憎しみの標的 3
負傷したハクマを病院へと送り宿舎へと帰還するルツキとメノウ。
ルツキは体力の消耗によりメノウに支えながら階段を上がる。
「すごく血が出ていたけど……」
「大丈夫、弾はどれもかすっただけよ~。弾はその場で取れたし内臓にはダメージが入っていなとおもうわ。そんな顔しなくても、彼は死にはしないわよ~。傷口を縫ってシール張っておけば大丈夫」
「メノウがそういうのならそうだろうけど、あの時私が前に出てペンダントで守って上げられれば」
「それは危ないからダメよ~、あなた一人分の防御しかできないんだし~。ルツキちゃん」
ティルトローターは帰還しており先に戻っていたカヅキとレオがルツキの顔を見て安堵の息を漏らす。
土埃で汚れたルツキの白い服をはたきにやってきた。
「おかえり、埃まみれじゃん。びっくりしちゃったね、砲撃。ユウスイはあれ狙撃銃って言うんだけど」
「怪我はないか?」
「私は無事よ、戦闘後に走って少し気分が悪いけど休めば治ると思うわ。あれ、ユウスイは?」
部屋を見渡しユウスイがいないことをルツキが訪ねる。
「トイレ、帰ってくるまでずっと心配してここで待ってたから。緊張が解けて走っていったよ」
「怪我したそうだがハクマは元気そうだったか?」
「ええ、砲撃から身を守ってくれてその反対から撃たれたわ。銃には詳しくないからわからないけど一度にいっぱい弾が出るやつ、散弾を撃つやつよ」
「そのまんまだね散弾銃」
メノウがルツキの姿を見て肩を叩く。
「だいぶ汚れちゃったからお風呂入って着替えてきなさい、お湯は張ってあるから~。あとで部屋に行くわねぇ、ばたばたしたけど戦闘後の検査するから」
「ええ、わかったわ」
「体は大丈夫? ふらつくとか気分が悪いとかなら私が補助するけど~」
「大丈夫、少しぼーっとするけど体はしっかり動くわ。一人で大丈夫」
大部屋を出て電子ロックで常に施錠されている硝子戸を開けて、その先にあるルツキは自室へと戻った。
私服の入ったクローゼットにいくつかの本棚、ベットのそばにある机には書類と小物そして他の護祈との一緒に撮った写真がいくつも飾られている。
護祈に用意される部屋は宿舎と独立して寝室、風呂、トイレがあり、趣味用の私室と検査やセラピー用の部屋がある。
汚れた衣服を脱ぎ風呂場へと向かう。
「ふぅ」
水が湯に代わるまでの間ルツキは鏡で増えた痣を指でなぞる。
「痛みは感じなかったけど、電撃を受けた個所が腫れてるわね……」
埃で傷んだ髪を洗っていると風呂場の外から声が響いてきた。
「おかえりルツキ。襲撃を受けて生きた心地がしなかったよ。隊長が怪我した時以来だね」
「ただいまユウスイ。また勝手に私の部屋にいるとメノウに怒られるわよ?」
「怪我は?」
「巨躯との戦いで足をぶつけたくらい、電撃は……みみずばれになってるわね痛くはないんだけど……。ああ襲撃での傷ないわよ、ハクマ君に守ってもらった……背後に勝手に隠れただけだけど。すごく血が出て。私怖いって感じて咄嗟に」
体を洗い花びらの浮かぶ温泉のもとの入った白く濁った湯船につかる。
「いいよ。ルツキが無事なら。私たちは護祈を守るためにいるんだから、致命傷じゃないんでしょ? 治療受けたら帰ってくるよ」
「大きな怪我じゃないらしくてほっとしたわ。すぐ帰ってくると聞いたんだけどどのくらいで戻ってくるのかしら?」
「さぁ、大怪我じゃないんなら一週間くらいじゃない? 今は医療もだいぶ進んでサイバネティクス手術とかじゃなければ入院なんて滅多なことじゃしないんだし」
「そうなのね。大きな怪我なんてしたことないから。戻って来て早々怪我でいなくなってしまったわね」
「捕まえた襲撃者はやっぱり8年前の関係者みたい、まだ取り調べはしてなくて顔照合で分かったことだけど。残念ながら他の襲撃者二人逃げられちゃったけど。というか、ほんと前時代の武器の流通が多い……今までも銃器はあったけど、スマートポインタ……こんな大物まで。いったいどこで買えるんだよこんなの」
肩に張り付いた花びらを湯船に浮かべていると風呂場の外の声が増える。
「いないと思ったらここにいたのユウスイ~。隊長が待ってるわよ~」
「そういえば、そうだった。んじゃ戻る」
「ルツキちゃん、マッサージの準備しておくからぁ、お風呂から出たら体軽く拭いてこっちに。時間がかかるからゆっくり入ってていいわよぉ」
「ええ、そうするわ」
しばらくして風呂を上がりルツキは滴る水滴を拭きとりメノウの待つ診察部屋へと戻る。
配膳用ワゴンに乗って持ち運ばれたいくつものマッサージ用のオイルなどの入ったボトルとホットストーンやスチーム用の道具が並ぶ。
湿気に弱い機械類は片付けられメノウはいくつもある機器のセッティングを行っており、ルツキが来たことに気が付くとベットに横になるように促す。
「部屋を暖めて置いたけど寒くはないかしらぁ?」
「大丈夫」
「今日は大変だったわねぇ。あんなに走ったのなんて何年ぶりかしら。過激な人たちは大方捕まったとはいえまだ何人かいるのねぇ。とはいえ隊長が怪我をした時が最後だと思っていたけど、ハクマ君みたいにずっとあなたを狙っている人はまだいるわねぇ」
「ええ、私はそれだけのことをしてしまった」
「あなたはただ、守りたかっただけなのにね」




