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旗と影
はるかなるときの彼方――
この国の大地に、一つの旗と、一つの影があった。
旗の名を背負わされたのは少女。
群衆の歓声と憎悪の狭間に立ち、
英雄と称えられ、逆旗〈さかばた〉と罵られ、
ついには炎に呑まれた。
影のように寄り添ったのは少年。
人々はその姿を見ても名を呼ばず、
彼の本当の名を知る者はいなかった。
ただひっそりと、少女の歩みの傍らに在り続けた。
だが――
歓声のあとに訪れた静けさの中で、
少女は確かに声を残した。
炎の底で、最期の瞬きに紡いだ名。
その声は群衆に届かず、
歴史にも記されなかった。
けれど確かに、彼を影ではなく「ひとりの人」として照らすための呼び声だった。
運命に翻弄された少女と、
その影に寄り添った少年の物語。
旗印と影、忘却と記憶。
歓声のあとに残された静けさの中で、
なお語り継がれるべき物語である。