光をまとう少女
朝の鐘が鳴り響くと同時に、町は目を覚ました。
石畳を踏む人々の足音、屋台から漂う香ばしいパンの匂い、
井戸で水を汲み上げる桶の音――それらが重なり合い、活気を奏でていた。
空は雲ひとつない青。
陽射しが屋根瓦を柔らかく照らし、影をくっきりと落としている。
その光の中を駆け回る人々の間で、ひときわ目を引く存在があった。
ルミナ。
栗色の髪を結い上げ、瞳を輝かせながら市場の通りを駆け抜ける少女。
彼女の周りだけ空気が澄み渡ったように感じられた。
「はい、持ってあげる!」
小さな子どもが抱えきれずに困っていた麻袋を、ルミナはひょいと肩に担ぎ上げた。
袋の中身は小麦粉で、子どもの体重に迫るほどの重さだ。
それでもルミナは軽々と持ち上げ、子どもは目を丸くする。
「ほんと、力持ちだねえ」
「まるで男の子みたいだ」
周囲の大人たちが笑いながら茶化すと、ルミナは口を尖らせて胸を張った。
「女の子だって強いんだよ!」
その言葉に子どもたちはぱっと笑顔になり、彼女の後を楽しげに追いかける。
市場にいた人々もつられて微笑んだ。
パン屋の親父が店先から声をかける。
「おいルミナ、また子守りか? うちの店番もやってくれりゃ助かるんだがな」
「それじゃパンを食べ尽くしちゃうかもよ!」
彼女が笑うと、親父は肩をすくめて苦笑する。
周囲もまた笑いに包まれ、通りの空気が一段と和んだ。
市場を抜け、井戸端に立ち寄る。
桶を抱えていた老女が重そうにしているのを見るや、ルミナは駆け寄った。
「私がやります!」
両手で必死に持ち上げていた桶を、ルミナは片手で軽々と運ぶ。
「まぁ、ありがとねぇ」
老女が手を合わせると、その場にいた人々も自然と頬を緩めた。
さらに歩を進めると、教会の前では子どもたちが集まって聖歌を練習していた。
音程もリズムもばらばらで、まとまりがない。
「もっと大きな声で!」とルミナが輪に飛び込むと、子どもたちの声は一斉に弾けるように大きくなる。
シスターが窓から顔を出し、眉をひそめて「静かに」と諭す。
けれど結局、彼女自身も頬を緩めて笑ってしまった。
昼近く、町外れの畑では農夫たちが汗を流していた。
ルミナは背負い籠を抱えた農夫に駆け寄り、
「私が持つ!」とひょいと担ぐと、そのまま畑の中を走り回る。
「おい待て! そっちはまだ刈ってない!」
慌てる声もどこ吹く風。子どもたちもつられて走り出し、畑は笑い声で満ちていった。
午後、川辺に集まった子どもたちとルミナは裸足で水を蹴り上げ、
互いに飛沫を浴びせて歓声をあげた。
びしょ濡れになった子どもを抱き上げるルミナの笑顔は、
きらめく水しぶきよりも明るく輝いていた。
――町のどこにいても、彼女がいれば空気が変わる。
市場では笑いを、井戸端では安堵を、教会では元気を、畑では明るさを、川辺では自由を。
まるで光そのものが駆け回っているかのようだった。
ふと立ち止まり、ルミナは空を見上げた。
白い雲がのんびりと流れていく。
「町の外には、もっと大きな世界があるんだろうな……」
夢見るように呟いたその声は、風にさらわれて消えていった。
次の瞬間には子どもに呼ばれ、ルミナはまた笑顔で駆け出していく。
その背中は、町の人々の瞳に焼き付いていた。
まるで、この町を照らす灯火そのもののように――。
物語を彩る主人公のひとり、ルミナが登場します。17歳の可憐な少女。強さと可愛らしさを併せ持つ彼女の生き生きとした活躍を、ぜひ見届けてください