基地襲撃 4
手の空いている人員のほとんどが非戦闘部署の人間の様で皆が不安げな顔色をしていた。
「あー、僕らの基地からもさっきの海上の巨躯のために道路封鎖や陸地での戦闘に向かった機甲部隊もいただろうし、そりゃ人いないか」
出発前に点呼が取られたのちハクマたちは基地を出て大桜山へと向かって走り出す。
車道は通行が規制されているのか、大桜山に向かう一般車も大桜山から出ていく一般車もない。
途中で大桜山へと向かう戦車隊を追い越し車両の進行方向に大桜山が見えてきた。
「大桜山の通信を拾いました、……回線が乱れているようです」
「スピーカーで流せ」
車内にノイズの多い通信音声が流れる。
『アンノウンはどれもスケール4と断定! 次の攻撃を行う前に何とかしてくれ』
『……くそ、中のやつは知らされているのか知らないが間違いなく死ぬだろうな……。人としての理性が切れて暴れ出したら大惨事だ、動かせる護国獣を大桜山の都市防衛に回せ! スケール1は基地に引き続けろ』
『新たに出現した、敵性護国獣を頭の発光器官からビームを放つ飛行型を輪天暴羅、長距離爆撃砲型を妖閃禍呑、眷属増殖型を赤雲種墨と呼称する』
『護祈たちの最優先はエネルギー反射能力を持った影刃青輝の撃破。都市と基地の防衛機構の装備でスケール1の掃討、防衛隊は応援の護国獣が到着するまでアンノウンの気を引き続けろ!』
『国は周辺諸国への護国獣の応援の打診を検討』
『非常時とはいえ判断が早計過ぎる、護祈を信じられないのか。他国に借りなんか作ったら……今すぐ辞めさせろ、あれが本当にスケール4なら使用しているアースライトが消費されたら消える。応援が来ることには巨躯は消え、応援に来たという借りだけが残るぞ。最も同盟国の中にこの事件を起こしたやつがいるなら速やかな支援の用意があるとか言いそうだがな』
何処かと通信を行うオペレーターの声の中にリウガンの声が混じる。
「なんか空暗いね、日没って感じじゃないけど」
車両が道を外れたのか車内が揺れ始めカヅキが装甲車の小さな窓から外を見た。
空は青空でも夕空でも夜空でもなく、深緑色に変色しうっすらと輝いている身妙な色をしていて空気が振動するような不思議な音が響き始める。
「うわ、気持ち悪い空。ん、まだ巨躯の姿は見えないけど土煙みたいなのとビームか何かの明滅が見える」
空に絡んだロープのような長細い体が浮かんでいるのが見えた。
深緑色の空に浮かび鯉登のように空を泳ぐ黄金色に瞬くそれは、背中に浮かぶ二重円光のような背光から器官から無作為に光弾を放ち始める。
『輪天暴羅が行動を開始! 大桜山に向かっています』
『基地防衛機構、損耗15%! 障壁の一部に穴が、付近の機甲部隊に応戦に向かわせてください!』
『現場に重聖射光が到着、戦線に参加。飛行型と長射程型の対処に向かいます』
『前線を留めていた夢龍聖懐、護盾蒼鱗、正龍爆拳、ともに後退。護蒼豪腕、蒼甲震拳前に出ます』
『航空部隊は引き続き影刃青輝を追え、湾曲され攻撃が当たらなくても都市から引きはがせていればそれでいい』
混乱する通信に耳を傾けているとふいに音もなく車両が大きく揺れる。
シートベルトを着けていなければ吹き飛ばされるような強い揺れに車内に悲鳴が響く。
気が付けば前方に傾いたまま車両が停車し、その横を別の装甲車が走り抜けていく。
「ここからは走れ! 基地まで二キロ、まっすぐ正面だ! 行け! 行け!」
後方の扉が開かれ運転席の方に乗っていた階級の高い誰かに、ヘルメットと防弾ベストを渡され急かされながらハクマたちは車両から降りる。
光弾が落ちた後なのか地面に大きなひび割れがあり、装甲車の車輪が脱輪していた。
気持ちの悪い空を眺めることも許されず割れた地面、遠くで聞こえる建物より高く上がる土埃が見えた後に聞こえてくる花火のような骨に響く重たい音、横をすり抜けていく装甲車に気を付けながら走りだすハクマたち。
「僕の運転ならあんな溝に落ちないのに」
付近に通信で言われていたスケール1の姿の姿は見えなかったが、空からどこかから巻き上がった土が石や金属片を伴って落ちてくる。
親指程から拳、頭と同じくらいの石が容赦なく降り注ぎ落石で標識や周囲の建物の壁に穴が開く。
「頭を守れ! 石が落ちてきてるぞ!」
基地に近づいてくるとその近くに黒と紫の雲のようなものが見える。
赤く点滅する薄紫色の雪の結晶のようなものが地面を統べるように転がりハクマたちの方へと向かってきた。
「なんか僕らの方に向かってくるんだけど!」
雪の結晶はハクマたちの横を通り過ぎていった装甲車の方へと向きを変える。
空から落ちてくる石や岩でアンテナが壊れているのか速やかに基地に向かおうとしていて周囲の警戒がおろそかになっているのか、転がりながら迫る結晶体に気が付かず側面から接触。
車体は悲鳴のような軋みを立てながら裂かれる。
走行中の車内から放り出された兵士たちは盛れる燃料から距離を取ってちりじりに逃げだす。
結晶はその場に停止し向きを変えそんな兵士の背後へと向かって行き、間一髪のところで追いついてきた戦車部隊の砲撃を受けて雪の結晶のようなものが砕けて光となって消えた。




