大破壊 4
しばらくして外で待っている護祈たちの入室を許可した。
赤い扉を開けてアマネとクテンが入ってきて部屋を見渡す、そこで鼻と口から血を流すハクマを見つけ顔を青ざめさせる。
「なにしてんすか! 爺さん!」
「あ、あわわ、すごい血……」
入ってきた二人が声を上げてハクマのそばに駆け寄った。
「あんた、義体なんだから殴ったら死ぬんすよ。生きてるんすかこいつ!」
「息はある、意識はない」
「連絡、誰かに連絡!!」
「お、お医者さん」
バタバタとし二人は人を呼びに部屋を出ていく。
人の気配が無くなるとリウガンがハクマに話しかける。
「まぁ逃げていくわな、狭い世界しか知らない彼女らが自分以外の血を見る機会なんてないだろうし。すごいパニックだったな」
「怪我人とどっちか一人は残したほうがいいと思うんだけど。これで本当に他の護祈とのしがらみもなくなるのか?」
話ながらハクマの枷を解く。
体を起こしハクマは雪崩たちを袖で拭う。
「ああ、代表として俺が殴った。護祈たちはその情報を共有しお前がルツキにしたことを許すだろう。ダメなら言ってくれ俺が説得する」
「よく知ってるよ、人に危害を加えそれでいて重い罰もなくひょうひょうとしている奴に対する思いは、自分が一番な」
「さて仲直りに酒でも飲むか? 俺の自室に移動してもらうことになるが」
「傷に染みるから遠慮しておきます、とりあえず救急箱か何かありませんか? 血を止めたいんですけど」
「ああ、そうだったな。多分あの荷物の山のどこかにはあったと思うんだが、さっきの片づけで見なかったか?」
護祈たちが連れてきたその辺の研究員が持ってきてくれた救急箱で傷の治療をすませハクマはリウガンの自室へと移動する。
彼の部屋は住み込みで働いているのか同じ建物内にあり生活用品であふれかえっていた。
「汚い場所だが、まぁ座れ茶を入れる。飲むペースより送られてくる方が多くて消費が間に合わん」
「この部屋の隅の段ボール箱も貰い物なんですか?」
自室にも多くの荷物が積み上げられていてそこから統一性のない様々なものが見える。
「ああ、何かあれば送ってくる。送ってくるでなくさっきいたクテンみたいな何かしら理由をつけてやってくるやつが何人もいる。まぁ好きで怪我をしているわけではないし、巨躯との戦いで名誉の負傷だから無下にはせんが俺にも仕事がある」
「慕われているんですね」
「一応は彼女らの親代わりだからな、アースライトの変換器から護国獣の基礎を作り巨躯に被害で親を失った子らを国が拾って俺に押し付けた。どの子も皆非常に手のかかる子だったよ。この体が擬態じゃなかったら持たなかった」
「さっきの護祈の人たち二人は帰ったのか?」
「さあな。二人でどこかに行ったんだろう、またここに戻ってくる。二人とも現在負傷中で戦闘には出られない状態だからな」
「ルツキさんもよく怪我はするけど、それほどの大怪我なのか?」
「あいつは怪我の直りが特別早い。本人を返した護国獣の能力ではあるが、その分戦線復帰も早く他の誰より後に護祈になったのに、今じゃ心の傷と使命感で他の護祈より巨躯の討伐数が多く、多くの戦場に立つことになった。いま彼女が性能はさておき練度という意味ではどの護国獣より強い」
「ラショウさんのところでサポートチームが本来ならもっと大勢だと知りました」
「大半はストレス緩和のためのメンタリストやまっさじしのようなものたちだな。誰も好き好んでアースライトの精神汚染と不気味な巨躯との孤独な戦闘で負傷はしたくないからな」
「ところでおpこらせてしまうかもしれないんですけど、一つ聞きたいことがあるんですが」
「なんだ、聞け」
「護国獣がもし暴れ出したらどうするんですか?」
「護国獣の強度はスケールは2で固定されている。能力的にはスケール3くらいに達するものもいるが、防御面は防衛隊の戦車や攻撃ヘリでダメージを与えられる。それで倒す、倒しても死ぬわけではないから防衛隊にも容赦なく攻撃するようなっている。今までになかったことはないからな、国内では二度ほど汚染乗っ取り型と規制乗っ取り型に護国獣の主導権を奪われた。その時のトラウマで一人護祈が戦えなくなった」
「新たに護祈を増やしたりはしないんですか?」
「口外禁止な情報だがいいだろう。育成に時間がかかり、思うような強さが出せないことから護国獣の無人運用が予定されている。アースライトの供給を外部から行うことでそれが立たれ次第自動消滅するタイプだ、あれは……ほぼ巨躯といっていい存在だろう。巨躯の持つアースライトのエネルギーを求めて戦う護国獣、アースライトが供給される限り死なない怪物。作っているの責任者は俺だ」
「そうなんですか」
「彼女らに戦いを必要としない普通の生活を送らせてやりたい。もしそうなったら……生活水準を落とさせるのに苦労しそうだがな」
どれほど時間がたったのかリウガンと話をしていると扉が乱暴に開かれる。
血相を変えたルツキが飛び込んできた。
「おじい様! いったい何を、ハクマくんをどこかに連れ去ったのはおじいさまでそれも、暴力事件だなんて……彼は無事なんですか」
「ああ、そこで茶をしばいている。それより、お前自分の持ち場から離れて何している」
「さっき、さっき? 連絡があってハクマ君がぼこぼこにされたって、血だらけだったって、私のせいだって」
「落ち着けそこに座って待て、今茶を入れる」
息を切らせており咳き込むルツキは促されるまま席に着く。
隣に座りハクマの顔を見る。
「……思ったより平気そうじゃない」
「ずっと血が流れ続けているわけじゃないからいつかは止まる、殴られて血が出たのは本当ですけどね」




