はいつもこの時間はやることがない。勉強でもすれば良いとは思うが朝はイマイチやる気がでない。そんなこんなしている間に先生が教室に入ってくる。ざわざわしていた教室が静かになって朝のホームルームが始まる。時間割変更の有無とか、普段と変わらない業務的な連絡をしてホームルームは終わる。
いつもはそうだった。だが今日は続きがある。席替えの結果発表をするらしい。そういえば昨日の帰りのホームルームでくじ引きをした。別に私はどこでも構わない。どこの席でも結局は授業を聞いて、休み時間は一人でのんびりするだけなのだから。黒板のスクリーンに結果が映し出される。自分の席を探すと、窓側の一番後ろだ。端から端への移動だから面倒だけど、決まったことだからしょうがない。荷物を全部持って新しい席へと向かった。席に座ると景色が全然違う。隣の席の人が声をかけてくる。
「相月さん。よろしくね。」
「あ…よろしくお願いします。」
誰だっけ。自己紹介は聞いていたはずなのに名前が全く思い出せない。名前がわからないとは言えないから、こっそり名札を見る。
山本さん、か。なんとなくだけど明るくて頭の良い印象がある。授業中先生に当てられても毎回正解している気がするし。授業の準備をしていると、また山本さんが話しかけてきた。
「相月さんって何か部活入ってるの?」
「え、私?天文同好会だよ。」
「天文同好会?星好きなの?」
「う、うん。あんまり詳しくはないけど。」
「私バスケ部なんだけど、私も星好きなんだ。ほんとは天文同好会も入りたかったんだけど、バスケ部は兼部禁止だから。」
「山本さん、バスケ部だったんだ。かっこいいね。」
「ありがと!てか相月さんのこと恵那って呼んでいい?私のことも結奈って呼んで良いからさ。せっかく隣の席になったし仲良くしようよ。」
私の下の名前覚えてる人、このクラスに居たんだ。入学してからの1週間とちょっと。クラスの人とはほとんど話していないから、てっきり忘れられてるもんだと思ってた。
「じゃあ結奈ちゃん、よろしくね。」
「うん!よろしくね、恵那。」
チャイムが鳴って授業が始まる。横を見ると結奈ちゃんは真剣な表情で授業を受けている。数学の授業は難しくてつまらない。私はぼんやりと窓の外を眺めていた。すると先生が結奈ちゃんのことを当てた。結奈ちゃんはすぐに答えを答えた。やっぱり明るいのも頭が良いのも印象通りだ。その後も、たまにメモを取っては窓の外を眺めるのを繰り返す。そうしている間に授業が終わった。今日はまだ4月半ばだというのに結構暖かい。なんなら少し暑いくらいだ。窓際の席でよく日が当たるから眠くなってくる。次は日本史の授業だ。日本史は結構好きだからいつもしっかり聞いている。
「恵那日本史好きなの?」
「え?まあ好きっちゃ好き。」
「やっぱり。さっきの数学の授業のときなんて授業始まっても教科書出してなかったのに、日本史はもう全部準備できてる。」
まるで名探偵のように私のことを見ている。若干の恐怖を覚えながらも日本史の授業を受けた。その次の国語の授業も終えていよいよお昼休みになる。私は立ち上がって先輩の教室に向かおうとした。
「恵那、一緒にお弁当食べようよ。」
「ごめん結奈ちゃん、今日先輩と食べる約束してるんだ。」
「そっか。じゃあ明日は一緒に食べようよ。」
「うん。明日は約束ね。」
そう言って先輩の教室へ弾む足取りで向かっていった。




