第4話:食卓
靴箱で靴を履き替えて駐輪場へ向かうと、もう先輩は待っていた。先輩は赤い少し古い自転車に跨っている。私も自分の自転車を取ってきて跨った。先輩に続いて走り出す。
「恵那ちゃん、私の連絡先いる?」
「え!良いんですか?」
「もちろん。写真とか共有したいし。」
そう言うと道の脇に止まってスマホを差し出してきた。
「アイコン、可愛いですね。」
「家で飼ってる猫なんだ〜。可愛いでしょ」
猫の写真を数枚送ってきた。どれも猫がきれいに写っている。伸びをしている写真に、窓際で陽の光を浴びながら気持ちよさそうに寝ている写真。どれも猫に対する愛情が伝わってくる。
「この子の名前、なんて子なんですか?」
「ぽんちゃん。」
「可愛い名前ですね。」
しばらく猫トークで盛り上がっていた。家族以外とこんなに話したのはいつぶりだろうか。ある程度話したところで再び自転車を漕ぎ出す。やがて私が左に曲がる交差点に差し掛かる。
「私、この交差点左に曲がるんで。」
「そっか〜私まだ真っ直ぐだからここでお別れだね。気をつけてね。今日はありがとう。」
「こちらこそありがとうございました。紗凪先輩もお気をつけて。」
手を振って走り出して行った。しばらく先輩の背中を見つめたあと、左に曲がって家に向かった。
「ただいま。」
「おかえり。星、どうだった?」
お母さんが優しく尋ねてくる。
「綺麗だったよ」
少しぶっきらぼうになってしまったかもしれない。お母さんは気にせず話しかけてくる。
「恵那が部活に入るなんてね。かっこいい先輩でもいたの?」
その一言が私に突き刺さる。かっこいい先輩ではなく綺麗で可愛い先輩だが、先輩に惚れて入ったのは間違いじゃない。
「私そんな面食いじゃないんだけど。」
「あら、そう?」
これ以上踏み込まれるといつボロが出るかわからない。私はお母さんを半ば強引に振り切るように部屋へ向かった。荷物をどさっと置いてベットにスマホを投げる。部屋着に着替えてご飯を食べにリビングへ向かう。階段の踊り場でシャワーを浴びたばかりであろう弟の優とすれ違う。
「姉ちゃん、遅かったじゃん。」
「部活。」
優は信じられないといった顔で私を見てくる。
「あの姉ちゃんが部活?なんの部活なの?彼氏でもできた?」
「そんなわけないじゃん。私恋愛とか興味ないし。」
リビングへ向かおうとした私の背中にさらに話しかけてくる。
「結局なんの部活なの?」
「天文同好会。」
リビングへと降りていくとテーブルの上にご飯とお味噌汁、唐揚げ、サラダが並べられていた。
「いただきます。」
先輩のことを考えながらご飯を食べていると、お母さんが私の向かいの席に座った。
「やっぱり好きな人でもできたんじゃないの?ずっと誰かのこと考えてる顔してるわよ。」
「別にそんな顔してないんだけど。」
「恵那は昔から顔に出ないタイプだからね〜。でも今は“誰か”のことを考えてる。そんな顔してるわよ。よっぽど好きか大切な人なのね。恵那が惚れるなんて相当でしょ。」
「だから紗凪先輩のことは……」
思わず口を手で覆う。やってしまった。私が紗凪先輩のことを好きなのは事実。でもその恋を誰かに言うつもりなんてなかった。初恋の先輩が女の人。お母さんはどう思うだろうか。
「えっと…紗凪先輩っていうのは、その、部活の先輩ではあるんだけど、えっと、あの…」
しどろもどろになってしまう。私の顔は今どうなっているのだろう。お母さんからはどう見えているのだろう。ちらっとお母さんの顔を見ると、何かを考えているような表情で私を黙って見ていた。
「恵那。」
「は、はい…」
これから何を言われるのか。私は怖くてお母さんの顔を見ることができなかった。




