過去に捕らわれる 1
「一人か」
特に話ながら仕事していたわけではないが共に穴を埋めていた大男が居なくなったことに寂しさを感じるハクマ。
ひざ下まで伸びる雑草をかき分け丘を越え海まで続いている脈動緑鱗の開けた地面の穴を見る。
「だいぶ深い穴だな」
巨体が這いずったために大きく地面が抉れ、復旧のためにアースライトの力で作られた道路は抉れた地面を渡す橋になっている。
自身の周りに地面から植物を生やしていた植物は巨躯が倒されると同時に消滅をはじめ、丸一日たった今はすでにない。
特に深く抉れている個所は護国獣と巨躯がぶつかった個所で、地形が変わるほど地面が削れて地層が見えている。
「そんな覗き込んでいると落ちるぞ、そこの人。こっちは機械じゃないと終わらんぞ、手作業は小さな足跡を消してくれ」
重機が穴を埋め立て丘の方へと向かって行く。
大勢で抉れた地面を埋める見慣れた光景を背にハクマも任された大穴を埋める作業に入る。
一つ埋めるのに何時間とかかる護国獣の足跡。
「いたよ。ほんとに手作業で埋め立ててる、嘘でしょ」
「肉体労働にいそしんでいるわねぇ」
聞き覚えの張る声が聞こえハクマが振り返ると、カヅキとメノウが長く伸びた草をかき分けやってきていた。
「久しぶりだね、元気にしてる?」
「二か月少しかしらね~。少し日に焼けてるけど、ずっと足跡を埋めているのねハクマ君は。これやったことないけど、大変でしょ~」
ハクマは作業の手を止め二人の方へと向かう。
「なんですか、こんなところに来て?」
「ここ虫多いね、私あんまり好きじゃないんだ虫」
「ルツキちゃんがあなたをここらへんで見かけた言ってたから見に来たの~。あなたが居なくなって意気消沈してこっちもメンタルケアが大変なのよ~」
「それで、ここには近況報告をしにですか? それとも俺の正式な処分が決まったとか」
「とくには決まってないよ」
「というか護祈には共有されたみたいだけど上の方には報告が行ってないみたいなのよ~。隊長が止めたのかしらねぇ」
「じゃぁなんですか? わざわざ虫が多いこんなところに来てまで」
「ほんとだよ、ハクマ君の仕事終わってから会いに来ればよかったのにさ」
「逃げられたり、護祈にかくまわれたりでもしたら面倒だなぁ~って思ってね~。護祈の話し相手としてあなた微妙に評価されているらしいわよぉ~」
「護祈って、ルツキさんとラショウさんしか知らないんですけど」
「黙って話聞いてくれる人間はそんなにいないんでしょ護祈は」
「私たちはサポートチームの中でも異質なのよ~。距離が近く、普通の人は知らない護祈しか知らない情報を知っている、情報にアクセスできるユウスイちゃんと兵器の操縦免許を持っているのカヅキちゃんのせいだけどねぇ。だから、護祈はあなたみたいに巨躯の事を知り護国獣のことを知るあなたを護祈は欲しがっているのよ~。あなた護祈、護国獣、巨躯やアースライトについて多少とはいえ知っているから野放しにはできないのよ~、そこわかってる?」
「そこはまぁ、入隊してから知らない情報ばかりサポートチームに入ってから毎日見ていましたから変だなとは」
「まぁ、普通に働く分には必要ない情報だからね。戦車隊もいざという時のために護祈との接触は最低限にしかかかわらないようになっているし」
「向こうで話しましょうよ~、ちょうどよく車が通った跡で草が踏み倒されて開けているしね~」
三人は重機の通った草が倒された場所へと移動する。
遠くから見ると脈動緑鱗の通った個所から離れた場所に影刃青輝と思われる足跡が点在しているのが見えた。
「さっきのいざという時って何です?」
「護国獣が暴走した際に戦車隊で討伐できるように。ほら、護国獣って強さはスケール2程度なんだよ。そのため」
「別に気にしなくていいのよ~。今までに起きたことないしねぇ、人が扱うものだからセーフティーは必要ってことだけよ~。そんなことより本題」
メノウが携帯デバイスを取り出しハクマに差し出す。
画面にはルツキのもとへの転属願いと移っており名前を書く欄が点滅している。
「ええとねぇ、ルツキがあなたと話し合いたいといっています。今あなたは形的には護祈ラショウの下についています。あなたがルツキのもとへと戻りたい意思を示せば」
「フワフワした存在なんだよね。さっきも言った通り野放しにはできないけど他の護祈はすでにサポートチームは整っているし。なんなら半年ごとに他の護祈のもとに点々と移動していく予定だし」
メノウは渋々といった様子で再度端末を受け取るように勧める。
「さて、あなたが決めて。私はあんまり乗り気じゃないんだけどねぇ」
「いや待て。俺はルツキを殺そうとし……」
「それはルツキが許した。ハクマ君の恨みが強いのも知っているけど、一度ちゃんと話し合うことで解決できると思う」




