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魔王の憂鬱

作者: ロータスシード
掲載日:2025/12/21

暗い玉座の上。

魔王バラ〇スは、深く腰を沈めたまま、長い吐息をこぼしていた。


「なぜ、我がフトコロは冷えるのだ?」


声は広間に虚しく反響する。

よく見れば、魔王のフクはヨレヨレの上にボロボロだった。

袖は擦り切れ、マントの裏地はほつれ、冠の宝石も二つほど失われている。

それだけではない。玉座の間は広いだけで中身がなく、壁の装飾は過去の栄光を語る抜け殻にすぎなかった。


「無駄は抑えた。部下も削った。

それなのに……なぜ、残らぬ」


怒りよりも、疲労が勝っていた。

数字が減る夢を、何度見ただろう。

動いても、削っても、なぜか手元には残らない。


扉が開いたのは、その時だった。


空気が、はっきりと変わる。


大魔王ゾー〇が、音もなく玉座の間に入ってきた。

派手な装いはない。

だが、纏っているものは一切傷んでおらず、無理も焦りも、欠片ほども感じられない。


「相変わらず、顔に余裕がないな」


「……ゾー〇様」


バラ〇スは跳ねるように立ち上がり、深く頭を下げた。


「座れ」


一言だった。

逆らう意思は、最初から存在しなかった。


「なぜ貧しいか、分からぬ顔だ」


「恐れながら……努力はしております。

支出も抑え、戦も控え、地道に……」


「地道、か」


ゾー〇は鼻で笑った。


「お前は、地面だけを掘って、空を見ていない」


「……と、申しますと?」


大魔王は玉座の段に足をかけ、低い位置から魔王を見上ろした。

その視線は裁くものではない。

ただ、測っていた。


「まず、世界の決まりを使え」


「決まり……」


「この世には、最初から敷かれている流れがある。

誰が作ったわけでもない。

だが、逆らえば必ず重くなる」


床の欠けた敷石を、ゾー〇は一瞥する。


「流れに身を置く者は、削られずに進む。

逆らう者は、進むほど肉を削る」


沈黙。


「次だ」


ゾー〇は指を二本立てた。


「力の半分は、世界そのものに預けろ」


「……半分」


「抱え込むな。

一か所に賭けるな。

一瞬に望むな」


淡々と、逃げ場なく言い切る。


「広く、薄く、長く。

それが、世界の呼吸に合わせるということだ」


「欲を捨てよ、ということですか」


「違う」


即座に否定が返る。


「欲張るな」


「すべてを握ろうとする者は、

何も受け取れぬ」


三本目の指が立つ。


「残り半分は、嵐のために残せ」


バラ〇スの喉が鳴った。


「嵐は必ず来る。

罰でも、不運でもない。

巡りだ」


「では……いつ」


「探すな」


声が、わずかに低くなる。


「嵐は、血と涙が流れる夜に来る。

皆が恐れ、憎み、手放す時だ」


ゾー〇は断定した。


「その夜にだけ、拾え」


「無理に奪うな。

無用に争うな」


「流れてきたものを、

静かに受け取れ」


長い沈黙が落ちた。


「……それが」


バラ〇スは、かすれた声で言う。


「『絶望をすすり、憎しみを食らい、

悲しみの涙でフトコロをうるおす』

ということなのですか」


ゾー〇は、ほんの一瞬だけ視線を向けた。


「絶望の時に、啜りに行け。

憎しみを抱えきれず、手放した場所を受け取れ。

悲しみの涙が流れたあとで、

静かに満たせ」


「お前が泣くな、バラ〇ス」


呼び捨てが、深く刺さる。


「泣くのは、備えなかった者たちだ。

お前は、器を差し出す側に回れ」


ゾー〇は踵を返した。


「覚えておけ」


振り返らずに続ける。


「世界は優しくない。

だが、同じ形で残酷だ」


扉が閉まる。


玉座の間に残された魔王は、しばらく動けなかった。

理解したとは言えない。

恐怖も、迷いも、まだ消えない。


それでも。


「……そうか」


呟いた声は、小さかったが、確かだった。


これまでの自分は、

動き続けなければ負けると思っていた。

削り続けなければ、生き残れないと信じていた。


だが今は、違う。


待つという行為にも、技がある。

使わぬという選択にも、力が宿る。


拳を握り、そして、ゆっくりと開く。


世界は変わらない。

明日も優しくはならない。

だが――

同じ形で残酷であるなら、使いようがある。


その夜、魔王城に嵐は来なかった。

血も、涙も、流れなかった。


それでいい、と。

バラ〇スは初めて、そう思えた。


夜は必ず来る。

来るべき時にだけ、来る。


その時まで、

魔王は黙って、器を磨き続けることにした。

マントはボロボロだが、野望の燃える目はきらきら輝いていた。

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― 新着の感想 ―
 闇雲に節制し過ぎて、有事や窮地への備え蓄えのための投資すら躊躇うのも考えもの……なんでしょうか。思慮の未熟な私では、理解しきれてない部分が多いかもしれませぬ。  某rpgのキャラのようでいて、伏せ丸…
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