第10話:ご褒美
今日はなんだか一日があっという間だった。お昼ご飯を結奈ちゃんと一緒に食べたくらいで、それ以外にイベントはなかった。今日はもう部活に行って先輩と一緒に帰るだけだ。スキップしながら部室のドアを開けた。
「先輩〜!ってあれ?先輩まだ来てないんだ。」
どうやら私の方が早く着いたらしい。部室の端の方に荷物を置いて椅子に座った。暇なので、日本史の単語帳を見て待つ。
5分ほど経っただろう。部室のドアが開いて先輩が入ってきた。
「あれ、恵那ちゃん早いね。勉強してたの?えらいね〜」
そう言いながら私の頭を撫でてくる。
「やめてくださいよ、子供じゃないんですから…」
照れ隠しで思わず悪態をついてしまったが、ものすごく嬉しい。5分勉強しただけで、こんなご褒美が待っていたとは。隙間時間は活用するべきだな。
「勉強、教えて欲しいんだっけ?」
「はい。数学が全然わからなくて…中間テストもあるので早めに勉強しておこうと思って。」
「1年生はこの時期なにやってるの?」
「数と式のところです。」
「あ〜あそこか〜。問題集とか持ってる?」
「はい。」
しばらく先輩に教えてもらった。私がぼんやりとしか授業を聞いていないのもあるが、すごくわかりやすい。私でもすごく理解ができた。普段の授業も先輩にやってほしいくらいだ。その後、先輩が何問か問題を出してくれたが、全問正解できた。
「すごいね〜!全部合ってるよ!」
「ありがとうございます。先輩の教え方が上手だったので。」
普段は褒められても恥ずかしくなってなんだか居心地が悪くなるが、先輩に褒められるとものすごく嬉しかった。
「先輩…一個お願い良いですか…?」
「ん?どうしたの?」
恥ずかしくて若干俯いた私の顔を覗き込むように聞いてくる。
「その…えっと……先輩がさっき部室に入ってきたときみたいに、あ、頭なでてほしいです…」
恥ずかしくて顔が真っ赤になりながら、最後の方は消えそうな声でお願いした。
先輩は笑顔で私の頭を撫でてくれた。
「頑張ったね〜。えらいよ〜。」
撫でられている間、心臓がずっとドキドキして、今にも口から飛び出そうな程だった。物で溢れた狭い部室で、好きな人と二人っきり。しかも頭を撫でてもらった。あの瞬間を超える幸せは今後私の人生であるのだろうか。
余韻に浸っているうちに、だいぶ陽が傾いてきた。もう少しすれば一番星が見えてくるだろう。今日は少し雲があるが、星が全く見えないほどではない。先輩が星を見る準備をし始めた。どうやら望遠鏡を取り出すようだ。
「恵那ちゃん、ちょっとそこのダンボールよけるの手伝ってくれる?」
「はい。すぐ行きます。」
私はそう言って歩き出した瞬間、椅子に足をひっかけて転倒しかけた。
「恵那ちゃんっ!」
先輩が間一髪のところで抱きとめてくれて助かった。
「危なかった〜…怪我ない?大丈夫?」
「はい…大丈夫です。」
自分が怪我をしたかどうかよりももっと重大な問題がある。抱きとめられた瞬間、制服越しではあるが、顔が先輩のお腹に当たった。少し硬くて、引き締まった身体だというのが伝わってきた。
(先輩のお腹…)
いつまでもお腹に意識を向けるわけにはいかない。どこか自分を律するように先輩の方を見た。
「先輩こそ、私のこと受け止めたとき大丈夫でした?」
「私は大丈夫だよ。恵那ちゃんが無事なら良かった。」
私も体重には気をつけているが、あまり自信はない。
「重くなかったですか…?」
「軽かったよ。」
本当に軽いのか、私を傷つけないようにそう言ったのかはわからないが、軽いと言われたらとりあえず嬉しい。
一個ダンボールをよけて、その奥のダンボールから望遠鏡を取り出した。
「じゃーん。天体望遠鏡で〜す。」
先輩は自慢げに望遠鏡を撫でながら担いでいる。
「すごいですね。こんな立派な望遠鏡。」
「でしょでしょ〜。これ、めちゃくちゃ綺麗に見えるんだよ。」
「楽しみです。」
二人で屋上へ上がっていった。




