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燻る煙 1


テーブルに紙パックを置きハクマを見るルツキ。


「覚えているの、あの日のことを? どこまで、あなたはどこまで記憶があるの」

「ふざけるなよ、全部だ! いくら、動画を消そうと記憶からは消えない」


「犠牲者がでたあの戦いの記録は少なく、そのほとんども消されてしまっている。……あなたの家族は、どんな最後を」

「姉さんの結婚式の日に巨躯が現れた。ああ、あの日は風もなく雲も少ない、いい天気だった。早い時間に俺と姉さん、それとラキさん……姉さんの結婚相手が今日の打ち合わせの為に早く教会に来てたよ」


それを聞いてルツキは目を伏せる。


「あの教会……新郎新婦の犠牲者、あなたのお姉さんだったのね」

「両親が事故で死んですでに働いていた姉さんは学生だった俺を育ててくれた。そんな姉さんが、幸せになるはずだったのにあの日。……倒壊し燃える建物の中から声が聞こえたよ。町中で戦闘が起きて集まっていた来賓やスタッフが避難する中、ドレスを着ていて逃げ遅れた姉さんを助けに向かっていたら建物が崩れた。ラキさん……姉さんの結婚相手だった人だ。崩れた協会の中から強い声で、姉さんの仇をとってくれって。かろうじて立っていた教会も戦闘の地面の揺れで崩れその人も行方不明に。7年たっても耳からは消えない、立ち上る黒煙を忘れたことはない」


怒気のこもったハクマの荒らげた声にルツキが竦む。


「町を破壊したのは巨躯よ、防衛隊の誘導も無視して対処に向かった護国獣2体を退けてまっすぐ都市へと向かっていた。だから護国獣として対処した」

「何も町中で戦うことはなかったんじゃないか」


「……町の中に入る前に倒す、つもりだった……」

「でもダメだっただろ駅前の広場を破壊し、都市へとつながる道路を破壊し、街並みを破壊した」


「戦闘のスケールは、私の仕事を見てわかってもらえると思っていたわ。だって、十数メートルの巨体同士の衝突、町の中に入ってしまったら止まれなくなくなった」

「言い訳なんか聞きたくないんだ」


ハクマは反射的に彼女の首へと腕を伸ばし、その細い首を締め上げる。

弁明しようとしていたルツキは伸びてきた腕に反応が遅れ、抵抗のためハクマの腕をつかむが彼女の力では引きはがすことはできない。


「どうして、下に、ユウスイ、たちが、いるんでしょ……」

「鍵はかけてきたしばらくは来れない。本当は部屋から呼び出すつもりだったんだけど、普通にいて驚いたよ」


「こんなことをして、逃げられるとでも。護祈を、手にかけて、あなたは……」

「姉さんの幸せを奪ったお前に復讐できればどうなってもいい。お前を探すために名前を変えて防衛隊に入った。国からの見舞金が入った俺を引き取ってくれるって手を上げてくれた親戚は多かったよ。おかげで気が付かれずに俺は今までここにいた」


彼女は懐に手を入れると護身用の銃を取り出す。

防衛隊のロゴの入った近距離用の小さく射程の短い銃。


ルツキが銃口を向ける前にハクマはすぐに彼女を持ち上げテーブルの上に投げ飛ばす。

首元まで隠れる長袖の上着、厚着をしていてもそれほどダメージの軽減にはならず叩きつけられた衝撃でルツキは銃を手放し、長テーブルの上を転がり紙パックのジュースとともにテーブルの向こうに消える。


「護身用の銃、やっぱり持っていたか。何度かあんたを持ち上げたことがあったがそれらしい感触があったんだよな」

「カフッ」


締め上げられたルツキが顔を赤くし喋れないほどに呼吸ができなくなっているので首を掴む力を弱める。


「私を殺すチャンスはいっぱいあったのに、ケホッどうして今日なの。だって、今まで仲良くやってきたじゃない。だから、これからもうまくやっていけると思っていたのに」

「今まで慰霊祭にはちゃんと出ていたと思ってたんだ。建物の中から出てきて慰霊碑の前に来ることはなかったけど。それが、これだ。俺の家族を殺した元凶は式典に出ずにここでジュースを飲んでいる。これ以上に理由がいるのか」


「私だって、式典に出たいわ。でも、参加は許してもらえないから仕方ないじゃない!」


ルツキが声を荒らげると同時に何者かが建物内に強引に侵入したようで、侵入者を知らせる警報が鳴り響く。


「もう話してる時間がないか」

「もう少しだけ、時間を頂戴。私は巨躯を倒さないといけないから、巨躯を倒し続けるから」


誰かが廊下を走る足音が響いてくるとユウスイが大部屋の前を通り過ぎていき、カヅキが立ち止まってユウスイを呼び戻しながら部屋に入ってくる。


「ルツキ!」


引き返してきたユウスイが息を切らせながら部屋の中を見回し床に落ちている銃を見つける。

ユウスイが落とした銃を拾い上げて構える前にカヅキが横から奪い取りハクマへとむける。


「手を上げて下がって、じゃないと撃つよ。ほら!」

「知らないのか、こいつはあの日、街を戦場にした護国獣。俺たちから大切な人を奪った」


「ほら、早く!」


ハクマがカヅキに向かって説得をしようとするが、彼女は銃の狙いをハクマに定めたまま動かない。


「ルツキは知ってるよ。君のお姉さんのことも、じゃないとわざわざこんなところに君を迎え入れたりなんかしてない。隊長が怪我してたまたま君をここに呼ぶ理由ができただけ」

「あの日の被害者家族の動向は確認できているものについては調べはついている。あんたはバレずにここに潜入しているつもりだったんだろうけど、あんたがここに来る前からどこでどう育ってきたかこっちは知っている。防衛隊がそんなざるに入隊できるわけがないでしょ!」


銃を取り上げられたユウスイが噛み付くように吠え、代わりに拾った紙パックを投げつける。


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