闇の底 5
ティルトローターは瓦礫だらけの町中に降り立つ。
戦闘が終わりハクマとメノウがティルトローターを降りてルツキを迎えに走る。
膝をつくルツキに駆け寄りハクマが声をかけた。
「大丈夫か?」
「頭が痛いし疲れたわ……帰りましょう」
ユウスイが音が割れるぐらい大きな金切り声で通信をおくる。
『カヅキ! バリア張ってすぐにその場から離れて、ハクマ、メノウ、すぐルツキを連れて建物の中に!』
ユウスイの指示に従いティルトローターが急上昇するとその下を何かが通り過ぎ地面が爆発する。
「巨躯の攻撃が残ってたのか!?」
「逃げるのよ、ルツキちゃんを連れてぇ!」
動けないルツキを抱えハクマがメノウの後に続いて近くの建物の影に隠れ、ティルトローターは空へと上がるとその場を旋回し始めた。
「なんだ?」
「あまり強く揺らさないで、きついわ……」
ティルトローターに高速で何かがぶつかりバリアが瞬く。
「攻撃されてるのか」
『ごめんいったんこの場から離れる、ルツキちゃんの事よろしく。とりあえ……ザザッ……ザーーーー』
突然ノイズが入りティルトローターとの通信ができなくなる。
そのままプロペラ音が遠ざかりメノウが顔色の良くないルツキの体調を気にする。
「ルツキちゃん動ける? ハクマ君とりあえずここから逃げるわよぉ。ほら担いで」
何かを知っている風を見せるメノウに言われるがままハクマはルツキを抱きかかえ町の中を歩く。
早足で歩くメノウを追いかけ崩れた壁から屋内へと入った。
「なんです、まだ巨躯が残っていたんですか?」
「巨躯よりたちが悪いかもねぇ、足元悪いからルツキちゃんを汚させないように気を付けて進んで~」
先を進むメノウは道路を避けているようで、わざわざ足場の悪い崩れた建物の中を進む。
先ほどの戦闘で損傷し建物がどこかで崩れる音がし遠くで土煙が上がった。
「道路に出たほうがいいんじゃないですか? こんないつ崩れるかわからない建物の中を進むなんて」
「開けたところに出るのは防衛隊がこの町に入ってきてからかしらねぇ」
逃げ込んだ建物は小さなスーパーのようでかび臭く、淀んだ空気で満たされた薄暗い屋内には空の商品棚が並んでいる。
巨躯同士の戦闘の地面の揺れで天井が落ち壁には大きなひびが入っていた。
「ここも崩れそうですね、ガラスに気を付けて進んでください」
「倒壊しそうな建物が多いうちは救助は来なさそうね~。とりあえずもう少し離れたら説明するわねぇ。ルツキちゃんも休ませないといけないし」
先ほどの広場から少しでも離れようとメノウは建物の中を通って別の建物へと移動する。
放置された手入れのされていない古い建物が並ぶ街。
先ほどの戦闘でガラスの類はほとんど割れており窓やガラス戸の入り口からは自由に出入りでき、メノウはどんどん先へと進んでいく。
「急ぐんですね?」
「そうねぇ、あんまりおんなじ場所にはいられないからねぇ」
抱えられているルツキは時折呻くだけで自分で動く様子はない。
何処かで連鎖的に建物が崩れる音が聞こえて地面が大きく揺れる。
「ルツキちゃんは狙われているのよ~、命を。知っての通り8年前の戦いで30名あまりの死者を出した。怪我人を含めれば被害者は200名ほど、本人やその家族からルツキちゃんは恨まれてる」
「ああ……」
ハクマはその先の言葉に思い当たることがあり口をつぐむ。
「高望みさえしなければ平和に生きられる時代で、唐突に未来を奪われたからね~。義手義足が馴染まず人生を棒に振った人もいるの。皆が幸せに生きていく中で約束された未来を奪われ歪んだ人間。護祈はほら贅沢が許されているから。ハクマ君みたいにね、復讐、ルツキの命を狙う人間がいるのよぉ……」
バリバリと割れて砕けたガラスを踏んで進む。
何かの事務所、複合ビルの小さな敷地内で枝分かれする通路、飲食店の厨房らしき場所とどんどんメノウに続いて進んでいくと一度立ち止まり休憩をとる。
壁に空いた穴に近寄ると遠くでティルトローターのプロペラ音が響いていた。
「突発的に現れる巨躯、どこにどの護祈が割り振られるかわからないけど。今までに立ち入り禁止区域に入ったとしてすでに20名くらいは捕まえているんじゃなかったかしらねぇ。もちろん何人かは刃物や工具のようなものをもって現れる。けど今回は……ユウスイちゃんの分析がないとわからないけどぉ、旧時代の武器」
メノウがデバイスで連絡をとろうとするがノイズが入るばかりで向こうの声は一向に聞こえない。
「ユウスイちゃーん、聞こえないのぉ~……だめねぇ、電波妨害。少し移動したら範囲から抜け出せると思ったのだけど。あ、ハクマ君一度ルツキちゃんを降ろして、体調を調べるからぁ」
「わかりました」
ガラスの散らばっていない場所にルツキを寝かせるとメノウは彼女のそばによりいくつか質問をし始める。
「ハクマ君一応あんまり窓の方には近寄らないでいてねぇ」
「はい」
繋がらないデバイスが時折何かを音を拾いそうになりスピーカー状態にして床に置く。
防衛隊が救出に来ないか、デバイスが何か言わないか耳を澄ませ待っているとそれはいきなり来た。
『ザザザッザ、ガガッ、すぐに通信を切って! 発信源をたどって狙ってる!』
突然つながらなかったデバイスが大きな声を発する。
と同時に床に置いていたデバイスに高速で何かが当たり粉々に砕け散った。
ハクマとメノウが驚いていると遅れて壁が崩れさらにゴゴンと遅れて重たい音が響く。




