移動災害 3
一日の仕事が終了し、基地へと戻り宿舎へと帰る。
ラショウはその日は帰ってくることはなくハクマは筋トレをして眠りにつく。
次の日起床してからしばらくして防衛隊式の起床アラームが鳴りハクマはスピーカーに目を向ける。
「これって、起床用じゃないですよね。普段ならないし」
「さすがに二度目で気が付いたから、巨躯出現アラームだ。交代で睡眠しているものを叩き起こす意味では起床用だ」
護祈宿舎だけでなく基地全体で慌ただしくハチの巣をつついたかのような騒ぎになっていた。
普段は多少はメンテナンスなどで出撃しない車両も次々と人を乗せて基地を出ていく。
サポーターチームも準備のできたものから宿舎の外に出ていき整列して車両に乗り込む。
ハクマはそんな様子を見ながら指示が出るのを自室で待っていると双子の片割れが部屋に入ってくる。
「スケール4が現れた。この地域すべての護祈が討伐に投入される今ここにいないラショウさんもだ。俺たちのすることは変わらない、道路封鎖に向かうぞ」
準備のできた戦闘ヘリが次々と戦場へとむけて飛んでいく。
「すごい量だ」
軽装甲車に乗り戦場付近の道路へと向かっていると、さらに別の基地から戦場へとむけて飛行する戦闘ヘリの一団を見かける。
プロペラ音が遠のいていくのと同時に雷雲のようなゴロゴロという重たく響く音が何処からか聞こえて始めた。
「この国4体目のスケール4か」「今までも倒してきてんだ今回も大丈夫だ」
「自分の仕事に集中しろ、今回は騒がしくしているからいつも以上に集まってくるぞ」
「手際よく捕まえていかないとな」「他の基地からも防衛隊員が来てるんだろ、うまく連携すれば」
侵入者警戒用のドローンが低い位置を飛んでいて、侵入者の発見があるとバイクが道を外れて追跡を開始し車列から離れていく。
封鎖場所に到着し待機が命じられ、ハクマは車内で戦闘音が響く方を見る。
まだ日は高く、高く舞い上がった砂煙が丘の向こうに見えた。
「封鎖範囲が広がった。移動する」
「鉄艦港がある海岸沿いで止められてないのか」「どこだったか忘れたけど、この間も陽動を無視する巨躯が出てたんだっけな」
道路封鎖をしていたバリケードの撤収作業を手伝い新しい封鎖ポイントへと向かう。
移動中に20両の戦車隊とすれ違う。
「さらに戦力の投入」
「向こうは苦戦しているみたいだ」「おいあれ、あの丘の向こう」
すれ違った戦車の後ろを見送っていた双子の一人が丘の向こうを指さす。
周囲の丘の高さを越える成長の速い植物が見え、その蠢く緑の中に巨躯の一部らしきものが見えた。
巨躯は丘を登り追いかけてきた護国獣とともにその姿が見える。
並ぶと差異はあるがシルエット的にはよく似た護国獣。
「あれが脈動緑鱗、今回現れた巨躯か」「周囲に展開する攻防一体型の木々で護国獣が接近できていない」
「あれはこの間の海にいた……、倒してなかったのか」
巨躯を追いかける二体の護国獣が取り囲んで光弾やビームを放つ姿が見える。
周囲で急成長する木々が吹き飛び、防壁を抜けた攻撃が巨躯の体に傷をつけていく。
「見た感じ巨躯を圧倒しているように見えますけど」
「ああ、単体の方さと攻撃力はスケール3の下の方だと情報が入っている」
「あれ、でも今回出現したのはスケール4なんですよね?」
「自己複製し同時に4体今あの巨躯と戦っている、それと背中にある赤い点が見えるか。あれが地面に落ちると回転し移動するスケール1の巨躯を生み出す、戦闘ヘリや戦車隊はあれの対処を行っている」
攻撃を受けていた脈動緑鱗の体が唐突に大きな音を立てて裂けはじめ、その体が分裂した。
『夢龍聖懐、護蒼豪腕と戦闘中のナンバー4の巨躯が分裂! 分裂時にスケール1の巨躯が発生、数約30!』
二匹に分かれた巨躯は左右に分かれ追ってきた護国獣へとむけて木の蔦を伸ばす攻撃をする。
脈動緑鱗の足が止まり護国獣は周囲の木々を踏み分けて取っ組み合いを始めた。
「速度を上げる掴まれ!」
車列が速度を上げ乱暴な運転になり、身軽なバイクは一気に速度を上げて車列から離れていく。
丘の下、森を抜けて真っ赤なイガグリのようなものが高速で回転し道路も畑もお構いなく車列へとむけてまっすぐ向かってくる。
「巨躯接近、向こうの方が早いぞ!」「ビームは撃ってこないよな、体当たりか、自爆か!?」
「ほら、武器の携帯を認める。車両を守れ」
ハクマに銃が渡され窓から身を乗り出しアースライトを使う銃を構えた。
取っ組み合いのさなかに放った夢龍聖懐の細いビームがいくつか倒すが、巻き上がった土煙を抜けて二つ転がってくる。
数が二匹に減ったことで車内に安堵の息が漏れたが、無線が入りすぐに社内の空気が変わった。
「侵入者だ! 近くに侵入者がいる」「しかも巨躯の方も一匹向きを変えたぞ、気づかれた!」
「くそ、犠牲者を出させるわけにはいかない、追え!」
悪路でも機動力のあるバイクは先に行ってしまい、ハクマの乗った軽装甲車は車列を離れドローンを目印に侵入者のいる方向へと走り出す。




