輝き 2
目を覚ましたハクマは聴取を受け、襲撃者が知り合いだったことなどを話す。
軽傷ではあるものの腹の傷のせいで傷口が開かないよう安静を命じられ起き上がることままならずゆっくりと時間が過ぎていく。
メノウが時折様子を見に来るものの、それ以外はハクマ一人で病室は静まり返りダンベルなどを腹筋を使わない箇所のトレーニングを行っていた。
「安静にしてなさいと言われていないの?」
窓の外を見ながらトレーニングをしていると声がかけられ、そこにはコートを羽織ったルツキが病室の入り口に立っている。
「ルツキさんか、怪我は大丈夫なのか?」
ルツキは病室に入るとユウスイが残していった紙パックのごみを片付けて椅子に座った。
「隊長に挨拶しに来たついでに寄ったの。巨躯との戦いでの私の傷は数日で癒えたわ、そういう体ですから。あなたの傷の方が重症でしょ。心配で見に来たら体動かしてるし」
「腹に傷があるだけで他は動かせるから、その部分の筋トレでもと。何もすることがないんで。それにもうだいぶ傷周りの再生が進んで、様子を見てですけどもうすぐ縫合カ所の取り外しするらしいです。最近の医療はすごいですね」
彼女は一度窓の外の大桜山を見てからハクマを見る。
「まぁ、メノウが止めないのならいいけど。私はもう行くわね、ここには隊長に挨拶するために立ち寄っただけだから。私を守って変換機を取り戻そうとしてくれてありがとう」
「取り戻せはしませんでしたけどね。俺のせいで騒ぎが大きくなったみたいで」
「ユウスイみたいなことを言うのね。変換機を取り戻してもハクマ君が死んでしまったら意味がない、生きていることが大事なの。アースライトの変換機があればまた私は戦えるわ、皆には私が巨躯と戦っているところを見ていてほしい」
部屋の外に彼女の護衛と迎えが来ており、それに気が付いたルツキは病室を後にしてまた室内は静かになった。
その後、ハクマの入院中に大桜山基地が近くにあるということで、また看護師の服を着た護祈のアマネや移動のために立ち寄ったラショウとそのサポートチームでハクマと面識のある大男や双子たちが見舞いに来て少し話して帰っていく。
「今の護祈のカララショウさんだよね。ぞろぞろと、病院なのに」
「俺がルツキさんに手をかけようとして処分を受けた時少しお世話になった人たちだ。呼び戻されるときお別れを言えなかったから、大きな怪我をしたと聞いていたから無事でよかった」
ユウスイが病院を去る一団の後姿を見ながら入れ違いに大きなリュックをもって病室に入ってくる。
「ああ、外国のスパイのやつか。へぇ、目は通したけどあの怪我で、義手義足は言われても見分けがつかないな。……なんか、すごいお香の香りが強いなこの部屋。くしゃみ出そう」
「今日は何の用できたんだ」
「用がなきゃ来ちゃダメなの? まぁ用があるから来たんだけどさ、隊長が少し動けるようになったから呼び出しを受けて防衛隊の本部へと向かった。だから通信用に端末を渡しに来た。多分近いうちにあんたも退院だから、次の配置場所が決まると思う。私もしばらく別の護祈のもとで働く、ルツキと一緒にいられるのはメノウだけみたい」
「不服そうですね。過去に現れた巨躯の知識は他でも活躍するでしょう」
「指揮官か護祈が同じく巨躯に詳しくないと意味ないけどね」
「ここにいる間すごく平和でしたけど、巨躯は現れているんですよね?」
「うん? ああ、また外国でスケール4が出た、現在も討伐作戦中。国内ではスケール3が4体、スケール2以下が12体出てる。ここは内地だから、幻歌響迷みたいに地下から現れない限りは襲われない。今出てくるとしたら襲撃者の影刃青輝とかか」
「俺も逃がしたくて襲撃者を逃がしたんじゃないんです。知り合いだった、止めようとして話し合いはしたけど、そういうつもりはなかった。聴取でも……」
「裏切ったとか内通者だとかは思ってないよ。私たち全員、巨躯の恐ろしさを知っているし、それぞれ身元の情報は都市の権限を使って私が集めてる。そんなことしそうなやつが入隊しようものなら、泳がせて時が来たら一網打尽にしてたよ」
「そう、ですよね」
「巨躯のニュースは短い。変な不安を与えたりしないように、変に興味を持って近寄ってこないように。ネットの情報も統制されている。知ろうとしなければ巨躯なんて人生で数回、生で見れるか見れないか程度。最近は異常出現しているけどね。んじゃ、荷物渡したし、私もいなくなるから、またルツキが戦えるようになったら合うかもね」
リュックをハクマに渡してユウスイもいなくなる。
さらに数日が立つとハクマは傷が治ったとされ退院した。
すぐに隊長であるレオから端末に連絡が入りハクマは定員の準備の手を止めて通話に出る。
『ハクマ、退院おめでとう。早速だが変換機を失いルツキはしばらく大桜山の基地にいることになり巨躯と戦うことはないだろう。そのためハクマは別の護祈のもとへといってもらう』
「ラショウさんですか?」
『いいや、この間話の出た護国獣龍装烈輝、護祈のシモハナ・レイサの護衛についてもらう。彼女もルツキ同様にサポートチームの人数が少ない護祈で人手が必要になったということだ。迎えはカヅキに任せてある、準備ができたら連絡してくれ』
「わかりました」
退院したハクマはすぐに車両に乗せられて基地へと戻される。
見慣れた基地のまた別の建物。
ルツキのいた車両格納庫近くの倉庫の上の建物ではなく、基地の兵舎の近くにある建物。
自主トレの基地内のランニングで見かけはしたものの、司令部後ろ訪れるのは初めての場所に護祈レイサのクラス建物があった。




