移動災害 1
日没までハクマは抉れた地面の修復を行っていた。
大型の輸送トラック、浮遊車など多くの車が行きかいハクマの前を通り過ぎていく。
すこし道路から離れると車の走行音も小さく聞こえなくなり、風に揺れる草木の音が響くだけ。
のんびりとした時間が過ぎる中丸一日かけて足跡一つを埋め、次の足跡の方を見ながらハクマは渡された飲み物を飲む。
「そろそろ帰るぞ、迎えが来た」
「まだ日が昇ってますけど」
「すべての予定はラショウさん次第で決まる。わかったなら迎えの車に行くぞ。使った道具は向こうに片付けろ」
重機を使った大きく地面が抉れた個所はいまだに修復中。
山から転がってきた大岩が近くにある建物への道を塞いでいたため砕いて撤去していた。
大男とともに迎えの車に乗り込み基地へと帰還する。
「今日一日かけて埋めた地面に何か意味はあるのですか? 畑とかなら直す必要も感じられましたけど、俺が担当の場所はただの草むらでしたが」
「意味はある、戦闘の後は道の景観が大きく損なわれる。他国から観光に来た人間が、抉れ壊れ荒れ放題の大地を見るのと整地され奇麗な大地を見るのどっちがいいと思う」
「道路わきなんか見るんですか?」
「さぁな、国からの指示だ仕事だからやる。ボランティアでやっているわけじゃない。何より護祈が地形の破壊を気にせず気持ちよく戦える」
「誰も踏んでない雪原や砂浜みたいなものを作るために今日体を動かしたのか」
「そういうな。使われていない廃墟の撤去や生態系を守るためと考えろ。戦闘で被害を受けた場合は解体費用と自然保護費用が出る。ああ地面に巨躯が隠れていないかを調べる役割もあるしな」
「巨躯が地面に? 隠れられるんですか?」
「数メートルのサイズ。言い方が変だが本体から分裂した小さな巨躯は地面に潜み頃合いを見て地上にはい出てくる。こういった穴埋め作業をしていればそういったものも早い段階で発見できる」
「小さい巨躯か、一回だけ見たことが。地中には隠れていなかったけど異形の化け物が迫ってくる姿は恐ろしかったな」
「戦車などで倒せるスケール1の巨躯。それでもアースライトの力で未知なる力を使ってくるが」
基地へと帰るとハクマは一つの部屋へと通される甘い香りの部屋。
椅子に座り端末をいじるラショウの護衛に4名ほど部屋の脇に立っている。
「よく来てくださいました、昨日の戦闘で少し傷があるのはあまり気にしないでくださいね。さてお夕飯まで時間がありますね。そこへ座ってください。さてさて、質問に答えてもらいましょうか」
部屋の真ん中にポツンといすが置いてありラショウが座るように促す。
ハクマは居心地の悪さを感じながらも椅子に座る。
「お茶でも飲みながらでもお話ししようと思ったのですが、もうすぐ夕食ですからね。お菓子はダメと怒られてしまいました。ああそうそう、本日は一日、戦闘後の後始末をしていただいたそうでありがとうございます。あなたがたの仕事のおかげで私たちは遠慮なく戦えるんです」
デバイスを護衛の一人に渡しラショウはハクマを見た。
前髪を片方降ろして右頬を隠しているラショウ、髪の毛の隙間から横に伸びた痣のようなものが見える。
「さてさて、体は疲労していますが心はそこまで疲れていませんね。本当に体を動かすのがお好きなんですね。では、ルツキの普段の生活について色々聞かせてもらいましょうか」
「いったい何を話せばいいのですか?」
「あの子の作る料理の味についてとかどんなものを作るとか教えてください、知っているんですあの子は普通の生活にあこがれがあると。私たち護祈は護国獣となる力がある以上普通の生活は願っても叶わないことですからね」
「そうなんですか?」
「あの子の家族ごっこはまだ続いているんですよね。私たちには家族がいないからあれが正解なのかわかっていないけど、他人から見てあれは家族と呼べるのですか?」
「……さぁ、俺も両親はいなかったし、姉しか」
「その顔はあまり知らないようですね、ルツキから聞いていませんか? 我々護祈は護国防衛隊結成以前の巨躯災害で孤児になった子たちなんですよ、私たちを買い取り護祈にした巨躯の研究所のおじいさんはいるけど、家族……かぞく? あれは家族だったんでしょうか?」
「さ、さぁ、俺はその人を知りませんし」
「こちらが喋ってばかりですね。話しているとつい楽しくなってしまって、いけませんねこちらは話を聞きたい側なのに」
ラショウは髪の毛で隠している紫色に変色した痣を指でなぞる。
「その怪我、今日何処かにぶつけたんですか?」
「昨日の巨躯との戦闘で顔に攻撃受けちゃってね、相手がどう動くか少しわかる力があるのに戦いで全く生かせないのは歯がゆい。触ったら痛いのにむずむずするからつい触れてしまう。戦闘中戦いながらバリアは咄嗟に張れないのよね。反射神経鍛えるなんかいい方法はないでしょうか?」
「巨躯で怪我をすると生身も怪我をするんですか?」
「だいぶ軽減されるけど痣として表面的には出ることもあります。護国獣として戦っていて死ぬ可能性は低いですけどこうして体に後は残ります。数日で完治はしますけど」
護衛の一人が歩いてきてラショウに耳打ちする。
「あら時間、夕食にしましょう? ルツキの話を聞きたかったのにこちらが喋り続けるだけになってしまいましたね。また近いうちに時間を作りますから私とのお話に付き合ってもらえますか?」
「あ、ああ、はい。お願いします」




