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第2話:春の夜

私は職員室に入部届けを貰いに行った。入部したいなんて反射的に言ってしまったが大丈夫だろうか。職員室で担任の先生に入部届けを貰い、名前と部活名を記入する。

「天文同好会っと…」



入部届けを書き終え先生に提出すると足早に部室へ戻った。

「恵那ちゃんおかえり〜。正式に天文同好会の部員になったね。」

また無邪気な笑顔を見せてくる。

「今日はどんなことするんですか?」

私が尋ねると紗凪は自信満々な表情でパソコンの画面を見せてきた。そこには春の星座の天球図が映っている。

「今日は天気も良いから、恵那ちゃんに春の夜空を見てほしいな。もちろん、星が見える時間まで残れるならの話だけどね。」

「お母さんに聞いてみますね。」

携帯を取り出して母親にメッセージを送る。しばらくすると返信が来た。

『いいけど、帰りは気をつけてね』

『わかった。ありがとう』と返事をする。

「先輩、今日大丈夫そうです。」

紗凪は満足そうな表情を浮かべる。


「恵那ちゃんは星のことどのくらい知ってる?」

「誕生月の12星座くらいなら…」

「それだけわかってるなら十分だよ〜。他の星座にも、これから詳しくなっていこ?」

半分くらいしか話の内容が頭に入ってこない。紗凪にどんどん心を奪われるような感覚に襲われていた。よく見ると星や天体に関する本や、新聞記事をまとめたノートがいくつか開かれている。紗凪が私の方をじっと見ている。恥ずかしくなって顔を逸らしてしまった。

「……」

今の私はたぶん、いや絶対に耳が赤くなっている。わざわざ確認する必要もないくらい耳が熱い。心臓が飛び出しそうなくらい揺れている。心臓の音しか聞こえてこない。意識は完全にどこかへ飛んで行ってしまった。


「……ちゃん、恵那ちゃん」

紗凪の呼びかけではっと意識を取り戻す。

「大丈夫…?」

そう言いながら私の顔を至近距離で覗き込んでくる。私の芽生えたばかりの恋心はこの人には伝わっていない……はず。私が顔に全部出るタイプじゃなければ。なんとか気持ちを抑えて返事をするが、明らかに声は動揺していた。ちゃんと返事ができたかわからないが、彼女の反応を見る限りは大丈夫だろう。


「先輩…顔、近くないですか…?」


ずっと近くで見つめられるのがしんどくて、思わず正直に言ってしまった。言ったあとすぐにしまった、と思ったが紗凪は全く気にする様子がなく、なんなら少し距離を縮めてきた。

「恵那ちゃん、綺麗な目してるね。虹彩が茶色っぽくて。でも瞳孔は真っ黒。」

私はなにを言われたのか理解できなかった。褒められたことはわかったが、それが何を意味するのかがわからない。紗凪がようやく顔を離す。私の心臓は限界だった。

「恵那ちゃんの友達はなんの部活やってるの?」

私は困ってしまった。人見知りなせいで、入学式から一週間以上経った今でも友達と呼べる程親しい間柄の人はいない。紗凪が高校に入って初めてできた親しい人といっても過言ではない。言い淀む私を見て何かを察した紗凪は質問を変えた。


「恵那ちゃん、中学では部活やってた?」

「やってないです」

「そっか。じゃあ初めての部活で天文同好会選んでくれたんだ。ありがとね。」


私は読書はほとんどしない。でも今は恋愛小説を読んでいる気分だ。目の前にいる紗凪先輩に完全に落ちてしまった。多分、恋愛小説の中の女の子はこういう気持ちなんだろう。わからないけど。


その後も少しおしゃべりをしていると、少しずつ空が暗くなってくる。

「もうちょっとしたら屋上行こうか。」

その一言で私は一気に、自分がやったことの重大さを自覚した。このあと屋上で好きな人と二人っきりで星を見る。恋愛小説でもなかなかない速さでビッグイベントが訪れた。

「そうですね。」

私がそう言うと紗凪は部室の奥へ消えていった。

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