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移動災害 2



ハクマは夕食を取り就寝までの時間を宿舎の訓練所を借りて筋トレを行っていた。

普段は使われていないのか部屋の端に誰かの私物が積まれいくつかの道具は物干し材のような使われ方をしている。

監視の大男を同室の双子が訓練室の入り口で見ているが話しかけてくるものはなく冷たい視線が向けられていた。


「そろそろ就寝だぞ、こんな時間まで筋トレして疲れてないのか?」「汗臭い匂いが部屋に充満するのは嫌だ、シャワー室に行け」


双子がやれやれといった様子でハクマに話しかけると自室へと戻っていく。


「もうそんな時間か」


筋トレをやめてハクマは使った道具を片付け始めた。


「睡眠時間が短かったのにこんな時間まで元気だな」


残っていた大男が部屋の入り口で腕を組んだまま話しかけてくる。


「一応は防衛隊で働いていたんだ、短く寝る訓練も一日中働いても疲れない体力もある。久々の運動量だったけど、まだいけそうだ」

「お前は毎日筋トレをしているのか」


「ああ、いざという時のために力をつけている。目の前の瓦礫一つ持ち上げられないのは嫌なんだ。あんたこそずいぶんと体格がいいな、何かやっているのか」

「昔、スポーツをしていた。成績はそれなりであちこちの大会にも出ていたがチームメイトを巨躯災害で失った。俺は巨躯を恨んでいる。おしゃべりは終わりださっさとシャワー室へ行け」



それからハクマはしばらくの間は大きな巨躯と護国獣の足跡と戦闘の爪痕を消す仕事を行う。

働くうちに同じ仕事を行っていた防衛隊員とも親しくなり、ハクマは彼らとともに配給されるお弁当を食べる。


「兄ちゃんよく働くね、護祈のサポートチームの人なんだってな。そんな高そうな服を着て毎日土仕事なんて」

「ほんとほんと、そんな服装で力仕事なんて気が狂ってるよ。熱くないのかい」

「ははは、いやー、そうですかね。この服、意外と通気性がいいみたいで」


ハクマよりガタイの言い力仕事に慣れている防衛隊員に囲まれていた。

彼らは重機の影で食事をとり昼休憩が終わるまで自分たちの仕事の後を見ながら話している。

草木がなぎ倒され廃墟の町が無残に放置され大きな穴が開いて荒れ果てていた大地も、埋め直され木々の苗木が植え直されて仕事の終わりが見えてきていた。


「あんたみたいなのがこんなところで仕事してるなんてね、てっきりお嬢様と毎日お茶会を楽しんでる自分は選ばれた人間だって顔してるエリート気取りばかりだと思ってたんだけど、あんたを見て見直したよ」

「作業時間は短いが素手で毎日よくやるよ、人手と重機に空きがあったら渡してやりたいくらいコツコツと頑張ってなぁ。あっちの無口な兄ちゃん労ってやりたいが、もっとこっちくればいいのに」


防衛隊員は大男の方に手を振りこっちは来るよう呼びかけるが大男はジェスチャーで断る。


「体の大きさの割にはシャイなやつだ」

「兄ちゃんはここで戦った護国獣の夢龍聖懐の戦闘跡を消したら終わりなんだろ。俺らはこの後、あの影刃青輝の後始末なんだ」

「ああ、影刃青輝……」


「知ってるかい? 毎回ひどいもんだぜ、戦闘のたびに走り回るもんだから穴だらけで」

「おまけに巨躯と取っ組み合いになるとすぐ力負けしてよかった背中の鱗で大穴開けてくれる。しかも、他の護国獣より出撃回数が多くて多い時だと5つくらい連続で影刃青輝の付けた穴埋めだ、もう名前を聞くだけで気が滅入ってくるよ」

「そうなんですか、護国獣が戦った後なんて今まで気にしたことがなかったもので、足跡一つ埋めるのがここまで大変な仕事だなんて思ってもみませんでした」


「いくら早期決着がつくからって、あれだけ地面ひっくり返されちゃあな」

「楽できんのは戦闘部隊と道路封鎖している連中だけで、こっちの後始末係は膨大な作業量に溜息が出ちまう」

「戦場を走り回っているのを見たことがあります」


「サポーターチームってことは兄ちゃんは他の護祈の人も見たことがあるのか?」

「影刃青輝の護祈に合うことがあったら、他の護国獣の様にもっとおしとやかに戦うように言ってくれないか」

「まぁ……機会があったら、言ってみます……」


「さて、休憩時間も終了だ。もうひと踏ん張りかんばりますか!」

「じゃぁな兄ちゃん、またどこかで出会ったら声かけてくれよ!」


その日の夕刻、共に足跡を埋めていた防衛隊員たちと手を振り別れを告げて帰路に就く。


「今日で穴埋め作業は終了だ」

「結局、二週間以上穴埋めしてましたね。巨躯も現れずただ平和な時間が過ぎて」


自分が数日かけて埋めた巨大な足跡らを最後にもう一度見て満足そうな顔をしたハクマ。

そんなハクマの横で大男は淡々と答える。


「この二週間で巨躯は4体出ているぞ、ただ情報が降りてきていないだけだ。お前には情報端末の支給もなかったからな。とはいえ護祈カララショウに関係があること以外は皆無関心だから宿舎で耳にすることもなかっただろう」

「4体、その巨躯らのスケールはいくつだったんです」


知らない間に巨躯が現れていたことに驚きつつハクマはそれとなく尋ねる。


「戦いもしないのに気になるのか、スケール2が3体、スケール3が1体だ。護国獣が出撃したのはスケール3だけだな」

「情報が遮断されると何もわからないよな」「しかもその情報が正しいとも限らないしな」


「どうして、巨躯の出現についてサポーターチームで話し合ったりしないんですか?」

「戦いもしない俺らが話し合ってどうなる?」

「ラショウさんは戦闘が嫌いなんだ、話題にするだけでも機嫌が悪くなる」「特にこの間の戦闘で顔に後ついたから、ずっとご機嫌取りに忙しかったしな」


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