巨躯 4
装甲車はナビを頼りに視界を奪う強い雨の中を走る。
激しく打ち付ける雨で視界は数百メートル程度、巨躯との戦闘が行われている戦場の誓うに向かっているはずなのにその気配は感じられない。
「あの、これって出撃っすか?」
「そうだねぇ。配属初日で大変だよねぇハクマ君は~」
「いや、それもそうですけど人がいないじゃないですか、こんなので出撃だなんて」
フロントに置かれた誰かの私物であろう首振り人形を眺めていたルツキが呟く。
「この部署の名前知らないで来たのかしらね? ていうか狭い、指揮車両を借りられなかったのメノウ?」
「え~、だって一番近くにあったからぁ。あ、ハクマ君はそこにある戦闘員用のジャケットとヘルメット着ておいてね~、一応戦場に近い場所まで行くからぁ」
「安全運転ね? 急いでいるのよ?」
「だってぇ前が見えないんだもの~仕方ないじゃない~」
「被害が出るわ」
基地を離れれば広がるのはどこまでも畑が広がっていて、畑の管理用の巨大な機材が格納されている倉庫を横ぎる。
「この先に公園があるね~、護国獣を出しても問題ない広さ~」
「わかった」
雨の中、遠くで雷ではない色の光が瞬く。
装甲車は速度を落とし停車するとルツキはドアに手をかける。
ドアを開こうとしたところでスピーカーにノイズ交じりのユウスイの声が入った。
『あ、の、さ。私、ちゃんとした機材のない仕事が嫌だと、なんども嫌いって言わなかったっけ?』
「よくこの車両のチャンネルがわかったねぇ」
「つながったのね! それじゃ援護を頼むわユウスイ。とりあえず、今蛇茨腐液が何処にいるのか教えて頂戴」
『聞けよ、おい!』
ルツキは大雨の中に飛び込むと公園の中央へとむけて走り出す。
引き留める間もなく傘もささずに雨の中を走るルツキを指さしユウスイと話を進めるメノウを呼ぶ。
「出てっちゃったぞ一人で、止めなくていいのか?」
「ん~、じゃあ離れるからね~」
装甲車は公園から離れていき公園の真ん中に到着したルツキはユウスイと連絡をとる。
「ユウスイ聞こえている?」
『もちろん。メノウともつながっているからそっちを切る、ああ遅延とノイズがひどい。港近くの海岸で戦車隊と交戦中、他の護祈はまだ動いてないみたい。隊長が認可取ってくれた、いいよ戦って』
「ありがとう」
『仕事だからね』
胸元から護国防衛隊のロゴが意匠されたペンダントを取り出すと両手で握り祈りを込める。
するとペンダントは眩い光が輝き始め、光がルツキを飲み込むとそのまま光は広がっていき公園全体を包む。
公園から離れる装甲車からその光を見ていたハクマが訪ねた。
「あの眩しい光は」
「アースライトの光だよ~。ルツキちゃんが護国獣に変身している光。私たちの仕事はルツキちゃんの世話をし戦場に届けることと戦闘後に回収すること」
広がった光が形を作っていき巨躯へと形を変える。
「あれが護国獣……」
「あの護国獣がうちの護祈の影刃青輝~」
二足で立つ肉食恐竜のような形をした80メートルの体。
細身で流線形をした体その背には目立つように鎌のように変形した大きな鱗が3対生えた銀色の巨躯。
光が収まると巨体は動き出し公園を出て雨の中にへと消えていく。
「護国獣……前にも何回か見たことがあるけど皆恐竜型なのか?」
「そうだよ~、性格には恐竜ではないけどそういう形~」
「でもあの護国獣はなんか体が細いですよね?」
「ああ、気が付いた~。雨なのによくわかるね、ルツキちゃんは他の護国獣とは少し違うよ」
装甲車は路肩に停車しモニターに巨躯を映す。
「さて、あとは勝って帰ってくるのを待つだけだよ~」
走り出す影刃青輝、他より足の速く作られたルツキの護国獣は地面を抉るように蹴り海岸線に出る。
一度足を止め周囲を見回す。
『巨躯の近くで信号弾が上がってるはずだけど、見えない?』
「見えたわ。戦車隊の位置を教えて」
防衛隊は蛇茨腐液を港から離れた場所に誘導し戦闘を続けている。
戦車をよけて移動し緑と紫のまだら模様の巨躯へと近寄ると、体を傾け背中の尖った鱗を押し付けるように体当たりを食らわせた。
大きな衝撃と水しぶきが上がり戦車隊に気をとられ大雨の中からいきなり現れた影刃青輝の攻撃を受けて大きく吹き飛ばされる。
体当たりで吹き飛ばした蛇茨腐液に向かって吠える影刃青輝。
音の衝撃波が雨を吹き飛ばす。
蛇茨腐液は起き上がり発行する無数の花が影刃青輝の方へと向き溶解液を吐く。
溶解液は周囲に飛び散りいくらかが銀色の鱗にかかり、白煙を上げ影刃青輝が泣き叫ぶような鳴き声を上げる。
二匹の巨躯は向かい合いお互いに距離をとった。
戦闘の邪魔にならないように戦車隊は引き、海上から防衛隊が高速船が艦砲で攻撃を行う。
影刃青輝は腕を伸ばすと背中の鎌のようにとがった鱗を引き抜くと蛇茨腐液へとむかって突進し削ぐように花を刈り取る。
溶解液を周囲にばらまき反撃を試みるが白煙を上げながらも攻撃は止まらない。
二体の接近に艦砲射撃も止まり地響きと巨体同士がぶつかり合う音が雨音に混ざって響く。
「あれは」
「かっこいいでしょう、武器使う護国獣はルツキちゃんの影刃青輝だけだよ~」
ただ攻撃を受けているだけでなく影刃青輝の肩に噛み付くがすぐに引きはがしその頭の花へとむけて鎌を振り落とす。
最後に頭に鋭利な鱗をたたきつけると蛇茨腐液の体にひびが入ると、体が崩壊し始め戦闘が終わる。
『戦闘終了、早く迎えに行って』
「了解~向かうよ。どこの広場に向かえばいいかな~」
『白帝港13番公園』
「はいよ~」
装甲車は素早く指定されば場所へと向かう。
巨躯との戦闘で地面や道路が大きく抉れ、戦闘が行われていた周囲には防衛隊の車両が多く泊まっている。