過去 4
護国獣の背中から空に打ち上げられた光弾が弧を描いて巨躯へと飛んでいくが、攻撃は成長する蔦とバリアに阻まれてしまう。
バリアに弾かれた光弾が爆発し海上に浮かぶ木々が燃える。
「あの護国獣はどうして攻撃が散発的なんだ」
「頭の発光器から作るバリアの鋭角で体当たりするのだけど、あの海に広がってる森が接近を拒んでる。攻撃が散発的なのは多分海中からだと海上に浮かぶ巨躯をとらえられてないんだと思うわね」
「このままちまちまと戦っていたら上陸されちまうんじゃないか?」
「そうしたらいつも通り陸上で護国獣が仕留めるだけよ」
「あの動きの遅そうな巨躯はそんなに強いのか」
「海洋型の護国獣の役目はこの国に近寄る巨躯の早期発見と情報の収集で倒すことを目的には作られていないわ。戦闘を期待しないで頂戴、できることをやっているの。この後に高速船で誘導し指定の場所に上陸、戦闘の流れになるわ。今回はおそらくだけど、あの作られている木々が高速船の接近の邪魔になると判断して防衛隊の代わりに前に出てきたんだと思う。こちらが戦いやすい場所に誘導できないと被害が出るから」
「護国獣で戦うのも意外と大変なんだな」
「そうよ、ただ戦うだけなら力を振りかざし地形をめちゃくちゃにしながらでも戦える。他の国の護祈の様にね、でもこの国を守るために守るための戦いをしているの」
「この国を守る‥‥‥。‥‥‥眠くなってきたからそろそろ先に失礼します」
「最後まで応援はしていかないのね、おやすみなさい」
ハクマが部屋を出た後も廊下にルツキとユウスイの話し声が響いてくる。
自室の部屋の扉を閉めると聞こえなくなった。
ルツキの休暇は続きそのまま二日たつ。
その日は朝から皆が慌ただしく動いていており、カヅキが運転する軽装甲車が来るのを待つ皆を宿舎の前まで出て見送りに来たルツキ。
「我々がいない間はしっかり部屋にいるように」
「部屋の冷蔵庫に~お昼とお夕飯が入っているから。あまり物でごめんね。今日中には帰ってくると思うんだけど、遅くなるかもしれないから」
皆軽装ナタメ仕事のないハクマがルツキに話しかける。
「今日は慰霊祭でしたっけ。もう7年前もたつんですね」
「巨躯が町に現れてそれを討伐するため護国獣が町の中で戦った」
「といっても7年たった今も巨躯の名前も倒した護国獣の名前も明かされていない。わかっているのは倒されるまでに2体の護国獣を退けた巨躯ということだけ。やられた護国獣の名前はわかっているのに、どうして倒した護国獣の名前は伏せられているんだろうかルツキさんは知ってたりします?」
「さぁね。今日は護祈も大勢主席するわ。私は情報局のニュースでしか聞けないけど、しっかり私たちは2度とこんなことが起きないように戦う決意を決めないとね」
「そういえば留守番、ルツキさんはいかないのか?」
「ええ、私は休日であろうとなかろうとこの時は留守番よ。ユウスイが寝てしまわないか心配だわ長い話を聞いていると眠くなってくる子だから、一般参加者ではなく防衛隊としていくのだからなおさら」
軽装甲車に乗ったカヅキが宿舎の前にやってくるとハクマたちは乗り込む。
「それじゃ、誰が来ても部屋から出るなよ。今日誰かが来る予定はないからな」
「はいはい、わかったわよ。行ってらっしゃい」
軽装装甲車が発車するとルツキは宿舎へと帰っていく。
7年前の巨躯による災害で犠牲になった人への慰霊祭。
都市の一つからあまり離れていない場所にある町。
戦闘の土地となった町は保存されている建物の基礎部分以外はすべて撤去され、都市の人間が自然を楽しむ大きな森林公園となっている。
町一つ分の広さの公園、巨躯の資料館や遊具が集まるアスレチックゾーンなどいくつもの施設が区画分けされて公園の中にある。
その中の一つ巨躯を倒したとされる場所に広場と噴水、そして大きな石碑が立てられ式典はそこで行われていた。
着慣れない礼服にハクマとカヅキが着心地が悪そうにし、広く明るい空間にユウスイは居心地が悪そうにしている。
都市化が進むにつれて町から人が減り祭などの行事は廃れ多くが消えていった。
それと同じくしてそれぞれの都市で新たな祭りや行事が生まれ、この慰霊祭にも多くのギャラリーが集まり本会場の周辺には屋台が並び賑やかになっている。
それら騒ぎも木々のざわめきで本会場までは届かない。
国や都市の役人に護国防衛隊の高官などが、慰霊碑の前で代わる代わる7年前のこととこれからのことを語っていく。
参列者には多くの被害者とその関係者が集まっているが、戦闘の巻き添えて家族を失ったものたちの参加は少なかった。
「今年も少ないわね」
「思い出してしまうから来れないんでしょ」
空席が目立つ最前列の一角を見て誰かが話している声が聞こえる。
死者、行方不明者を含めて30名以上、その半数は子供で避難に手間取った者たちが戦いに巻き込まれ犠牲になった。
「送迎バスで避難中に踏まれた子供の遺族の人なんてほとんど参加しているのに」
「結婚式の最中に被害にあった人もいたんでしょ、かわいそうに。ご親族の人は逃げられたのに、新郎と新婦が犠牲になって」
「みて、最前列端のあの人。園長さんよ、さっき話した送迎バスの」
「あの人? たしかまだ50代なんでしょ、老けてるわ」
子供たちによる献花の列を見ながらハクマはそのまま静かに空を見上げる。
土煙と黒煙が空へと立ち上り。破壊音と地響きがいろんな方向から聞こえてきたその日の景色。
巨躯の攻撃の余波で故障し動かなくなった全自動の建物の中から聞こえる悲鳴。
何処からか聞こえていた声は式典スタッフのお静かに願いますという一言で途絶えた。
巨躯が町を襲撃した時刻になると大きな鐘の音がなり皆が数分間、木々の騒め生きと噴水の水の音だけが響くほどに静かに黙祷する。
護祈は式典会場すぐ近くにある建物の中から式典を見ていた。
皆ルツキの着る巨躯と戦う際に着用する白く仰々しい服を着用し、顔は見えないようにベールのようなものをつけている。




