表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来で神様は猫を被った。  作者: 色採鳥 奇麗
始まりの章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/17

それでも生者は進んでく

 ーー*片桐茶待*ーー


 あの慌ただしい奇跡のような日から数日。

 翔楼の唯一の肉親である祖母、送際(そうぎわ)日和(ひより)さんの願いもあって、俺と楓は翔楼の葬式に出席した。

 親戚も友人も少なかった翔楼の最後を、少しでも多くの人に見送って欲しかったのだろう。

 (あん)(じょう)、両手で(かぞ)えられる程度の人数しか、葬式には現れなかった。

 まぁ翔楼自身、病気であることを隠していたわけだし、翔楼を知っている奴らも、アイツが死んじまったなんて事実は()(よし)もない。

 そうして葬式は(とどこお)りなく終わり、俺たちは日常へと戻った。

 まさか一年に、二度も友人を見送る羽目になるとは…。

 いや…あの日を入れれば三度か…。

 人生…本当になにが起こるかわかったもんじゃないな…。


「じゃあね。茶待」


 向日葵に会いに来ていた楓は、そう言うと荷物を手にして立ち上がった。

 

「送ってくよ」


「いいよ、そんなに時間かからないし」


「そうか?なら気をつけて帰れよ」


「うん」


 ガチャリと、扉の奥に楓が消えた瞬間、隣にいた向日葵がわざとらしく溜息をついた。


「ハァ…」


「なんだよ…」


「イエ…ナンデモ…。ハァァァァァアアアアア!」


 誰がどう見たって、言いたいことがある様子。

 と言っても少し前から、楓がいなくなると、向日葵はずっとこんな感じだ。

 痺れを切らした俺は、しかめ面を作って尋ねた。


「だからなんだよ。言いたいことがあるならハッキリ言えって」

 

「ハァ…。ジャアコノ際ダカラ聞キマスガ、オ前ハ楓トノ関係ヲ、進展サセルツモリハアルノデスカ?」


「…………」


「楓ハオ前ガ思ッテイルヨリ、鈍感ナ娘デハアリマセンヨ」


「わかってるよ…」


 あの日、俺がみんなを欺いていた理由が楓のためだと露呈して、彼女にどんな気持ちを抱いているかは、おおよそバレていることだろう。

 それでも普段通りを装って、俺は楓に接している。

 この関係を壊したくないというのもあるが、本音を言うと、俺がビビって前に踏み出せずにいるだけだ。

 

「ハァァァァァァアアアアアア!」


「だからその溜息やめろって…」


 向日葵は大げさな息を吐き終えるや、ギラリと鋭い真剣な眼差しを俺に向けた。


「イイデスカ?オ前モ楓モスッカリ忘レテイル様デスガ、オ前タチハ大学生、本来ナラバ就活ニ(イソ)シンデイル時期デショウ」


「やけに詳しいな」


「未来カラ聞イテイマシタノデ。彼女ハ、就活トイウザバイバルカラ逃レルコトガデキテ、トテモ安堵シテイマシタ…。ソレヨリモ、コノ意味ガワカッテイルノデスカ?」


「どういうことだよ」


「コウシテ楓ガ会イニ来テクレル時間ガ、ナクナッテシマウトイウコトデス」


「それも…わかってるよ」


 俺は力なく相づちを打った。


「ケッ…。ナンダ、タダノ意気地(イクジ)ナシデシタカ」


 返す言葉も見つからず、俺は現実から逃げるように床に寝転がった。

 心ではわかっていても、この関係を変える勇気はない。

 俺はガタイが良いだけの、ただのチキン野郎なんだよ。

 

「コノオ(チャ)()ガアアアア!」


 突然、鼓膜を叩くような大声量に、俺は驚いて飛びあがった。


「うわビックリした!なんなんだよ急に!ってか小童(こわっぱ)が!みたいに言うな!」


「オ黙リナサイ!オ前ハ未来ト翔楼カラ、何モ学バナカッタノデスカ!?」


 今は亡き友人たちの名を出され、俺は言葉に詰まった。


「人生ハ何ガ起コレカワカラナイ。ダカラコソ彼女タチハ、理想ノ結末ニ辿リ着コウト懸命ニ生キ続ケタ。オ前ト、ソンナ彼女タチノ違イガワカリマスカ?…ソレハ、進ミ続ケタコトデスヨ」


 そんなこと、言われなくてもわかってる。誰よりも近くで見てきたんだから。

 俺と違ってアイツらには行動力があった。間違っても、(つまづ)いても、へこたれずに進み続ける不屈の精神を持っていた。

 対して俺は、裏方で姑息に動いていただけで、本人に直接、思いを伝える勇気も持ち合わせていない。

 それに俺はもう、ひとつの選択とその結果で満足しちまっているんだ。

 こういうところが、俺とアイツらとの差なんだろうな。

  

「オ前モヨク考エナサイ。人生ハ、オ前ガ思ッテイル以上ニ、アットイウ間ナノデスカラ」


 ガミガミと不貞腐れ、言いたいことだけ言い終えると、向日葵は顔を床につけてスヤスヤと(くつろ)ぎ始めた。

 さすが、想像を絶する時間を生きているだけあって、俺なんかとは言葉の重みが段違いだ。説得力しかない言葉に、ただただ耳が痛い。

 

 人生はあっという間…。その通りだと思う。

 実際、翔楼と日野ッチ、そして楓との楽しかった大学生活は、すでに終盤に差し掛かっている。

 思い返してみると、馬翔楼(ばかける)に振り回され、日野ッチに振り回され、いろいろ忙しない日々でもあったよな。

 まぁ、その日々の中であれこれ画策して、掻き回した俺が言うのもなんだが、それでもみんなと過ごした日々は本当に楽しかったんだ。

 

「人生はあっという間か……」


 改めて口にした言葉が、痛いほど胸に突き刺さる。

 翔楼もそれがわかっていたから、日野ッチのために、大きな決断を迷いなくできたのかもしれない。

 人生は何が起こるかわからない、だからこそ、行動を起こすのは早いに越したことはない。

 俺もその一歩を、踏み出さなきゃいけないときが来たのかもしれない。

 

「オヤ?何処カ出カケルノデスカ?」


 玄関に向かい、靴に手をかけたところで、向日葵が背後から声をかけてきた。


「ああ、ちょっとコンビニにな」


「ソウデスカ。デシタラ氷菓(ヒョウカ)ヲ所望シマス」


「あいよ。月見饅頭でいいのか?」


「ハイ、季節限定ノ『サツマイモバター』デオ願イシマス」


 注文が多いいな(うち)の猫は…。

 やれやれ…。


「ヤレヤレ…」


 俺の心の声と、向日葵の小さな嘆息がハモったところで、俺は呆れたように向日葵を見る。

 こっちの言葉(セリフ)だっつの…。

 靴を履き終え、玄関のドアノブに手をかける。

 

「じゃあ、行ってくる」


 そう言って扉を抜け、俺は歩き出した。

 その歩幅は徐々に大きく、一歩を踏み出すごとに、速く軽快な足取りを無意識に作っていた。

 (はや)る気持ちがそうさせたのか、あるいはそれは覚悟の現れだったのかもしれない。

 気づけば俺は、向かうべき場所へと疾走していた。


 人生。

 多くの人は、それを選択肢のある無数に枝分かれした一方通行の道だと言うが、俺はこう考える。

 俺たちは、見えない薄氷の上に立っているのだと。

 ある者は俺のように、いつ崩れるかわからない不安定な薄氷の足場を、安全を見極めながら慎重に進んでいく。

 危険(リスク)(かえり)みずに、全力で走り抜けていく者もいだろう。

 丈夫な足場に辿り着いたなら、足を休めるのもいい。

 だけど人の温もりで、薄氷は少しずつ溶けてしまうんだ。

 それが二人なら尚のこと、その上、重みでヒビ割れてしまうかもしれない。外的要因で薄氷が沈んでしまう可能性だってある。

 だから、ずっとは立ち止まっていられない。

 いつかは覚悟を決めて、歩き出さなきゃいけないんだ。

 ある時は蹴落としあい、ある時は譲り、ある時は共に進む。

 そんな予測不能の人生を、俺たちはこれからも送っていくんだ。


 右へ左へ、駆け抜けた道の先で彼女を見つけた。


「楓!」


「茶待?」


 楓は振り返って、俺とのスピーディーな再会に驚いた。


「どうしたの?そんなに慌てて…」


 その呆気にとられたような表情に、俺の心臓は爆発する勢いで鼓動で鼓動を始めた。

 いざ覚悟を決めたと言っても、予行演習はナシ、ぶっつけ本番。

 さらに本人を前にして、ハードルが一気に高くなったように感じた。

 大丈夫だ…落ち着け…。

 俺は決意を胸に、楓の顔を見つめる。


 二人の友人から人生の難しさを学んだ。

 平等に不平等な理不尽の中で、(おの)が願いを叶えんと、懸命に足掻く命の尊さを。

 あの満足な結末に、俺もたどり着きたい。

 そのためには進むしかないんだ。

 だから俺も──、


「楓、俺…楓のことが!」


 俺もそんな先達者たちを見習って、なけなしの勇気を振り絞ってみようと思う。

 転んでもいいだ。


 そうなっても、きっとそれは──


   ──大きな一歩になるはずだから…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ