輝き 5
「というと?」
「纏っている空気が。何というか兵士というか戦う人って感じじゃなくて、普段普通に暮らしている人が必要な時に戦うみたいな」
「ヒーロみたいじゃん」
「でも自発的じゃないというか、それも仕事だからというか」
「まぁ、保護された孤児が洗脳教育受けて戦わされているからだよね。護国獣として期待されて引き取られたんだから追い出されるかもしれない恐怖があるし。無理に復帰させられるレイサちゃんは少し見てて気の毒になるけど。でも護祈は50人くらいしかいないし、島国とはいえそんな人数で守るには休みなんてそうそう取れないよ」
「新たな護祈は用意しないらしいしな」
「そうなの、今の護祈が引退とかでどうすんの」
「代わりの護国獣がいるらしい」
戦いから帰ってくると途中だった仕事や食事の準備などが始まり宿舎は慌ただしい。
ハクマたちはまだ配属して日が浅いこともあり、通路などの簡単な場所の掃除のみ。
カヅキのポケットから通知音が鳴りデバイスを確認する。
「あ、ユウスイからだ。……自室の資料をまとめてこっちに送ってほしいって。ルツキと一緒に大桜山の研究所に残って。リストがすごいなぁ荷物多そうだなぁ、ハクマ君手伝って」
「わかりました」
掃除をしているハクマたちを老隊長が呼ぶ。
「お二方もこちらに、防衛隊本部から奪われた変換器についての新たな情報です」
「わかりました」
部屋にはサポートチーム全員が集められているようでありすぐにハクマたちも整列の最後尾に加わった。
レイサの姿はなく部屋の中を人見氏あらかた集まったことを確認すると老隊長は話し出す。
「影刃青輝の変換機の位置がわかりました。地下ばかり移動するには無理があったようで移動のため地上に出てきたのでしょう。アースライトを奪って行った襲撃者は41番都市梨電か42番都市空天山とのこと。上は気を引くための陽動としていますが、エネルギーの塊であるアースライトを放ってはおけないためか大規模な捜索隊を送って包囲網を作るようです。ひとまず共有する情報は以上です、では仕事に戻ってください」
すぐに解散し戦闘後ということもあり半数は部屋のとどまり体を休めている。
ハクマとカヅキもコーヒーを汲んで空いている席に座った。
「だいぶ南の方ですね」
「だね、だいぶ逃げたね。もう僕らが相手はしなさそう」
「俺のせいで奪われたから俺が取り返したかった」
「人が護国獣と戦う気なの? 正気?」
「いやそうじゃなくて待ち伏せして変身前とか、倒した後逃げる襲撃者をとか」
「そういうことね。へぇ、ルツキちゃんのためにそこまで、なんか感心しちゃうなぁ」
「そういう事じゃないんですけど」
「まぁまぁ」
レイサの体調不良が治らず暇になったハクマたちは隊長の許可を得て頼まれていたユウスイの荷物の回収に向かう。
階段を上がり懐かしい空気にカヅキが鼻歌を歌いメイド服のスカートをなびかす。
「この服にもなんかなれたね」
「そういえばその姿のまま乗り物に乗るんですよね? 運転や操縦の時はどうしてるんですか?」
「もちろんたくし上げて、落ちてこないように束ねて」
大部屋の隅にあった金庫から予備の鍵を集めた鍵束を取り出しユウスイの部屋の前まで向かう。
「僕が荷物まとめるからハクマ君は玄関まで運んでね、車は後日借りて僕が届けに行く。さてさて、始める前にユウスイに連絡でも入れるかなぁ。正直何がどれなのかわからないし」
「俺も探しますよ」
通路の奥には電子ロックのついた硝子戸の先にルツキの部屋。
部屋を開けると窓を隠す本棚のせいで薄暗く、足元にも大量の雑誌と通販の空箱が散らばっている。
「だいぶ……散らかってますね。足の踏み場も……」
「僕の部屋もここまでじゃないけど散らかってはいるよ、この場所は暮らして長いからね。メノウとルツキちゃんくらいじゃない整理整頓ができる人なんて。食べ物のごみはないから変な臭いはしないね」
床に散らばる雑誌をかき分けて足場を作りながら部屋に入った。
部屋の奥へと踏み出そうとすると慌ててユウスイと連絡をつなげたカヅキがハクマを部屋の外に押し出す。
「あ、ちょっと待って。ユウスイも女の子で人間の三大欲求はある、ちょっと片付けないとまずいから。ハクマ君は部屋の外で待ってて。知らん人にタンスやベットの下を捜索されたくないでしょ、片づけてないならなおさら」
「え、ああ」
カヅキがその辺の空いた箱に指示されたものを詰め込んで部屋の外にいるハクマに渡す。
「本当に巨躯の資料ばかりなんですね。ユウスイさんが巨躯以外の話をしているのをあまり聞いたことがないけど。ここまですればさすがに」
「でしょ、たまにの休暇でもあまり部屋から出ないし。ユウスイはルツキちゃんが負けないように色々調べてる。ルツキちゃんもユウスイを信じてるから恐れずに巨躯に飛び込んでいくんだと思うよ」
「夢龍聖懐、正龍爆拳、重聖射光、護国獣もあるんですね。こっちは蛇茨腐液、脈晶砕地、幽鱗凍光、……幻歌響迷。最近のも昔のもいますね本当にたくさん、これだけの巨躯が」
「一応、許可なく見たら処罰の対象になるって言っておくよ。機密情報だから。だから僕もうっかりその資料を読まないように気を付けて集めてるんだから」
栞や付箋が張られた雑誌や書類の束、それとシールの張られたデータの入ったケース。
ハクマは受け取った箱を玄関の方へと運び戻ってくると次の箱が部屋の前に置いてあり同じようにそれを運ぶ。




