燻る煙 4
廊下にはハクマの監視につけられた大男が立っていた。
「……これから訓練か、朝食か?」
「仕事だ、巨躯が出た。これから討伐に向かう」
「俺の仕事は?」
「道路封鎖だ、非戦闘部隊として働いてもらう。最低限の装備は支給される」
ハクマは軽装甲車に乗せられて護祈の乗る装甲車一両を残して、バイク4台を含め10台の車列が基地を出る。
「おい新入り、お前の装備だ」
「どうも」
ハクマの隣の大男が座り窮屈な思いをする車内で渡されたのは通信機と発行機能の付いた防弾チョッキ。
「不審人物はこっちで探すから、お前は他と一緒に対処に迎え」
「不審人物の対処?」
「チッ、この新入りは本当に新入りか? 情報局やその他の巨躯の映像を撮って稼ごうというやつらだ。護国防衛隊は巨躯との戦闘で犠牲者を出さないための組織だ、護祈の方が身を挺して戦っているのにわざわざこういう危険な場所に自ら飛び込もうとする輩を捕まえ追い返すのが我々の仕事だ」
「そんな奴がいるんですか」
「いるからこんな仕事があるんだろ」
基地から30分ほど走って車両は止まった。
道の真ん中に防衛隊の車両が止まり、その前に立体映像で道を遮るパイロンが置かれている。
先の防衛隊の隊員が規制線を張り車両に迂回路を提示していて、サポートチームは防衛隊と合流し情報を貰う。
「ここからだと巨躯は見えないな」
到着時に人員の移動があり大男は消え代わりに双子が角間と同じ車両に乗ってくる。
巨躯との戦闘に巻き込まれないよう道路封鎖をしている場所は数キロ離れていて、耳を澄ますと遠くからわずかに戦闘音らしいものが聞こえた。
ハクマが受け取った装備を身につけてていると車両から暗視カメラを乗せたドローンが数機まだ暗い空へと飛び立つ。
『早速発見だ、ここから二百メートルほど先の建物の裏に停車する不審車両。まだ人がいるな、すぐに迎え』
指示を受けすぐに一緒に来ていたバイクが2台走り出す。
「こっちはいかないのか?」
二つのテールランプを見送りながらハクマが訪ねると通信機が次の指示を出した。
『次だ、二キロ先。森の中に熱源、二人組だなドローンを真上に待機させるからそれを目印に向かってくれ』
指示を受けて車両が道路から離れ整備されていない草むらを走りだす。
「本当に要るんだな……」
『次だ、5キロ先……この人数は情報局だな。見た限りでは16名、ドローン警戒用の電子装備が見えるからこれ以上は近寄れないな。豪胆にもオフロードバイクで道路から離れ細いあぜ道をライトを消して走っている。位置はこちらからナビするすぐに向かってくれ』
運転手が外へと向かってジェスチャーをするとハクマの乗った軽装甲車が道を外れて走り出した。
整地されていない荒れ放題の野原にサスペンションもあまり機能せず車両は小舟のように揺れながら走る。
「情報局は国からの指示で情報を戦闘が終わらないよういわれ、防衛隊との協力関係にあるではないんですか?」
「表向きはな。都市の富裕層は刺激を求めている」「他のやつらもアングラなサイトに動画を流し小遣い稼ぎをしているんだろうよ」
「なんでそんなことを」
「しったことか。規制されれば見たくなる」「破廉恥なものも残酷なものも変わらないんだろ」
ハクマの隣に座る双子が交互に返事を返す。
「たしかこの先の丘を越えられると道路に出られるな」「あぜ道を走ってる今のうちに止めないと、広い所で分散されればこっちの手に負えなくなる」
話している間にあぜ道を走るバイクの姿が見えてくる。
「見えた。警告の後すぐに奴らを捕まえる」「おい新入り、こいつの使い方はわかるな!」
追加の装備がわたされる、白く角ばった折りたたみの拳銃のようなもの。
小さく分かれた巨躯からルツキを守るときに使った障壁を発生させる装置。
「わかりますけど、これをどう使えば」
「すでに包泡状態になっている。バイクを直接狙え」
「包泡?」
双子は天窓を開き身を乗り出して銃を撃つ。
すると小さなオレンジ色の泡が放たれ最後尾を走るバイクに命中する。
命中後勢いよく泡が大きく膨らみ、その中にバイクが搭乗者もろとも収まりその場に転がった。
「何している!」「働け新入り!」
「あ、はい」
連射速度が低く車体が揺れることもあり泡の命中率は低く、何もない所にポンポンと丸い泡ができる。
泡に捉えたものは放置し車は逃げるバイクを追い続けた。
「あれは放っておいても逃げられたりしないのか?」
「仕事に集中しろ」「あれは1時間はあのままだ放っておけ」
バイクの残りは3台。
しかしそこで丘を越えられ、バイクは道路に到達し二手に分かれられる。
車両は迷わず数の多いほうを追いかけた。
「向こうはドローンが何とかする」「ドローンジャマ―を持ってるやつはもう捕まえてるからな」
その後、数分でバイクはすべて捕らえられ一息つくハクマだったが、侵入者すべての確保を確認すると車両は全速力で道路を引き返し始める。
「何終わった気でいるんだ次だ」「しばらく使わないから銃を返せ」
護国獣が巨躯と戦っている間、車両は絶えず道なき道を進もうとする侵入者を捉えるために動き続けた。




