大破壊 5
台所に立ちやかんでお湯を沸かすリウガン。
棚からお茶請けを用意しルツキに差し出す。
ルツキはハクマの怪我の具合を見てため息をつく。
「ルツキはどうやってここまできたんだ?」
「カヅキに頼んで車を出してもらった。空は隊長に止められたわ」
「空飛んでたら普通に移動が発覚して戻るよう言われるだろうからな。静かに来るなら車か一番か。ずいぶんと焦っていたようだな」
「おじいさまが彼を連れ去ったからでしょ、焦ったんだから。どこにもいないってなって、ユウスイに探させていたらお姉さまからハクマ君が血だらけになってるって聞いて、なんかの実験に巻き込まれたのかと」
「俺はそんな非道な人間じゃねぇぞ」
「こんな怪我させておいて言う?」
「さて、なら連れて帰るけどいいわよね、おじい様?」
「ああ、もうこっちの用事はおわった。お前の心配事もこれでなくなるだろう?」
「何の話? 私、彼を痛めつけてなんて頼んでいないけど、ボケたの?」
差し出された茶菓子を食べながら茶を待つルツキ。
のんびりとお茶を待っているとルツキ以外の護祈たちが帰ってきて、だんだんと人が増え始める。
「ルツキちゃんに会うの久々っすね、ラショウから話は聞いてたけどあってみたら普通の人だね彼。がっかりっすよ」
「ルツキちゃん一筋で生きてきた人……」
「その言い方は語弊がないクテンお姉さま? そういわれるとすごく恥ずかしいのだけど、一応は命を狙ってきたんだから、ね?」
護祈たちの分の茶を出し新たに茶菓子を用意し始めた。
「存在しない扱いとなってる、スケール4の幻歌響迷の影響でな」
ハクマに護祈たちの視線が行くがリウガンが口をはさむ。
「そんなの気の持ちようっすよ。根性で耐えることができなかった軟弱者っす、私たちの妹ルツキちゃんを狙うやつはどいつもこいつも。しっかりと精神修行を行っていれば」
「彼は……あ、愛の力で目を覚まさせ……」
「クテンお姉さま、また少しメルヘンな思考になりました? それとあの巨躯は倒してなお影響を振りまく、巨躯の中でも異質な存在。アースライトの力が物質的なもの以外にも変換できるとわかった初めての事例でもあります」
「立ち入り禁止区域の設定がやたら高範囲なのはそのスケール4のせい?」
「普通に巨躯の戦闘で飛び散る瓦礫や光弾の散布距離だと思うけど」
「クテンお姉さまの攻撃は特に長距離使用ですからね」
「存在しないって、いたことは確かだし。変な話っすよね」
「み、見るだけで精神に干渉されるとわかれば。お、応用して他国は恐れない勇ましい戦士を作ろうと兵士の育成に使うだろうし、都市企業だって不平不満を言わないマシーンみたいな従業員育成にするだろうし……」
「闘争心を失わされれば争いのない平和な国にならないかしらね?」
「文明の発展は様々な欲と競争心と奇抜な発想だし、みんなが譲り合い思い合う世界になったら衰退していくんじゃないっすかね?」
「おいしいものが食べたい、良い暮らしがしたいとか、あれこれが欲しいみたいな原動力は必要。ルツキちゃんにもそういうのあるでしょ?」
「う~ん、ない? わね?」
話を敷いていて少し難しい顔をしたリウガンが低い声で話に割り込む。
「ルツキも幻歌響迷の影響を受けているぞ。もっとも彼女は巨躯を倒すということに執着している。防衛隊の本部は巨躯に闘争心が向くだけなら放置としているが、俺としても他の姉妹たち同様に欲しいものを買ってほしいんだが」
「欲しいものは買ったわ」
「確かに他の姉妹より大きな買い物だったし維持費も大きいが……そういうのじゃなくてな」
リウガンは指先で額を叩いており、護祈達も苦笑いを浮かべハクマはルツキに小声で訊ねた。
「どうしてみんな渋い顔をしているんですか? ルツキさん、一体何を買ったんだ?」
「戦闘で破壊した街の跡地よ、公園にしたの。私の初戦闘にして多くの犠牲者を出してしまった」
「式典とか最近したか?」
「ええ、あの公園よ。私が買ったの、少しして防衛隊に取られちゃったけど」
ルツキの発言に指先で額を叩き更に頭を抱えるリウガン。
「放棄された土地だから安くはあるが買った後にも土地は維持費がかかるからな、それに他の姉妹らが同じこと始めテーマパークとか作りだしそうだったからな。上と相談した、というかあの頃は護祈が買うものにあまり制限がなかったのがおかしかった」
「基本、小物か家電製品くらいっすからね。高級品の」
「だんだんエスカレートしてた気がする……宝石とかブランド物とか」
「クテンお姉さまの首から下げているものと、耳に着けているものとか。そのドレスとか」
「そろそろ帰れ、他はともかくルツキは職務を放棄してここにいるんだからな。大問題だろ」
その日のうちに解散となりルツキとハクマはカヅキの運転で基地へと帰る。
「ラショウお姉さまに、おじい様、ハクマ君はあちこち連れまわされて大変ね。全部後からいろいろ連絡が来て私は知るのだけど」
「俺も何も聞かされてないんですけどね」




